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ヒッコリー村 哨戒任務【2】

「何も、軍人になった次の日に出動させなくてもいいと思うんだよな」


 揺られる馬車の荷台で寝ころびながら本郷は愚痴を言った。

 あれから、訓練所から戻ってきたアイネと合流し、それぞれ用意されていた戦闘服に着替えてヒッコリー村へと出発していた。


「いきなり前線で戦って来いって言われるよりはマシ、と思ったほうが賢明だろうな」


「そうねー。アタシ達がいた頃に訓練すら受けてないような連中がその日のうちに前線に来たこともあったかわね」


 最前線にいたことのある2人の話曰く、哨戒任務はかなり楽な部類だという。

 魔法が飛んでこない戦場程ありがたいものはないのだそうだ。


「それにしても、なんで俺たちの甲冑は赤いんだ? 何か意味があるのか?」


「ノエルは戦場で見つけやすいからと言っていたぞ。全く、敵からも味方からも見つかりやすいだなんて何を考えているんだろうな」


 コブスが呆れた顔でそう言った。


 確かに街にいた兵士と比べても遠くから見える。これで能力が3倍になるとかの力になるのであれば喜んできただろうが、単純にノエルが探す手間を省きたいという安直な理由だった。


 ガタガタと揺れる馬車の中で本郷はガムルス帝国の連敗について尋ねた。


「ガムルスってさ、勝ったり負けたりを繰り返して膠着状態なんじゃなかったのか?」


「最近になって、急に強力な魔法を使う兵士が増えてきたと聞きました」


 アイネが答えた。訓練所にいた兵士から聞いたらしい。


「魔法ってそんな簡単に強くなるものなのか?」


「ポンポンとそんな強い魔法を使えるなら、ガムルスはとっくに負けているさ。魔術はその人間の素質に作用される。確かに強力な力を持つ奴も戦場にいたが、これだけ連敗するほど攻撃されるとは思えんな」


 コブスの説明では、戦場にもエースのような魔法使いは存在しているそうだが、数百人から数千人からなる戦場で、エースの数人いても急激に戦線が下がるような戦いはない。とのことだった。


「もしかしたら、相手の召喚者の力なのかもしれない……」


 アイネとコブスの話からまとめた本郷の結論だった。

 恐らく、人か魔術を強めることができる力を持っているのかもしれない。


「ありえない話ではないな。これだけの兵動かして戦いを仕掛けられるんだ。恐らくはラカスラトの中心にいる人物だろう」


「それなら、俺と一緒に行動しないほうがいいんじゃないか? 俺の強制力は今以上に俺を戦場に連れていくと思う。そのせいで皆を戦いに巻き込むのはごめんだ」


 本郷は皆を戦いに巻き込んでいくことに躊躇いがあった。

 相手の召喚者が兵士を動かしているのであれば、自分も自然と戦場に立たなくてはいけないということは誰にでも理解出来る。それに加え、本郷は自決システムのせいで逃げ出すことができない。


 それならば皆と離れたほうがいいのではないかと思ったのだ。


「ガムルスが負ければミランダはラカスラトの奴隷にされる。私はそれが嫌だから戦うことにしただけさ。遅かれ早かれこのまま連敗が続けば軍に徴集されただろうし、何せ私たちの召喚者様はあまりにも弱い、誰かが助けてやらないと死んでしまうだろう?」


