神達の出世に一般人が舞い降りる?【1】
【ゴツッ!】
鈍器で殴られたような鈍い衝撃が本郷の体に伝わる。
『玄関先から落ちた後、俺はどうなったんだ?』
どうしてか言葉が出ないので心の中で呟いていた。次に手足に力を入れて動かそうとする。しかし、上手く力が入らない。
次第に意識が戻ってきて、自分の身に何が起きていたのかぼんやりと思い出す。
『そうだ、勝手に入ってくれって言われたからとりあえず入ったところで落ちたんだった……』
玄関を開け、足を踏み出したときにそのまま落下したことを思い出す。
【ゴツッ!】
再度、鈍い衝撃に襲われた。さっきよりも意識がはっきりしてきたのか今度は痛みを感じる。
痛みを感じたとともに、手足にも力が入るようになってきたことが感覚で分かってきていた。
『死後の世界ってこんな状態から始まるもんなのか。死んでも痛みとか手足の感覚があるぞ? テレビで霊界から帰ってきた人の話なんて嘘ばっかりだな』
夏の夜に放送されるゴールデンタイムの心霊特番の事を思い出していた。
そして、何度も頭と体に響く謎の衝撃が気になってきていた。
徐々に体中に力が入るようになってきて、重い瞼をゆっくりと開ける。
そして唐突にそれは飛び込んできた。【縞パン】だった。それも白と緑のストライプ。
『俺の好みがわかっているとは、死後の世界もなかなかいいサービスじゃないか』
死んだのかどうかは定かではなかったが、恐らく玄関から落ちるという謎の死因を遂げたのだろうと思っていた。
きっとニュースでも不可解な事件、などの見出しが付いた放送がされるのだろう。
「さっさと起きなさいよ!」
【ガツッ!】
さらに強い衝撃が頭に加わった。何者かのつま先が頭を思い切り蹴飛ばしたのである。しかし、本郷は痛みよりも目の前でひらりと揺れるスカートと、その中身から目が離せないでいた。
『あぁ。我々の業界ではご褒美ですってこのことだのか』
やっと理解することができたと感心していた。これはオンラインの仲間たちにに自慢しなければと思いつつ、
『『妄想乙!』』
と、メンバーからからかわれるのだろうと心で笑った。そして、揺れるスカートと縞パンの件について考察する。
『ここが死後の世界であれば、三途の川にいる着物を着た少女か……。いや、着物だったらパンツなんて見えないはず……。着物って正式には【履かない】って聞いたことがあるぞ!」
本郷の頭の中でどんどん妄想が膨らんでいく。
「変なことばかり考えてないでいい加減起きなさい!」
「いってぇ! 俺の頭はサッカーボールじゃないんだぞ!」
同じところつま先でもう一発蹴られる。これで合計4回蹴られていた。もしかしたら、もっと蹴られていたのかもしれない。痛みから飛び跳ねるように起きた。
まだ、視界がハッキリとしておらず。ぼんやりと正面を見ていた。どうやら死後の世界というものは明るいようである。夜のコンビニの様な明るさだ。
もっと三途の川とか小石を積み上げては蹴り倒していく鬼が居たり、三角頭巾に白装束の一団が待ち構えているものを想像していただけに拍子抜けしていた。
「やっと起きたわね。ちょっと、こっちよこっち」
本郷は自分の両眼をごしごしと擦りながら声の主の方を見る。少しずつだが焦点が定まってきた。
やはり声の正体は少女だった。ここまでは声が聞こえていたので想像がついていた。
しかし、本郷が次に驚いたことは少女の服装である。
銀髪が腰まで伸びており、ツインテールになっている。しかもセーラー服。それに先程の縞パンも加えると、全くと言っていいほど自分好みのキャラクターが目の前にいたのだ。
「いや、アンタ死んでないし。それに私は一応神なんだけど? 死後の世界の連中と一緒にしないでもらえる?」
「え? 俺死んでないの? じゃあ玄関から落ちたのは夢だったのか……」
いったいこの少女は何を言っているのだろうかという疑問と、自分は死んでいなかったのかという二つの疑問が頭の中でグルグルとしていた。
