ヒッコリー村 哨戒任務【3】
敵兵が来たことにより緊張が一気に高まる。
声がする方向を見るとランタンで照らされた馬車数台とその周りに複数の人影が見える。10人以上はいるだろう。馬車から人が離れこちらに歩いてくる。数は4人。
咄嗟に木の陰から銃を構えたアイネをコブスが手の動きで撃つなと指示を送っている。
兵士たちは家々を周り、残っている人間がいないか確認しているようだった。
そして、少しずつこちらへと近づいてくる。
「私とジェリドで奥の馬車をやる。タイチ、お前は向かってくる4人だ。魔法使いだとは思うが相手の隙をつけばいい」
家の影を利用しつつ、コブス達は向かってくる敵兵を迂回するように移動すると見えなくなった。
隙をつけばいいと言われたが、いきなり4人を相手にしろといわれ緊張で身震いした。
「俺1人で4人。やれるのか……」
こちらに向かってくる兵士たちが次第にはっきりと見える様になった。
全員が銃も剣も装備していない。武器を持たないということは間違いなく魔法使いだろう。
流石に生身で戦うのはジェリドぐらいの強さが必要だろうがそこまでの屈強さは見えない。
本郷は敵の位置を気にしつつ、道中にアイネから教わった魔法による攻撃について思い返していた。
『大きな力を使う場合は詠唱が必要ですが、普通に攻撃をする程度であれば手を構えるだけで使えると思います。炎や雷で攻撃するのが一般的ですが、銃と同じように一度使うと次の魔法を撃つまでに数秒はかかると思います』
本郷は頭の中で戦いをイメージしてみる。
奇襲を仕掛けたとして、打てて2発が限度。5発まで撃てる試作の銃とはいえ、どうしてもコッキングの動作が入ってしまう。1発目を当てて、相手が驚いているうちに2発目、そして3発目の装填を行ったところで残った魔法使いに自分が殺される。太刀で切りかかることも考えたがやはり途中で魔法に殺される可能性が高い。
幾つものパターンを考えたがやはり最後は自分が殺されるイメージしか出てこなかった。
どう考えても最初の2人を倒すことが、残りの2人に気が付かれる前に行う必要がある。
考えている間にも敵が次々と家を物色し迫ってきていた。
悩んでいる本郷がふと顔を上げると、合図を送るように木の陰からアイネが何かを指差していた。
指差す方向を見ると農具など入れる木箱だろうか、1人ぐらいなら入れそうなサイズの木箱が家の片隅に置いていたのだった。
「そうか! それなら……!」
『【潜伏】を習得しますか ※確率5%』
習得しなければ炎でこんがり上手に焼かれるか、雷でカリッとジューシーにされる未来しかない
迷ってなどいられない。本郷は目を閉じてスキルの習得を決意する。
『【潜伏】を習得しました』
目を開くとアイネが心配そうな顔でこちらを見ている。見えるということは今回も死なないで済んだらしい。
このスキルがどこまで役に立つか分からないが、恐らくないよりは効果があるはず。
素早く、そしてなるべく音を立てずに移動し木箱開けた。幸いにも中身がそれほど入っていなかったので、すんなり入ることが出来た。
そして男たち動向を探るべく聞き耳を立てる。
ドアを開ける音と足音からまだ、2件ほど離れた位置にいると予想した。
木箱から上半身だけ身を出し、アイテムボックスにしまったままになっていた剣を2本取り出すと、自分たちが入ってくるはずだった村の入り口へ放り投げた。
本郷は敵を誘き出して後方から一気に切りかかろうと考えたのだ。
暗闇の中に放り投げて数秒後にガシャンガシャンと剣と剣がぶつかる音が暗闇の向こうから聞こえた。
『誰かいるのか!?』
『入り口の方だ! 探せ!』
これだけ近くにいるのであれば流石に気が付くであろう。
本郷は敵が気が付いたのを確認してから木箱の中へ体を隠し、音を立てないように蓋を占める。
ザッザッと複数の足音が近づいてきて、隠れていた木箱のすぐ傍まで接近した時に息を止めた。効果があるのかどうかは分からないが漫画でもこういうシーンがあったのを思い出して試しただけである。
