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ヒッコリー村 哨戒任務【1】

昨晩はノエルの独断と偏見で異国の用心棒から軍人にジョブチェンジさせられた。


『部隊名とかどうでもいいからモルモットな』


宿を去る時に勝手に部隊名まで付けていった。

本郷は自分のいた世界で同じ部隊をしたパイロットがいたのを思い出す。

真っ青で暴走すると目が赤くなるロボとか配備されたりしそうだなと思った。


そんなことを想いつつ、朝ご飯のサラダをアイネと2人でカウンターで食べていた。


「いきなり軍人って言われてもどうしろっていうんだろうな」


「普段は自由にしていていいそうです。用がある時だけ出動だと聞いていますよ」


コブスは少尉、ジェリドが准尉、本郷とアイネは伍長として扱われる。

ただ、コブスもジェリドも仲間内で軍隊式の呼び方なんて面倒だということで呼び方は今まで通りとなった。


「アイネはノエル少佐の傍使いじゃなくてよかったのか? 少なくとも実地試験部隊ってことは最前線に送られるってことだと思うぞ」


「少し怖いですけど、ノエル少佐の傍も色んな意味で怖いなと思いまして……」


確かにあの人の性格だからアイネだったら、その日のうちにこれも仕事だとか言われてベッドまで連れていかれるに違いない。


「それに少佐から魔法と魔術訓練所の使用も許可を頂いたので、他の魔術や回復魔術も覚えればタイチさん達のお役にも立てると思います」


「それはありがたいけど、無茶するんじゃないぞ」


「はい!」


本郷よりも先に食事を終えたアイネがハンカチで口元を拭った。


「他の皆は何処に行ったんだ? 起きたら誰もいなかったけど」


「ミケットさんは厨房で仕込みをしていましたよ。ミランダさんは朝市に。コブスさんとジェリドさんは野暮用があると朝早くに出かけていかれました」


コブスとジェリドがこんなに朝早くから出かけるとは何か企んでいるのだろうか。

性格が性格なだけに少し不安だった。


「私もこの後、さっそく訓練所に行ってみるつもりです。魔法の指導も行っているそうなので」


そういうと席を立ち、食器を片付けるとアイネも出掛けていった。


本郷も食事を終えて、食器を片付けに厨房に入ると、ミケットが鼻歌を歌いながら大きな鍋でグツグツと煮込みながら料理をしていた。


「あ、タイチさんおはよーっス。昨日はよく眠れました?」


耳をピコピコと動かし、鍋をかき混ぜながらミケットが声を掛けてきてくれた。


『おぉ、夢にまで見た光景が目の前に……』


本郷はこれがほのぼの系ストーリーであれば良かったと心底思う。

首につけられた首輪が、ミケットが奴隷の立場だと再認識させる。


「いきなり軍に入れとか言われてビックリしたけど、いい布団でよく眠れたよ」


「異国の人が軍に入れるなんてラッキーですよ。身元が分からない場合は奴隷になって農作業や炭鉱作業、家事なんかをやることが多いですからね」


「そうなのか? この国だと奴隷制は普通なんだったな」


「タイチさんは奴隷がいないところにいたんですか? 良い国じゃないですか。この首輪には魔法の力があって、勝手に移動したり、人に危害を加えようとすると首が閉まるような仕組みなんスよ。後は、勝手にお店を開いたり、結婚なんかも決められた相手以外はダメっスね」


本郷が中学、高校の時代に勉強した歴史でも過去に奴隷制度があったことは記憶している。そして今も残っている国もあるそうだが、ほぼ奴隷制度は廃止されている。


「そこまでして奴隷を縛る必要があるのか?」


「獣人族の身体能力は人間より高いですからねー。空を飛べたり、1時間も水中に潜っていられる種族もいたッスね。ちなみに私は猫族なのでジャンプ力が高いっスよ。首輪の制限がなければ屋根の上位飛んで登れるッス」


獣人族は人間に他の生物の力を足した能力をそれぞれ持っているらしい。


「言いづらいかもしれないけど、なんでそんな力があるのに獣人族は人間に負けたんだ?」


「魔法と銃が一番の理由っスね……。獣人族は魔法が使えないし、銃なんて知識もなかったから、それはもう一方的だったらしいっス。」


コブスが言っていた周りに戦争を仕掛けては取り込んでいったというのが、この獣人族との戦争なのだろう。


「嫌なこと聞いて悪かったな……」


「まぁ何百年も前の話ですし、私もこの国の生まれですからピンとこないんですけどねー」


そういうとグツグツと煮える鍋をかき混ぜながら楽しそうにしている。

少なくともミケットは楽しそうに作業をしているところから、コブスとミランダの人柄の良さは伝わってくる。


ミケットとの会話が終わり、厨房からカウンターへ戻る。

そして本郷は疑問に思うところがあった。

『軍人の中に奴隷はいなかった』

ということと、

『他の奴隷の事に関しては色々と調べたほうがいいかもしれない』

ということだった。


気が付くとコブスとジェリドが何処かから戻ってきていたらしい。

2人とも険しい表情で何かを見ている。


「お帰り。何をそんな難しい顔してみてるんだ?」


本郷が話しかけるとこちらに気が付いたのか、コブスがこちらを見た。


「今晩、ヒッコリー村周辺の哨戒任務と試作中の試し打ちをしてこいとさ」


そういうと、テーブルの上に置いていた書類を持ち上げ、ひらひらと揺らした。


「いきなりかよ! 用事がある時じゃなかったのか……」


「その用事というのがこれだ」


コブスが木箱から銃を取り出した。

本郷が持っている銃と形はほとんど変わらない。


「5発まで弾が入るようになっているんだとさ。撃ったらボルトを引くと、排莢と装填が行われる仕組みだそうだ」


ここまでくると自動車や自動小銃辺りも開発される様になるのも早いかもしれない。もともと魔術があるから発展のスピードは早そうではあるし。


「すでに量産体制に入っているそうだが、どれだけ役に立つかの試験と、敵兵を見たという情報があったらしくてな。偵察がてら試してこい、だそうだ」


コブスから手渡された試作の銃を受け取った。


「あんまり気が進まないなぁ」


本郷は大きなため息をついた。

戦わなくてはいけないのは分かっているが、それでも自由気ままに異世界を満喫したい。新しい銃を見て、本格的に戦争に巻き込まれていくのだと実感する。


「ヒッコリーってところはここから近いのか?」


「馬車で移動して夜中には到着するだろうな」


「トルガよりも近いんだな。そんなところまで敵が来ているのか?」


「恐らくラカスラトの偵察兵じゃないかと思うが……。最近は負け続きで前線がドンドン下がっているらしいぞ」


本格的に何とかしないとこのまま戦場の真ん中に放り出されそうだ。


『突然お腹が痛くなって俺だけお留守番とかそういう展開にならないかな』


哨戒任務とはいえ本格的な命令に今すぐ逃げたいと思った。


()()()()()()


久しぶりにこの画面を見たような気がする。


『これって多分、強制力が働いているよな……』


うすうす思っていたことだが、軍に徴集され翌日には出番である。

自信を置いて次々と進んでいく話に、余りにも事態が動く展開が早いと思った。


やはりラカスラト王国に他の神が召喚した召喚者がいるのだろう。

そして、戦う方向に行くということは話し合いで解決できないということだ。


自決の画面を消し去る。現状では、相手の召喚者に、まず勝てないだろう。

そのためにも新しいスキル、そして死のリスクを回避するために力と権力を手に入れなくては……。


アイネが訓練所から戻ってきたところで、ヒッコリーへの出発を開始した。





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