神達の出世に一般人が舞い降りる?【3】
「ところで、その紋章ってやつはどこにあるんです? これといって変わったところとかもないと思うんですけど」
「紋章は召喚者の体のどこかにあるはずよ。あなたの場合は左手の甲みたいね。念じれば出てくると思うけど?」
「念じる……と」
神様の指示通り、ぼんやりと頭の中で紋章をイメージしてみた。すると左手の甲が光り始めて紋章が浮かび上がる。
「おぉ」
少し驚いた。伝説の英雄や戦士を使役して戦うアニメとか、熱血格闘ロボットのアニメなんかで主人公やライバルたちが持っていた、あの紋章のようなものが浮かび上がる。
ただし、本郷の手に現れた紋章は大きく〇があり、その中に【神】と一文字だけ入っているだけだった。正直イメージしていたものとまるで違うことに心底がっかりした。
「あの、これだとデカいハンコを手に押されただけみたいになっているんですけど、もうちょっと格好いいデザインとかないんですか? 一応神様でしょ?」
「アンタの知識から自分の名を示すのに最適なものがそれだったのよ。デザインも簡単だったし分かりやすくて気に入っているから変えないわ」
「確かにめっちゃ分かりやすいとは思いますけど……。なんだかなぁ……」
神様的にはこれで満足なのかもしれないと思うが、これだと自分が荷物の伝票みたいな扱いではないか。やっと、やるしかないと奮起した矢先にこの展開だ。せめてもう少し、やる気のある神様に当たれば良かったのになと心から思う。
『確かゲームにも怠惰の神様がいたけど、名前なんだっけ?』
様々なゲームに登場してきたキャラクターを思い出し、神様のイメージを当てはめていく。
「ふぅん。私みたいなやつはベルフェゴールって言うの。アンタの世界にも私みたいな性格の神がいるみたいね。まぁ名前なんてあまり意味がないけど他のやつらと一緒にされるのは嫌だし、ベルフェでいいわ。ちゃんと様を付けなさい。ベルでもよかったんだけどアンタの頭の中に引っかかるものが多すぎるわ」
「勝手に人の頭の中覗くの止めてもらっていいですか? それで、神様って……」
「あ?」
「いや、ベルフェ……様。紋章を掛けて相手と戦うのは分かったんですけど、その……殺したりとかしないとダメなんですか?」
「殺せばそれは奪えるけれど、相手が渡すことを了承すれば渡すことはできるはずよ」
「なんだ、じゃあ話し合いで解決する方法だって出来るんじゃないですか。いやー良かった。人なんて殺したことないのに戦えって言われてどうしようかと思いましたよ!」
「そんなんじゃ多分殺されるわよ? 言ってなかったけど向こうの世界で死んだら本当に死ぬから本気でやらないとすぐに終わりよ。そんなんじゃ私も困るわ。後、負けた場合も戻ってこられないからよろしく」
「え!?」
困ると言われても、勝手に呼び出された上に本当に死ぬなんてあまりにも酷な話ではないだろうか。
少なくとも他の神は最強の召喚者を用意しているだろうということは想像がつく。
そんな中で、サラリーマンが生き残れというのは不可能に近い確率ではないだろうか。
「あのー、ベルフェ様? あまりにも俺にが他の召喚者に比べて不利すぎると思うんですが……。なんというか、選ばれた人間だったら何かチート能力とか伝説の武具とかそういう特典があってもいいと思うんですが」
「そうねぇ。確かに他の召喚者は最初から強いでしょうね。ただ、強すぎる力を与えるわけにはいかないのよね。不正したらアタシが怒られちゃうじゃない」
「神様のなのにチート使用不可ってどうなのよ……」
誰を呼ぶかは自由なのに能力を平等にすることは出来ない。何とも運任せな話ではあるが、そこも含めての人選だといわれてしまえばぐうの音も出ない。
今の自分を例えるなら鍋の蓋と木の棒で魔王に挑むことが選ばれたのだから仕方ない、それで片付いてしまうということだ。
「アンタ、知識だけは豊富なのよね?」
「えぇまぁ。オタク知識ってだけなのでだいぶ偏りはありますけどね」
「まぁそっちのほうが都合がいいわ。面倒だけど上に確認するから待ちなさい」
ベルフェゴールは目を閉じると喋らなくなった。
恐らく、上と話すということは自分よりも上位の神様、恐らくこのゲームの監督役か何か、オンラインゲームでもチートや不正がないか監視する人間がいるようにそういう立場の神様に確認を取っているのだろう。
「待たせたわね。上から許可が下りたから、アンタに力を与えることが出来るようになったわ」
「言ってみるもんですね! それで、どんな力です? どんな魔術でも打ち消す力とか、手からビームが出るとか……!」
「ゲーム画面を使えるようにするの」
ベルフェゴールはニッコリと笑いながら本郷の頭に両手を伸ばしてきた。
少しづつ体が光はじめ、その光が本郷を包んでいく。
『これが神様の祝福ってやつか…。そうそう、こういう王道ってやっぱり大事だと思う。ここまでイレギュラーなことばかりだけれどもやっとまともな展開になってきたんじゃないか?』
それにしてもゲーム画面を使えるようにするとはどういうことだろうか。
ベルフェゴールの言っていた意味がいまいち分からないまま力を授かっていた。
そして少しずつ光が消え始め、これで終わりなのかと思っていると、綺麗な足が左の頬に当たった。そして本郷はくるくるとまわりながら吹っ飛んだ。
見事な上段回し蹴りが飛んできたのだということは吹き飛んで盛大に顔面から落ちた後に気が付いた。
「絶対に死ぬレベルだろこれ……」
「うん、ちゃんと生きてるわね。耐久性も多少上がったしこれで何とかなるか」
「耐久性ってもっと他に試す方法なかったんですかね……。これで死んでたら終わっちゃうじゃないですか……」