「アタシはコーちゃんが戦うなら一緒に行くだけよ。まぁ、タイチちゃんが弱すぎて放っておけないっていうのもあるわね」


 とてもありがたい話ではある。しかし、弱い弱いと言われると正直傷付いた。

 確かに2人に比べると遥かに弱い。勝つことは出来ないだろうが、強くならないとと思っているだけに改めて自分が弱いことを突きつけられる。


「そりゃ、確かに戦いでは雑魚レベルだけどさぁ……。アイネはどうなんだ?」


「私は、私の力がお役に立つのであればタイチさん達のお役に立ちたいなと」


 アイネは自身の手をぎゅっと握ると、笑顔でそう言った。


「【タイチちゃん】の、役に立ちたいんじゃないの~?」


「なっ……! そんなことはないです!」


 本郷は弱い弱いといじられた挙句、パーティ唯一の紅一点からそこまで否定され、落ち込んでいた。

 一方でアイネは顔を真っ赤にしながら焦っていたが、本郷は怒っているのだろうとその本心には気が付かないままであった。


 日が暮れて辺りもすっかり暗くなったころ、ヒッコリー村に到着した。

 しかし、コブスは村の手前にあった脇道で馬車を止めると、ランタンの火を素早く消した。


「なんで村に入っていかないんだ?」


 急に脇道で止まったことに驚いた本郷が訪ねた。


「ヒッコリーはそれなりに住人がいたはずだ。それなのに人の気配もなければ、夜なのに家の明かりが少なすぎる」


「この嫌な感じ、大体こういう時って最悪な展開なのよね……」


 馬車から降りていたジェリドも険しい表情をしている。

 盛大に危険なフラグが立ったということだけは理解した。


「タイチ、例の銃と刀は何時でも出せる様にしておけよ」


 宿で渡され、しまっておいた試作中に弾を込め、アイテムボックスにしまった。


 村の入口へは向かわず、森の中を通ることになった。


 前衛はコブスとジェリド、それに続く形でアイネ、最後尾が本郷だった。

 試作の銃を持つことになったので、トルガの町で使っていた単発式の銃と道中で手に入れた剣をアイネが持つことになった。


 姿勢を低く保ったまま、村の近くまで近づく。

 コブスが握りこぶしを軽く上げる。ヒッコリーまでの道中でコブスが教えてくれた声を出さないで指示を出す方法。これは止まれという合図だ。


 街の中に人がいないか観察すると、今度は集まれと手で指示を出した。


「やはり人がいない」


「皆寝てるんじゃないか? 夜だし……」


「いや、気配がしない。長いこと戦っていると分かるようになる。タイチの力にはそういうのはないのか?」


 普通の人間には鍛えてもそんなことはできないと思う。

 とりあえず、こういうスキルは感知とか探知とかでいいのだろうかと思い確認した。


『【感知】を習得しますか ※確率50%』

『【探知】を習得しますか ※確率50%』


 やはり普通の人間が取得するのは難しいようだ。


「すごい高い確率で死ぬみたいだ……」


「相変わらず不憫な奴だ。まぁいい、お嬢さんはここで待機、タイチとジェリドは俺についてこい。まずはあの小屋まで行こう」


 全員が頷き、コブスに続いてジェリドと本郷は姿勢を低くして一番近くの小屋まで移動する。

 アイネは近くの木に隠れて銃を撃てるよう構えていた。


 そっと家の中を窓から覗き込む。薄暗いのと部屋の明かりがないせいでよく見えない。


「最悪だな。多分全員連れていかれたと思ったほうがいいだろう。」


 もう一度部屋の中を覗き込む。

 テーブルの上にはパンと芋、それとスープが入った御椀だろうか。御椀からは湯気が出ていた。


「所々に明かりが着いてるし、どう見ても夕飯の準備が出来たところで何かあったって感じよね」


「争った形跡もないし、住人が殺されていないということは奴隷として連れて行ったんだろう。まさかこんな近くの村までやられるとはな」


 コブスとジェリドが冷静に状況を判断する。


「なぁ、いったん戻って少佐に報告したほうが良くないか?」


 本郷が提案したその時だった、村の反対側から数人の男たちの声が聞こえてくる。


『残っている奴がいないか確認しろ、いたら殺して構わん』


『誰か酒があったらこっちにもくれよ』


 村の奥にある反対側の入り口から、敵が近づいてきていた。

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