神達の出世に一般人が舞い降りる?【2】
神様はそういうと何もない空間から一枚の紙を取り出して掴むと、本郷の目の前に突き出してきた。
本郷は突き出された、紙を食い入るように、マジマジとその内容を確認する。
『私たちと一緒に世界を変えていきませんか?あなたの努力が世界を平和にします!』
『白アリとの戦いや水のトラブルに困っていませんか?私たちは特許申請のある特殊な装備がありますので魔法みたいな方法でピンチなあなたを助けます!』
それは本郷の働いていた会社の社員募集と仕事の売り込みが書いてある【ただチラシ】だった。
確かに、『世界を変える、世界を平和に、戦い、装備や魔法』この単語だけ抜き取って理解しようとすれば見方によってはそう捉えることも出来るのかもしれない。
しかし、インパクトが大事は大事だと会社で言われた記憶はあるが流石にこれはない。これに騙される人がいるなら見てみたいと思った。
神様は騙せるようである。
「どう見ても勇者の応募と派遣を行っているところじゃない! それに頑張って【でんわ】とかいうのもやったのよ!? 見なさい!」
神様はそういうと目の前にモニターのような画面を表示させた。
映し出された映像にいるのは神様と……会社の先輩であった飯田先輩だろうか。この人は面倒なことは他人に押し付けて楽をしようとするタイプの人であった。
今回の営業に関しても、面倒くさいことを理由に本郷に押し付けてきた仕事であったのだ。
『そうよ、勇者を1人お願いしたいんだけど?』
『ゆうしゃですか? 申し訳ありませんが、どんなご相談でしょうか?』
『そうね、私の困っていることを助けてほしいの。一番強い人を寄越してもらえるかしら?』
『あーまずはヒアリングのご希望からですね! 分かりました! 優秀なスタッフを向かわせますね。弊社の本郷というものがご自宅に伺いますのでお名前とご住所を……』
そこで映像は途切れていた。
間違いない。この後に急なクライアントだが、手が離せないので代わりに言ってきてほしいと依頼され、しぶしぶ了承したのだ。
『あの野郎! 適当な対応しやがって!』
心の中で煮え切らない衝動をぐっと押しこらえる。ここで吐き出してもしょうがない。むしろ全く噛み合わない会話から、よくぞお互いにここまで誤解が出来たものだとある意味関心すら出来た。
「よくもあんな勇者が来るなんて思いましたね……。まぁ俺は勇者じゃないですし、そもそも誤解なのでこのお話はなかったということで……」
「それは無理ね。例えアンタが勇者じゃなかったとしても私の依頼を終わらせるまで帰れないわ」
「いやいやいや! 無理って言われてもサラリーマンに勇者をやれと!? こんなところにいられるか、俺は帰らせてもらう! ……どっから帰るんだこれ!?」
「うっさいわねー。ちょっと黙ってて」
何とか帰ろうとあちらこちらを触り、何とか脱出できないかと模索していた本郷に、神様が片手を右から左に動かした。
その瞬間、強制的に体を神様の方向に向かされ、正座をさせられたのである。
「――――――!! ――! ――――――― ! ―――――――――!?」
(おいちょっと!!神様!出口がないぞ!うぉ何だ体が!?)
さらに、必死に口を動かそうとしても声までも出ないようにされていた。
「アンタには悪いけど、私の力では一人しか召喚できないの。そしてあなたは【エルガー】で他の神達が召喚した召喚者に勝ってほしいの」
本郷はその場で胡坐をかき、両腕を前で組んだ。そして、顔を横にして納得できないポーズを取っていたが、そんなこともお構いなしに神様の話は続いていく。
「これはね、新米の神が、上位の神になるための試練。自らが選び召喚した人間がどれだけ優秀で周りからも称賛されるようになるか競う出世を賭けたゲームなの」
神様にも上下の関係という面倒なこともあるんだなと思った。
北欧神話やギリシャ神話でも神格とかそういう言葉もあったので、そういうものだろうと解釈する。
電話一本で女神だって召喚できる話もあるっていうのに、自分の召喚した人間で優劣を決めるって人材派遣会社やコンサルタントの仕事みたいだなと思う。本郷の思っていた神様の世界観とはどうやら大幅に違うらしい。
「――――――! ――! ――――――――!」
(おいちょっと!神様!勝手に巻き込むな!)
