ニューヤード平原制圧戦【2】
「正直に言うけど、何人生き残れるか分からない」
全員に作戦を伝える際に、本郷が最初に伝えた言葉だった。
出来る限りの準備はしたつもりだが、それでも圧倒的な戦力差の前に1人も死なずに生還できる見込みがない。予想では半数、いやもっと少ないかもしれなかった。
地図を広げ、全員に概要を説明していく。
「前日夜に左右から手榴弾で注意を引き付けておいてほしい。もちろん投げたら即後退だ。その間に俺が敵基地の前に馬房柵を置いて、その隙に壁と物見櫓の設置にかかる。ここでバレたら全部おじゃんになるから気を引き締めてほしい」
本郷は全員の顔を見渡すように見る。全員の顔は鬼気迫るものがあり、ピリピリとした感情が、その場の空気に押しつぶされてしまうかのように重い。話を続けていく。
「砲撃と向かってくる敵の対処はアイネに指揮を任せようと思う。距離の観測や射撃はトップクラスだしな。基地の右側はジェリーを隊長に副隊長はベアーズ、左側はコブスが隊長で俺とマウシーが副隊長だ」
「口を挟んで済まないが、タイチは砲撃にまわるべきだ。これの扱い方を一番知っているし、何よりお前さんは一番戦力にならないだろう?」
ははは、と部隊から笑い声が上がる。立案したからには一番危険な場所に立つべきだろうと思ったが、コブスのよう通り、今や獣人達の方が本郷よりもはるかに強い。コブスの冗談で少しは緊張が解けた様だ。
「……分かった。それじゃあ俺が砲撃の指示にまわるから、アイネは狙撃に集中してほしい」
「分かりました!」
本郷は元気よく返事をするアイネに、また少し部隊の空気が軽くなったように感じる。
「それじゃ続けるけど、まずは前線部隊による大砲の一斉射撃で敵を炙り出す。射程外からの攻撃に対処しようと焦って基地の中から大勢出てくるはずだ。それを出来る限り引きつけてから大砲の砲撃と銃による射撃で潰していく。信号銃で合図を出したら左右から挟撃開始だ。」
「なるほど。大砲は確かに強いが、一発で当たる数が少ない。敵も数百から下手すれば千単位で出てくるぞ? そうなれば広範囲をカバーできないんじゃないか?」
「コブスの意見は最もだね。そのためにレッグスにこいつを持って来てもらったんだ」
本郷はレッグスがアウグスタから持って来ていた物を木箱から取り出すと全員に見せる。
赤・青・黄で塗られた砲弾を並べていく。
「この赤いのが、この間試射したときと同じで『徹甲弾』って言っても分からないか……。えっと、城の破壊とか一ヵ所に大きなダメージを与えるときに使うもの。こっちの青いのが『榴弾』っていって、爆発すると破片が広範囲に飛ぶように出来てる。対人用って覚えてほしい」
「なるほどね。タイチちゃん、そっちの黄色いのは?」
「これは……『焼夷弾』だ。できれば使いたくないな。中に可燃性の高い物質が入ってて着弾したら周囲に引火する。それから燃える際にガスも出るからこれは風向きにも気を付けなかきゃいけない。下手すれば窒息死の可能性が高いからこの使用は俺が指示する。」
焼夷弾の使用に関しては迷っていた。どちらかと言えば非人道的な武器に扱われるほうが多い。ナパーム弾やクラスター爆弾に、対人地雷に関しては書き上げてはいるが渡していない殺傷力の高さもあるし、後々撤去などでも問題になる。
「少なくとも射程と、設置する防御網から考えてしばらくは時間が稼げると思う。敵も馬防柵が邪魔で動きにくいだろうし、こっちは動いてる敵を攻撃する分、有利だしな。その間に左右両側からの挟撃だ」
「基地の後方側は制圧しないのか? 敵が逃げ出すかもしれんぞ?」
「それでいいんだ。突入部隊の目標は司令官と高官、隊長クラスだけに絞る。頭を抑えれば散り散りになるだろうし、1人逃げ出せば続く奴らも出るだろうしね」
敵が減るのであればこちらの被害も抑えられるかもしれない。しかしそれは後ろからの援軍があれば入ってきてしまう危険性もある。一か八かでの賭けでもある。
「突入後はコブスとジェリーの部隊は敵高官、対応クラスの優先的な制圧で頼む」
「分かった」
「了解よん♪」
「ありがとう。基本的に個人行動じゃなくて4~5人1チームになる様にして行動させてくれ。俺が伝えた方法で訓練はさせたんだろう?」
「あぁ」
本郷が建築の職人たちに作ってもらった訓練場の施設は建物である。とはいっても中身は何もない。最低限の外壁を作っただけのハリボテみたいなものである。それを建物内での戦闘訓練として取り入れていた。
「あっ、そういえばレッグスにもこれを頼んでいたんだったな」
本郷は木箱から別の銃を取り出す。
「これはコブスとジェリー用に先行で作ってもらった散弾銃だ。普通の銃弾じゃなくてこっちの弾薬を使ってほしい。こんな感じで弾倉に5発と薬室に1発まで装填できるから。それと、レバーじゃなくてこの手前のポンプをガシャンと引けばいい」
「この弾薬、まるで小さい鉄の筒、いや瓶みたいな形だな」
「中に更に小さい鉄の粒が入っていて撃った瞬間から拡散して飛ぶ仕組みだから至近距離向けだ。相手の身体がはじけ飛ぶかもしれないぞ」
実際に弾の装填を二人の前で実演して構え、ガシャンとポンプを動かして弾の交換についても説明する。
「あらー、これなら銃のへたっぴなコーちゃんでも当たるわね!」
「うるさいぞジェリド、私が銃を嫌っているんじゃない、銃が私を嫌っているんだ!」
まるで夫婦漫才を見ているようだ。コブスには正妻がいるけれど。
「後は出たとこ勝負ってところかな……。それじゃ、俺と、組み立て班はこの後、前線に移動、左右強襲班は森を迂回して敵に見つからないように! では解散!」
全員が持ち場に着く様に移動する。本郷は倉庫を出ていこうとするコブスに声を掛けた。
「コブス、もし、砦の中に召喚者がいたら信号弾を撃ってくれ」
「……分かった。そいつはタイチが片付けなきゃならないんだったな」
「多分ね。そういえば俺が直接倒さなきゃいけないのか聞いてなかったな……」
ベルフェゴールに聞いておけばよかったと後悔しつつ、全然に移動する本郷であった。




