オタクの知識は宝箱
本郷は宿へ戻ると、事務室に全員を集めてノエルに話したことを改めて説明する。
「かーっ! 何を考えていると思ったらとんでもないことを言いだしおった……」
コブスは自分の嫌な予感が的中したと言わんばかりに声を出した。
「悪いとは思っているけど、このままじゃ負けるのを待つだけだろ? だったら賭けるしかないと思ったんだ。それに向こうに召喚者がいる限り俺は逃げ出せないからなぁ。もちろん、皆には強制しないし計画から降りてくれても構わないと思ってるよ。勝てる見込みもないし」
「ここまで来たらどこまでいっても大して変わらない。それに獣人族に戦闘技術を教えなくてはならないんだ。私たちがいないとそもそも計画にならないんじゃないか?」
「コーちゃんの言うとおりね。でも、いいじゃない! アタシもやるわ!」
指摘された通り、この計画にコブスとジェリドが賛同しなかった場合、ほぼ勝てる見込みはないと思っていた。戦闘技術に関してもそうだが、部隊をまとめるには実力を持った人間が必要だった。その点、この2人であれば申し分ない能力を持っていた。
「私はタイチさんの計画を信じます。トルガの皆さんには私から説明しましょう」
「それはありがたいけど、町の皆は大丈夫なのか?」
「トルガには奴隷文化がないので獣人の方への抵抗はないでしょう。それに人が増えて活気が出れば町の発展にも繋がりますし、利益も出ると思います。それも踏まえて説明すれば納得してくれると思います。」
アイネもトルガの事を考えての賛同のようだった。これでまずは計画の第一歩が完了した。
『戦略ゲームや経営ゲーム、建築関係のゲームだって向こうの世界でたんまりとやり込んできたんだ。ずっと知識以外のステータスを上げようと必死だったけど、逆にぶっ飛んだ知識のステータスを全力で駆使してやる……!』
きっと、ベルフェゴールが想像していたような勇者には慣れないだろうと思う。
むしろたくさんの獣人族を先頭に巻き込んでいくのだ。悪魔だと言われるかもしれない。
それでも、本郷は振り返るわけにはいかないのだった。
「さて、まずはとにかく金だ。私が用意する。その代りたっぷり稼いで必ず返してくれよ。それと街で金の回収をやりながら募集の話もしてこよう。噂が広まれば自然と人も集まるだろうからな」
「正直それが頼りだったんだ。ほとんど金なんか持ってないからな。ジェリーにはコブスの資金で食料と家畜、工具なんかを買えるだけ買ってきてほしい」
「いいけど、もう少ししてからでもいいんじゃないかしら? 食料は今から買ってたんじゃ腐っちゃうわよ?」
「それは大丈夫だと思う」
本郷はそういうと、アイテムボックスから葉っぱに包まれた肉を取り出した。
「タイチさん、これってあの時のお肉ですよね? まだ温かさが残ってる……」
「どうも入れた時の状態がずっと続くみたいなんだ。これを使えば肉や野菜は安いうちに買いだめしておくことができる。それに建築に必要な木材や煉瓦なんかの運搬もこれで何とかなると思うから、かなり出費も抑えられるはずだ」
この仕組みはノエルたちとの話を終えて宿に戻る際に、資金繰りをどうしようかと悩んだ際にアイテムボックスにいれたらいいのではと思いついたものだった。本郷もてっきり冷めているだろうと思ったが、道すがら取り出した肉は今さっき焼けたような温かさを保ったままだった。
「後は料理になれた人が獣人の中にいればいいんだけど……」
「それなら私が手伝いましょう。ミケットもいいでしょう?」
「女将さんがやるならアタシは構わないっスよ。料理なら得意ですし」
本郷たちの話をこっそりと聞いていたのだろう。ミランダとミケットが事務室の扉を開けて入ってきた。
「ミランダ、これは遊びじゃないんだ。危険なことにお前を巻き込むわけないはいかない」
いつになく心配したような声でコブスはミランダを言い聞かせようとしていた。
「コブス。気持ちは嬉しいわ。でも負ければ私もミケットもラカスラトの奴隷になるだけよ」
ミランダもミケットも本気のようだった。
「これでもノエル少佐の下で働いていたのよ? 貴方とケンカをして、私が負けたことないでしょう?」
「確かに女将さんの言う通りッスね。獣人族を救えるのであればやれないわけにはいかないっス! それに2人のケンカの仲裁でいっつも死にそうな目には合ってますから普通の獣人よりは動けると思うっスよ。私も料理得意ですし」
コブスとミランダの夫婦喧嘩。ミケットの言い方だとケンカというよりは小規模の戦闘に近いのではないだろうかと本郷は思う。
それに、その戦闘を止めようとするミケットも実はすごい高い能力を持っているのではないだろうか。どちらにせよ、この夫婦のケンカには巻き込まれたくないなと思った。
「しかしな……」
渋っているコブスの肩をポンポンとジェリドが叩いた。
「コーちゃん、ミランダちゃんが一度決めたら変えないのは、一番よく知ってるでしょ?」
「それはそうだが……。分かった、好きにするといい」
「じゃあ決まりね! しばらくお店は閉めないいけないからミケットは引っ越しの手伝いをお願いできるかしら」