「勝手に巻き込むなって? 何よ、せっかくアンタが好きな女子の格好までしてあげたのよ? こんな感じの女の子が好きなんでしょ? アンタの記憶や知識は全部見せてもらったから。昨日だって画面に映る女の子を見て必死にこう、手を上下に……」
突然ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべた少女の神様に言われ、昨日に自分が何をしていたか、その行動を思い返す。
『確か夜まで仕事をして、ヘトヘトになりながら帰りにコンビニで弁当とビールを買ったはず。それから家に着いて飯を食べて。新作のエロゲを買ったから、ちょいと自家発電を……』
そこまで思い出して自分が何をしたのか思い出した。
とんでもない記憶を神様が本郷の記憶の中から読み取っていた。
人に聞かれたくない、秘密の行為である。
「そう……。これがアンタの……。ふーん、【お兄ちゃんは変態さんなんだね】だったかしら?」
「――――! ―――――――――!!」
(死にたい!いっそ殺してくれ!!)
「神に対して無礼な態度をとるからよ。世界中に、この記憶をばら撒いてもいいのよ?」
そう言うと神様は何ともご満悦そうに笑っていた。神様のくせになんということをしてくれたのでしょう。
『俺の性へ…弱点まで筒抜けなのか……。少なくとも社会的に抹殺されることも避けたい……!』
正直な気持ちでいうと本郷は全く納得が出来ていない。しかし神様の戦えという依頼を終わらせて帰る以外の方法が現時点で思いつかないことも事実である。
いい加減ちゃんとした説明も聞かせてほしいと思った本郷は、ジェスチャーで喋らせてくれと伝えると、神様はさっきとは手を逆の方向へ動かした。
「っあ! あーやっと声でた。ようするに他の神様が召喚した人たちと戦えってことですか?」
「手段は問わないわ。【エルガー】で私の代わりに他の神が召喚した4人に勝てばいいの。」
「はぁ……。他の4人は滅茶苦茶強いというか勇者とか賢者とか魔王とかなんでしょう? 一般人が勝てるわけないじゃないですか」
「むしろ他の召喚者に会う前に、獣か盗賊に襲われて死ぬでしょうね。まずは私と他の神、それとエルガーについて説明するから黙ってちゃんと聞くのよ」
神様の説明では、エルガーとは神が自身を出世するゲームの場として生物が住める地球をベースに作られた世界。ゲーム性を高めるため、他の世界の文明を加え魔術から近代科学、様々な発展を遂げている。そのせいで環境生物も大いにその影響を受けている、ということだそうだ。
数千年に一度、新米の神様が、出世を賭けたゲームのために選んだ者をエルガーに召喚させ、競わせる……ということらしい。しかも出世が叶うのは勝ち残った1名のみ。負けた神様は、また数千年まで下っ端のまま過ごすのだそうだ。そして召喚者が持つ紋章を5個全部集めることで勝利条件を満たすとのことだった。
『会社かよ! それに人間がそんな長寿な存在だったら俺なら嫌気がさすだろうな……』
ツッコみたくなる気持ちを抑えて神様の話を聞いていた。
何の因果なのか、この神様は本郷の務めていた会社のチラシを勇者を派遣する会社だと、信じて疑わずに電話をしてきたために、今この状況になっていたのだ。
神様の説明が終わり、会話を再開する。
「もう、漫画やラノベの世界だなぁ……。それにしても人を見極める大切なことなのにチラシを見て電話するって手抜き過ぎじゃないですか?」
「だって面相臭いじゃない? 楽が出来るならそっちのほうがいいでしょ?」
とてつもないぐらいやる気のない発言だった。ゆとり教育世代と言われた自分にも分かる、この神様を出世させていいのだろうか……。
しかし、全世界に自分の性癖、もとい弱点をバラすという脅しを受けていたために、その言葉を言い出せなかった。