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鬼より怖い老人か、鬼だと思われるマッチョなお姉さんか好きな方を選べ!

 本郷の盛大な演説が終わり、人員の振り分けも終わったところで、列を作りトルガへ向かおうとしていた。何人かは来ることを諦めたそうだが、それ以外のほぼ全員が軍に入ることを承諾した。


 1人、また1人と突けられていた首輪や枷、次々と奴隷の証を外していく。嬉しさを隠せないでいるものや、解放されたことにより、涙を流す者もいた。


 中には自由になったことで狼藉を働こうとするものやはりいた。


「これで自由だ! おい! 行こうぜ!」


 大柄の獣人が自らの拘束が解かれるや否や、周りにいた他の獣人たちに声を掛け、10人程が彼に賛同していた。近くにあった太めの木の棒などを掴み周りの獣人に向けて振り回している。


 ノエルはその様子を笑いながらこちらに質問を投げかける。


「ホンゴー、さっそく出たがどうする? 責任はとるんだろう?」


「分かってますよ。コブス、ジェリー、手伝ってくれ。ただし、殺すのは無しで頼む。いきなりそんなことしたら固まった気持ちが揺らぐ奴も出てくるだろうし……」


「タイチちゃんが言うなら仕方ないわね」


「あんまり手加減して倒すことがないからな、死ななければいいが……」


 そういうとコブスは剣を鞘に入れたまま持ち出し、ジェリドは拳をパキパキと鳴らしながら男たちのところへ向かっていった。


「アイネ、多分治癒魔法が必要になると思う」


「コブスさんやジェリーさんなら大丈夫だと思いますよ?」


「いや、暴れている連中のほうにだよ。ケガだけで済めばいいけど……」


 多分あの2人なら無傷で倒すことなんて訓練もされていない相手なら楽勝だろう。

 しかし、相手にされた方はサンドバックの様な扱いになるだろうと思う。


 既に人だかりが出来ていた中心に向けて人をかき分けながら入っていく。


「ちょっと、どいてどいてー」


 本郷も兵士の1人として周りに威厳のあるところを周り見せておいた方がいいと考えていた。

 最初が肝心とノエルにも言われていた。


 群がる人々をかき分けていくと、先ほどまで周りを威圧して、暴力を振るわんとしていた男たちが折り重なるように山になっていた。俺の出番が回ってくるまでもなく予想以上にボッコボコにされたらしい。


「コブス、いくら何でもこれはちょっとやり過ぎなんじゃ……」


「私は何もしていないさ」


 立ち尽くすコブスはそういうとジェリドの方向を指差す。

 その方向には先ほど真っ先に周りを先導していた大男の胸ぐらを掴んだ状態のジェリドの姿があった。


『オラァ! さっきまでの威勢はどうしたのよ! お前それでも〇玉ついてんのかぁ!』


『ずびばせん……。ずびばせん……』


 大柄の男が泣きながらジェリドに謝っているところだった。


「もしかしてこれって、あれか。言っちゃいけないやつを言ったのか」


「そうだ。今、そこで詫びを入れている奴が大声で笑いだしてな。周りの連中もそれに合わせて笑い始めた。止めようとしたときには数人が宙に浮いておった」


 可哀相に。何も知らずにオカマだと連呼し笑ったのだろう。

 大人しくやられていればここまでする予定はなかったものを……。


「みんな今のを見ていたな! これが軍だ! 上官を侮辱する者、仲間を危険にさらそうとする者には必ず重い罰則があると思え! はい、解散!」


 手をパンパンと叩いて動きを止めていた人々を動かしていく。

 いつかは見せしめも必要かもしれないと思っていたがいい感じで噛ませ犬役をしてくれた彼らには感謝しておこう。


 サンドバックにされた男たちに駆け寄っていったアイネが、それぞれに治癒魔法をかけていたが、治療が終わったものから順にジェリドの前に正座させられていた。

 アイツらはジェリドに任せておけば大丈夫だろう。


「タイチ、私は先頭に立って進む。今日は途中の小屋まで行こう。あの辺りは森に入らなければ動物も出てくることはないだろう」


「そうだな。まぁこれだけの人数なら動物も寄ってこないような気がするけど」


 ジェリドに打ちのめされ、けが人が増えたがそれ以外は問題なく移動を開始していた。



 予定通りアウグスタとトルガの間にある休憩所を兼ねた小屋に着くと、本郷は周りから見られないように荷馬車の中でアイテムボックスに詰め込んでいた食料の入った木箱を次々と出していく。