「了解っスー!」
こうして思いがけないところから貴重な料理人が2人も仲間になった。
そして、1週間後に行動開始を決め、各自それぞれの分担に移ることとなった。
翌日、2階から降りると、アイネがカウンターで何やら手紙を書いているようだった。
「手紙を書いているのか?」
本郷はアイネの横に座ると、書いている手紙について聞いてみた。
「はい。トルガの人たちに先に知らせておこうと思いまして。それと、この手紙を出したらまた訓練所で他の魔法も勉強してこようと思います」
「アイネの魔法はすごいからな。もう傷口だってほとんど痛みもないよ。これからも頼りにしてる」
魔法で受けた傷口はあれから何度もアイネが治癒を繰り返してくれたおかげでほぼ完治していた。
本郷は肩をグルグルと回して問題ないことをアピールする。その様子を見てアイネも笑顔で喜んでいた。
「タイチさんが撃たれた時は本当に心配したんですよ……。でも治って良かったです! 私が治癒系の魔法が使えて本当によかったなって思いました。」
「もしかして、治癒って使える人が少ない魔術なのか?」
「そうですね。かなり少ないと思います。治癒は魔力の消費もかなり高いですし頻繁には使えないと思います」
「それって俺の傷を治したときにかなり魔力を消費したってことなんじゃ!?」
「あの時はタイチさんの事で必死でしたから……」
アイネは頬を赤らめ、下を向いた。本郷もそのことに気が付いたのか恥ずかしさから頭をポリポリと掻いた。お互いに話せない状況が続いていたが、レッグスが宿の扉を開けて入ってきた。
「ホンゴー伍長、少しよろしいでしょうか」
「あぁレッグス伍長か。俺に何か用か?」
「先日の試作中に関して使用されたと聞いたので、感想を聞いてこいと開発局から連絡がありまして……」
「その件なんだけど、ちょっと提案があるんだけどさ……」
レッグスに相談したのは銃と剣の扱い方についてだった。
この世界では銃を撃ち、腰から剣を抜いて戦うのが一般的ではあるが、両方ともそれなりに重量があるし、剣に至っては慣れていない場合には扱いにくい。むしろ腰に下げているとガチャガチャと揺れて扱いにくい。
「ちょっと、待っててくれ」
本郷はそういうと、レッグスから見えないようにカウンターの内側に入る。
アイテムボックスから試作の銃と小型のナイフを取り出す。
「この間の戦闘で経験したんだけど、やっぱり銃と剣の運用を合わせるべきだと思うんだ。銃は両手で持たないといけないのに接近した場合には銃を捨てて剣を抜くんだろ? それだと銃を取りに戻るのにも時間がかかるしとっさの場合に対処が出来ない」
「確かに、ホンゴー伍長の言う通り、徴兵したばかりの新兵は慣れるまでに時間がかかりますね」
「だから、銃剣を作るべきだと思うんだ。こういう風に銃の先に取り付けられる形であれば軽量化も出来るし、構えも似ているから扱いやすい。着脱式で開発が出来れば折れた時でも交換も容易だし」
近くあったロープで持っていたナイフを銃口の先に括り付けると、撃つ動作と突く動作をレッグスの前でやって見せた。
本郷いた世界では一般的な仕組み、むしろ時代遅れな形ではあるがここでならかなり革新的だと考えた。
「新兵には斬る、裂く、突くの動作を使い分けるのは難しいけど、これなら相手の防具の薄い部分を付けばそれなりにダメージを与えることも出来る。刺してから撃つことだって可能だと思わないか?」
「ホンゴー伍長、この仕組みをいったいどこで……? いや、これならば剣の製造コストもかなり浮きますし、兵の訓練も工程が少ない……!」
「もっと軽ければ戦いやすいのになって思っただけだよ。それから他にも思いついた事なんだけど……」
本郷がレッグスに伝えたのは、この世界ですぐに開発が出来そうなことを説明する。
殆どは戦争ゲームや知識クイズゲームから得たもの、それと実録の映画での兵士の話なんかの知識である。
今の甲冑スタイルから、ヘルメットと腕と足、体を守るだけの装備の話、それから手榴弾の仕組み、それから腰のベルトに着けられる弾薬ポーチやショルダーポーチ。
それから、長距離にも対応できる銃とレンズを組み合わせて作るスコープの話など現状開発が出来るであろう物をすべて話した。分からない部分は紙に書き込んで図解でも説明する。
最後にすぐには開発が難しいと思われる、自動小銃や自動車、戦車などの比較的現代的な物も図解で説明してみたが、これに関してはレッグスは分からないと言った。そして、とりあえず開発局に持っていく、ということだったがこの世界で作れるだろうか。
「これがあればガムルスの戦いが変わるかも……! では、失礼します!」
レッグスは目を輝かせて本郷が書いた図面や書き取った書類を持つと、全力ダッシュで宿を飛び出していった。
「環境汚染とか、世界の影響力に関しては大丈夫なんだろうか……」
飛び出していったレッグスも心配ではあったが、恐らくあの図面や書類に書かれたことが実現すれば、この世界の戦争の図式すら変わりかねないのではという気持ちもあった。