足音が少し、また少しと遠ざかったところで少しだけ蓋を持ち上げる。
本郷の予想通り、4人が剣を放り投げた方向へと歩いていた。
左右を確認するように男たちはひし形の陣形で剣の方へと近づいていく。
『なんでこんなとこに剣が落ちているんだ?』
先頭にいた男がしゃがみ込んで剣を拾おうとした時だった。
4人の視線が剣に集まる。この時を待っていたと言わんばかりに本郷は木箱から飛び出し一直線に駆けだした。
一気に間合いを詰めると一番後ろを歩いていた男の首を瞬間的に取り出した太刀で右から左へ一閃させる。
男の首が飛んだ事を気にも留めず、そのままの勢いで左側にいた男の胸に太刀を突き刺した。
突き刺した男にぶつかる様にして吹き飛ばす。しかし、勢いが付きすぎてしまったせいで刀ごと吹き飛ばしてしまった上に大勢を崩してしまった。
奇襲に気が付き、右側にいた兵士が驚いてこちらに手を向ける。そして男の手から雷が放たれた。
とっさの事で照準が上手くいかなかったのだろう。雷は本郷の右肩の甲冑をえぐる様に刺さり貫通した。
本郷も相手が攻撃を撃ったと同時にアイテムボックスから銃を出し構えていた。
ズバンと音がして雷を放った男の顔面に弾があたると男は頭から後ろに仰け反る様に倒れ込んでいった。
そして、剣を拾う動作をしていた男が立ち上がり振り返って魔法を撃とうとしていた。
本郷は撃たれた右肩の出血にも気が付かず右手でボルトを叩きあげ、素早くレバーを引いて戻し、ボルトを下げて固定する。
敵が魔法を撃とうとするよりも早く、銃の装填が終わっていた。男が何かを声を発しようとしたのだろう。口を大きく開けた。
引き金を引いた銃から弾丸が撃ちだされ、飛び出した弾丸は男の口へと吸いこまれる様に飛び、男の頭を貫いていた。
頭を貫かれた男は目を見開いたまま俺の方へと倒れてきた。
「おわっ!」
本郷は倒れてきた男を支えきれず、一緒に倒れ込む。すぐに覆いかぶさっている男をどかし、次の弾薬を装填した。万が一誰か動いたら撃たなくてはならなかったからだ。数秒間の静寂とともに全員の息がないことを確認する。
一息ついて安堵すると急激な痛みが右肩を襲った。
本郷はこの時初めて、魔法で撃たれたのだということにやっと気が付き、抉られた甲冑を外すと左手で傷口を抑える。
「いってぇ……!」
これが撃たれた感覚なのかと知った。
決して大きな傷ではないが右肩を貫かれた痛みは想像を絶していた。
「タイチさん!」
木の陰からアイネが飛び出してきた。
出血を見るや否や治癒の魔法をかけてくれていた。
「訓練所で覚えたのか……?」
「血を止めるぐらいの力しかないですけどね」
ニッコリと笑うアイネを見ると戦いが終わったのだと実感する。
背後から人の気配がして、とっさに俺もアイネも銃を構えた。
「味方を撃つなよ」
体中に血が付いたコブスとジェリドが戻ってきたようだった。
「2人とも怪我したのか?」
「いや、怪我をしたのはタイチだけだろうよ。俺たちのは全部返り血だ」
相変わらず先頭に関してはピカイチらしい。息も上がらず疲れた様子もない。
コブスは本郷の傷の状態を確認した。
「傷は大丈夫そうだな。ここも危険だ。すぐアウグスタに戻るぞ」
全員で止めていた馬車まで戻る。
アイネに肩を持たれつつ、馬車の荷台に乗る。
「タイチちゃん、どうやってあいつら倒したの?」
ジェリドが本郷に尋ねた。
「木箱に入って通り過ぎたところを奇襲した」
「木箱に? 面白いことするのね。そんな戦い方聞いたことないわ」
「俺の世界でそんな風に戦う話が合ってな。やれるかどうかは分からなかったし正直賭けだったよ」
そして本郷はこの戦いを経験して決意する。
やはり自分では相手の召喚者どころか、数十人に囲まれたら間違いなく死ぬと。
そのためにも、考えていた計画を実行するしかない。
「コブス、宿に戻ったら相談があるんだ……」