 アイネと数人の女性たちに任せて順番に配給を依頼した。予想以上に人がいるから足りるだろうか。


「タイチさん。やっぱり少し足りないかもしれないです……」


「うーん。100人ぐらいしか集まらないと思っていたからなぁ……。狩りに出るしかないか」


 そう思っていたころに森からジェリドが出てくるのが見えた。


「タイチちゃーん! 食料足りないと思って取ってきたわよー!」


 いつの間に森の中に入っていたのだろうか。

 ジェリドの両肩には、あのデカいウサギが担がれていた。


「アンタたち、この辺で捌いちゃってちょうだい!」


『『はい! 姉さん!』』


 ジェリドに続く形で男たちがゾロゾロ森から出てくる。皆、ウサギを抱えていた。

 そして、あの時にボコボコにされた男たちはジェリドの強さに惚れたのだろう。部下、というよりは舎弟になっていた。


 解体されたウサギの肉を焼いていき、足りない分はそれで補って配給していった。


「何とか足りたなかな。アイネ、言った通り子供と女性にはちゃんと配給してくれたか?」


「はい! 肉だけでなく野菜や消化にいいスープなどの比率を多めに渡しています。これも必要なことなんですよね?」


「バランスよく食べるのがいい体を作るんだよ。男たちは数日なら肉多めでも文句は言わないだろうし」


 ビタミンやミネラルなどはこの国の医学ではまだないだろうが、体の構造が自分と一緒であるならば必要な栄養素にも変わらないと考えた。

 免疫力の低い子供や赤子のいる女性は特に最優先で栄養の確保をさせるべきだろう。


 出発前の騒動と、十分な食料の配給があったおかげだろうか。それからは騒動も起きず、全員が落ち着いた状態になっていた。


 日が暮れ夜になり、本郷たちは今後の事を改めて話し合うことになった。


「戦闘が出来そうな人数はどれぐらいだった?」


「私が見たところ、まずは50人。そこから増やしても今は100人が限界だろう」


「それじゃあ、コブスとジェリドが選んだ人以外は、住居や設備関係と農作物や家畜の世話をする班に分かれて働いてもらおう。それと、子供なんだけど、勉学を教えるにも先生がいないんだよな。誰か適任がいないかな?」


 コブスとジェリドは訓練、アイネにはけが人の手当てや救護関係をお願いしている。

 ミランダやミケットは食事の準備もあるから授業というのは難しいかもしれない。


「リリアに任せるといい」


 黙り込んでいた全員の中で一番最初に声を発したのはノエルだった。


「少佐!? 私には少佐の傍での任務が……」


「アウグスタの様にバカな上層部もいなければ、私を陥れようとするやつらもいないだろう。それに連絡や通達は全部、ホンゴーがやればいい。私は楽をして過ごすだけさ」


 ノエルがさらっと何もしないニート発言をした。

 しかし、もとよりついて来るとも思っていなかったので、ありがたい話ではある。


「お前、自分の給与で街の孤児院に寄付をしたり施設の子供たちにプレゼントを買っているだろう? この間も大量におもちゃを――」


「なぜのそのことを……!」


「上司の私がお前のことを知らないわけがないだろう?」


 こんなに動揺したリリアを見るのは始めてだ。流石はノエル、個人情報保護なんて通用しない。

 そんな鶴の一声もあり、教師役としてリリアが先生を務めることが決まったのだった。


「私は別に子供が好きというわけではないですから!」


 本郷は周りに何とか弁解しようとして必死になっていたリリアに初めて可愛い一面を見たと思った。

 そして、リリアの弁明もむなしく、子供好きという設定がそこにいた全員の共通の認識とされた。


 次の日、出発する前にコブスとジェリドが、戦えると判断した兵士たちを集めていた。

 ざわざわとしている獣人たちの前に本郷は立つと大声で伝えた。


「鬼より怖い老人か、鬼だと思われるマッチョなお姉さんか好きな方を選べ! 冗談抜きで言っておく、俺はマジで殺されかけたぞ!」


 背後から【守銭奴らしき人物】と【マッチョで髭面のオカマの様な人物】から本郷に向けて殺気が放たれたがスキルのおかげでそれほど気にならなかった。

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