バンデン砦奪還戦【3】
本郷たちがボルン平野に着いてから数時間後。
前線にいた兵士たちが小太り司令官の指示で全員戻され、ビールや酒を飲みながらどんちゃん騒ぎを繰り返していた。
一方、本郷たちは前線に掘られた塹壕の中に、獣人兵士たちを連れ配置に着いていた。この前線でのリーダーはアイネとジェリドに任せている。
「じゃあ、ここからは手榴弾を数時間置きに5個ずつぐらい敵の基地の前に思いっきり投げ込んでくれ。それ以外は敵の攻撃が当たらないように隠れてくれていればいいし、結構まで数日間は交代制で行こう」
「分かりました!」
「オッケ~♪」
「交代の際は、アイネもジェリーもちゃんと休んでくれよ。どちらが欠けても成功しないんだ。」
本郷はそういうと、自分たちのテントに戻る。
「おうタイチ、塹壕の連中はもういいのか?」
「あの2人もいるし大丈夫でしょ」
『ドドドンッ』
バンデン砦の方角から複数の爆発が重なり合った音が聞こえる。さっそく手榴弾による威嚇攻撃が行われていたようである。その音を聞いて感心したのか、ノエルがテントの中にある手榴弾の箱の中から、1つを取り出して野球のボールの様に扱っていた。
「ほう、これが『手榴弾』の威力か。訓練でも見たが、いいものじゃないか」
「少佐、そんなにポンポンと振り回しては……!」
リリアはそんな雑に扱うとここで爆発してしまうのではないかと思っているのだろう。表情はあまり変わってないが明らかに動揺していた。
「なんだ! 何の音だ! お前達前線で何をしておる!」
小太りの司令官が取り巻きの高官を引き連れてこちらのテントに怒鳴り込んできた。コブスが司令官に立ち向かうかのように向かっていった。
「はて、しばらくは『昼夜問わず【大きな】音』がするとご説明したはずですが?」
「あのような音ではこちらが休まらないではないか! 今すぐ辞めさせろ!」
小太り司令官はコブス越しにこちらを怒鳴り散らしている。こいつのせいでこちらが休まらない。
「おい、そこのデブ。私の部隊がそんなに気にくわないのか?」
「だ、誰だ私は司令官だぞっ! 侮辱は許さん!」
「そうかそうか、貴様が司令官ならば私を知らないわけないよな?」
木箱の陰で向こうからはノエルとリリアが見えていなかったのだろう。椅子から立ち上がったノエルが小太り司令官を押し倒すような勢いで目の前に立ち、見下していた。横にいたリリアも同様だった。
「な!?……【最悪】に【鋼鉄】……!?」
「さて、もう一度用件を聞こう。私の、部隊が、そんなに、気にくわないのか?」
「いや、大きな音でしたなっ! 驚きましたので一応確認せねばと……。何の問題もないようですな!それでは我々はこれで……」
ころりと態度を変えた小太り司令官は大量の冷や汗を顔から流し、逃げる様にいなくなった。
「まだ、威圧も殺気も出していないのに、張り合いのないクズだな」
「そうですね。ブヒブフ何かを言っていましたが、前線に豚もどきの人間がいるとは思いませんでした」
ノエルとリリアが張り合いがなさ過ぎて、いなくなった司令官をボロクソ言っていた。本郷たちには何度か見た光景だったので慣れてきたが、獣人兵士達の間でも、コブスやジェリドより逆らってはいけない相手がいると噂が広まりつつあった。
◆ ◇ ◆
それから数日間、全員で何度も手榴弾を数時間ごとに投げ入れていた。音がするたびに向こうでは、敵がくるぞーとか、全員を叩き起こせーとか、敵が突撃してきたと思ったのだろう。パニックになっていた。しかし、それも最初の数回で、次第に慌てて出てくる人数が減ってきていた。
そして、作戦決行の日の夜を迎えた。
『ドドドンッ』
塹壕から、また手榴弾が敵の基地の前に放り込まれていた。
「すごいですね、タイチさんの言う通り敵の動きがかなり鈍くなってきましたよ!」
「アタシ達はタイミングが分かるから休めるけど、あっちは突然だものね。タイチちゃんが敵じゃなくてよかったと心底思うわ。ストレスでお肌が荒れちゃう!」
前線で手榴弾を投げているアイネとジェリドが、その効果を実感していた。
後はこの作業を続けつつ、砦からの合図を待つだけであった。
一方で、本郷とコブス達一行は崖下に辿りついていた。
「思ったより高いなー。俺、実は高所恐怖症なんだ……」
「私だってあまり高いところは好きではないな……」
2人で切り立った崖を眺めている。
「よし、じゃあお前達、上に登ったらこの滑車を木に固定してロープを降ろしてくれ。しっかりした木で頼むよ? 途中で落っこちて死ぬのは嫌だからさ」
鳥獣族の兵士たちは本郷の冗談を笑いながら飛び上がっていく。飛べるっていいなー、スキルで手に入らないだろうかと思った。
『【飛行】を習得しますか ※確率100%』
まぁ、そうなるだろう。人間が何処かのヒーローの様に飛べるわけがない。そんなことをしていると、崖の上からスルスルとロープが下りてくる。
「全員の装備は俺が上で渡すから、身軽なままで行けよー」
そういうと降りてきたロープを固定させ、獣人兵士達が引っ張り上げられていく。そして最後に本郷が引っ張り上げられていく。バンジーした後に回収される人ってこんな感覚なんだろうなと思い、ゆっくりと地面が離れていく。
頂上まで引き上げられると、コブスと獣人兵士達が身を低くし、辺りを警戒していた。
「どう? 敵はいそう?」
「いや、やはりこちら側は登れないと思って手薄のようだな」
「じゃあ、全員に装備を渡していくか」
アイテムボックスから装備品を取り出し、全員に渡していく。そして準備を整えると砦の上に出られそうな位置まで姿勢を低くしたまま移動した。
「ここからなら降りられるだろう。砦の上で見張っているのは8人か。まぁ問題なく対処できるだろう」
「ちょっと高くないか? 2階から落ちるぐらいの高さがあるぞ……」
「私や獣人兵士達であれば問題ない」
コブスが問題ないといった中に自分が含まれていないのでは? と考えたが、そこは何とかしろということなのだろう。
獣人兵士の1人が、砦やその周辺にいる兵士に気が付かれないようにランタンの火で合図を送っていた。
アイネ達もその合図に気が付く。
「…っ! 来ました! じぇりどさん合図ですっ!」
「アンタ達! やっと出番が来たわよ! 最後の手榴弾投げちゃって!」
ジェリドの指示に従い、兵士達が最後の威嚇攻撃を行った。
『ドドドンッ』
砦の上にいた兵士達が爆発した方向に移動する。
『またこの音か……。うるさくて集中できないな』
『休憩中でも爆発の度に召集されるからゆっくり休めないし、ガムルスの連中は何を考えてるんだ?』
『どうせ今回も何もしないんだろ、さっさと交代して寝たいもんだ……』
気怠そうに兵士達が爆発の方向を眺めている。ちゃんと敵の戦力は削げているようだ。
「よし、行くぞ……!」
本郷が声を掛け、一斉に砦へと飛び降りた。




