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賢者の悩み

今回は本郷ではなくダルシオ・コンスコン視点でのお話です。

「賢者様! バンデン砦が陥落し、敵がニューヤード平原まで近づいております!」

「ありがとう。下がって良い」


 報告に来た男は私にそう告げ、下がっていった。バンデン砦が落ちたことは聞いていた。ダルシオ・コンスコンは頭が痛かった。せっかく自分の神が他の奪略者が消えたという朗報を持ってきたのに、ガムルスのせいでそれどころではなかった。


「私がこんなにも大規模な力をくれてやったというのに、数カ月もかかった進行が僅かな期間でここまで巻き戻されるとはな……」


 事前に渡されていた書類に目を通す。


「敵兵は獣人族と数人の人間で構成されており、片方の肩が赤く塗られている……か。政治家共が蒼を喰らうもの(ブルーイーター)の亡霊と言っておったな。どうせ同じ格好をすればこちらの戦意を稼げると思ったのだろう」


 しかし、ダルシオには気がかりなことがある。戦場から戻ってきた負傷兵の証言をまとめた書類だった。

 突然砦内に現れたことに関しては崖を登ってきたとしか考えられない。しかし、あの急な崖を装備を付けたまま登るだと? 獣人族は大柄が多いのに更に装備を増やせば落下する可能性もある。

 しかし、この作成を考えてたものがそのようなことを考えているようには感じられない。

 魔術か何か特殊な力の持ち主なのだろう。


 そして、新型の武器と石ころのようなサイズで凄まじい破壊力を持つ謎の爆弾。その開発期間の速さにも疑問点が残る。明らかに技術レベルの進みがおかしい。どうしてこのタイミングなのだ?


 ダルシオは本郷が知るよりも早くガムルスに召喚者がいることを知っていた。それでも、向こうの狙いは戦いではないようで仕掛けても来ない、それならばガムルスを今のうちに征服するべきと考えていた。それなのに突然の新兵器の開発に攻撃、不可解な点が多い。


『コンコン』


「入れ」

「失礼します、賢者様」

「おぉ、中将殿。このようなところに何用か?」

「先程、スウェーバル軍により、ザーン城と、その周りの砦が墜ちたと……」


 ダルシオのもう1つの悩みの種はこれだった。順調に事が進んでいたガムルスの突然の反抗、そしてラカスラトの背後から来るスウェーバル軍の存在である。

 スウェーバル軍が最初に攻めたのはティファマ国というスウェーバル国と隣り合わせの、仲のいい国であった。


 それが突然、スウェーバルが戦争を仕掛け、あっという間に滅ぼしてしまったのだ。そして、その進軍を止めないまま、このラカスラトに向けて進行を続けている。彼らは魔獣という名の生物を使役して、人と魔獣の混成部隊だと聞いている。これはラカスラトにとっては非常に厄介だ。魔獣は魔法耐性が高く、攻撃が通りにくいのが特徴の生物だ。


『やはりスウェーバルにもおるのだろうな。私とは別の召喚者が……』

「賢者様、どうかなさいましたか?」

「いやなに、考え事をしていた」


 スウェーバルの事も気になるが、今はガムルス軍を落とすのが先だろうと考えていた。

 このままではラカスラトがスウェーバルに落とされるのも時間の問題だ。それならば早めにガムルスを落として戦力並びに逃げ場所を確保しておいた方がいいだろう。

 せっかく神のくれたチャンスだ。たとえここの連中が死んだとしても私が生き残っていればまた、次の国を乗っ取るまで。


「ニューヤードのガムルス軍の動きはどうかね」

「今のところ、散発的な戦闘はありますが、奴らも手が出せないようです。ですが、バンデン砦を越える獣人を見たと報告が上がっております」

「例の蒼を喰らうもの(ブルーイーター)と行っておった連中か」

「古株の連中はそう申しておりますな……」


 はてさて、どうするべきか。このままじっとしておくわけにもいかんな。ガムルスの急な攻勢はスウェーバルの動きを見越しての行動か、それとも、向こうには別の召喚者がいるのか。


「私もニューヤードへ赴こう。奴らをこれ以上近づかせるわけにはいかぬからな」

「賢者様ご自身がですか!? ですがここはどうされるのです!」

「もともと私は異国の者、いなくなったから崩壊するようでは困りますな」

「それはそうですが……」


 私の見立てがあっているならばニューヤードに召喚者が来るだろう。それも獣人部隊の中に。であれば先にそいつを倒してしまうのが一番早い。そしてすぐにバンデン砦まで押し返すまでだ。


「馬の用意を。それと、スウェーバルに関しては何としても防げ。最悪、砦を破壊してでも足止めをするのだ。魔獣相手では魔術の効果が低いからな」

「かしこまりました。すぐに準備いたします」


『バタン』


 扉から中将が出ていった。ダルシオは部屋の中に合った姿見の前に立つと、反射して胸に光る紋章を見る。


「私の夢をかなえるまで、死ぬわけにはいかんのだ……!」


 こうして、本郷とは別の召喚者もニューヤードへと移動を開始していた。



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