「この程度で死ぬなら力を与えた時点で多分死んでるわよ。だから試したの。私流だけどね」
確かにものすごい痛みを伴う攻撃ではあったが死んでない。むしろ痛いで済んでるのがおかしいぐらいの衝撃だった。
これだ神の加護というものなのだろうか。しかし、不死身ということではないらしく擦りむいたところから微妙に血が滲んでいる。ゲーム開始前にダメージを与えられていた。
「死ななきゃ問題ないわよ。そんなことよりイメージしなさい。アンタがゲームしているときにメニュー画面を開く感じよ」
「また人の頭の中を勝手に……。死ななきゃケガしてもいいなんて保険適応外だろ。異世界にはないだろうけど……。それで、メニュー画面だっけか」
頭の中で強くイメージする。普段やるゲームだと武器とか防具の装備欄とかアイテム欄とかそういう系があるけれど、ポーズ画面なんか存在しないんだろうしシンプルなデザインのほうが便利かもしれない。目の前にメニュー画面が開かれる。項目はとてもシンプルだった。
【アイテム】【ステータス】【スキル】【自決】
「うわー分かりやすいんデザイン。無駄がなくて初心者から最後までちゃんと使えるようになっているっていうのがポイント高いですよね。そうじゃねぇよ !自決ってなんだよ !腹切れってか! ふざけんな!」
「何? 私が作ったシステムに文句あるの? アンタの頭の中に戦国時代の経営ゲームがあったから入れておいたのよ」
「それ経営ゲームじゃなくて野望を叶えるやつだから! 変えてくださいお願いします!」
「嫌よ、疲れるじゃない。それに急に作ったから私にもどうなってるか良く分からないし、何かあったら後から修正してあげるから」
疲れるという言葉だけで片付けられてしまい、それ以上言い返す言葉もなかった。
記憶の中に、未完成のまま発売され、発売後に大量のアップデートで大炎上したゲーム作品があったのを思い出した。自分も金返せと叫んだゲームである。一般的に言うクソゲー、それに近いような説明であった。
「続けるわよ。エルガーで強くなれば少なくともステータスが上がって、一般人に毛が生えた程度には強くなるはずよ。アンタを強化するにはメリットだけじゃなくてデメリットも入れないと許可がでなかったのよ」
「デメリットが自決だけなら俺が思わなければいいだけでめちゃくちゃメリットばっかりなのでは?」
「そのシステムは私が好みで入れただけよ。アンタの力は【知識を自らの力として手に入れる】ことが出来る能力。簡単に言えば【知っている事ならスキルとして手に入れることが出来る】ってこと。そしてデメリットは【力を手に入れる際に自分の命を賭けて】いくこと。強すぎる力を求めれば求めるほど死のリスクが上がっていくの。世界を滅ぼそうなんて力を使ったら即死するでしょうね」
「スキル習得に命を賭けろってギャンブル性も高いしブラック過ぎやしませんかね……?」
「死の確率は世界への影響力が一番大きいからちょっとぐらいなら大丈夫よ。アンタが強いと思ってもそれが効かない相手だったり、そもそも世界を変えるような力でなければ死に直結はしない……はずよ!」
「ベルフェ様? つまり、どのスキルが死ぬリスクが高くて逆にどれが低いのか現段階では分からないとか、もうすでに勝てる気がしないんですけど……」
「ダメなら自決するしかないわね。自分で死を選べるだけ私の慈悲が現れていると思いなさい」
「慈悲が自決って、夢も希望もありゃしない……」
アプリの課金ゲー例えるなら超絶レアを手に入れる確率が数%しかないとしても引くときは引く、ということである。
絶対がない限り1%だって非常に危険を伴うということである。必要だと思っても死の確率が高い場合、欲しくとも手に入れることが出来ない。
毎回スキルを購入するたびにハイリスクハイリターンのロシアンルーレットやれというのだ。
「そこまで悲観しなくてもいいじゃない。ちゃんと救済措置も入れてあげてるから。アイテム購入画面があるでしょ。向こうで人道的行動や紋章を手に入れれば報酬が入るようになっているわ。他にも荷物とかしまえるようにしてあるし! そうすれば死のリスクだって抑えられるはずよ。他の神にバレて報告されたらヤバいけど……」
「不正じゃねーか!」
「リスクが減るんだからいいじゃない!」
ベルフェ様曰く、物は言いようということらしい。
上からは指示された通りにシステムは作ったけどダメと言われてない部分に関しては自分に任されたことと変わらないと仰る。
とにかくエルガーで力と権力を手に入れるしかないということだ。ベルフェゴールは俺にアル・カポネかドン・コルレオーネになれと要求しているようだった。
「よし! 大体説明したし後は追々で大丈夫でしょ!」
「そうですね……。はっ?」
「はっ? じゃないでしょ。説明もしたんだからアンタをエルガーに送るに決まってるじゃない」
「待って! まだ心の準備がっ!」
本郷の必死の制止もむなしく、天井から一本のロープが降りてくる。これも知識から得たものであるのなら恐らくあれなのではないだろうか。トラップというか罠というか、古典的なあれである。
「正解! これってアンタの世界のお約束なんでしょ?」
ベルフェゴールが満面の笑みで思いきりロープを引っ張る。待ってましたといわんばかりに本郷ががいた場所がパカッと二つに割れ、一瞬空中に浮遊したような状態になり、やはり落ちた。
「二回目はダメだろ――――――――!」
虚しい叫びだけ落ちていく暗闇に響いていった。
「頑張りなさいタイチ、私はアンタに賭けたわよ……」
その言葉は落下していく俺には全く聞こえなかった。