「アンタをここ落としたのは私だし、あれは夢じゃないから」
「あー、新手のドッキリ? ダメだよー大人をからかっちゃ。親御さんにはちゃんと説明してあげるから。それに気軽に神様なんて言っちゃダメじゃないか」
きっと、この暑さにやられて玄関先で倒れてしまったのだろうと思った。
そしてこの家の娘さんに介抱してもらったに違いない。
『自分を神様なんて言うちょっとアレな子かもしれないけど、さっきのありがたい光景に免じて蹴られたことは黙っておこう。それに親御さんには謝罪しなくては…。客先で倒れたなんて絶対にマイナス評価だ。ボーナス減ったら嫌だなぁ…。』
心の中で自分を神という少女への不信感と客先で倒れたということを会社にどう言い訳するべきか悩む。
「まぁ、状況が理解できないのは分かるけど、ちょっと無礼過ぎない? この世界では神へ信仰が薄い人間が多いとは聞いていたがこれほどとはね……」
「この世界? 信仰? あぁ、もしかして君ってレイヤーか何か? それなら確かに設定って大事だからね。それにしてもそんな格好のキャラっていたかな……。で、何のキャラ?」
「まだ、信じられない? だったら身をもって知ってもらった方が早いわね」
神様を名乗る少女が本郷に向かって右手を差し出してきた。
『ポーズまでしっかりとやるなんてちゃんとしたレイヤーさんなんだな。最近は敷居も下がってきて色んな人が簡単にコスプレ出来る世の中だし、パンチラも見せパンってやつだろう。恥ずかしがらないのはそのせいか……』
何度もうんうんと頷いてと感心する。
関心をしていると少女の右手から突然、ぼうぼうと青い炎が出始めた。マッチやライターなどとは比べ物にならないキャンプファイヤーのような勢いの炎であった。
火にも驚いていたが、少女は空中に浮いていた。ふわふわと揺れるスカートが更に飛んでいることを認識させる。
「あつ! あっつ! 死ぬ死ぬ!! ……あれ熱くない?」
「どう?これで少しは私が神だってことが理解できたかしら?」
「うーん、確かにCGとかホログラフィックって感じではなかったし、それにワイヤーなんかで吊るされてる感じもしなかったし……。マジで神様……?」
「ずっとそうだって言ってるじゃない。この格好はアンタの頭の中から話を聞いてくれそうな姿を探して映しているだけよ」
「はぇー……」
本郷は気の抜けた返事しか出なかったが、説明が出来ない事象が目の前で起きていることは間違いないということは理解できていた。
そして自分の頭の中から話を聞いてくれそうな姿を映したということに、この姿なら言うことを聞くことは間違いないと確かに思っていた。
導き出された答えは、とりあえずこの神様の話を信じるしかない、ということまでは分かった。
「それで、神様が何で依頼なんか? その力があれば何とかなるんじゃないですか? アパートで暮らす2人組の神様とかじゃないんですから」
「誰よそれ? こっちにも色々事情があるのよ! それにこの世界って全然勇者が見つからないから大変だったのよ!」
ゲームの中でよく使う単語が聞こえてくる。勇者とは、自分も知っているあの勇者の事をさしているのだろうか。そして本郷が思ったのは、自分の目の前にいる自称神様は世界線を間違えて飛んできてしまったのではないだろうか……と。
「あの、勇者じゃなくてサラリーマンです……。主に営業なんですが……」
「さらりーまん? 賢者か魔術師の一種かしら?」
「いや、魔法とか一斉使えないですし、賢者って言ってもアニメや映画の知識ぐらいですし、そりゃたまに賢者タイムなんて時間はありますが……。サラリーマンは普通に仕事して毎月会社からお給料をもらう、俗にいう一般市民ってやつです」
神様にサラリーマンの説明をする。
そして、この世界には勇者なんて職業も賢者も魔術師も存在しないこともちゃんと説明した。すべては人間が作った創作であり、小説やゲームの中だけの架空の存在。確かに男であれば一度はなってみたいと思うことはあるだろうが、所詮夢物語である。
「それじゃ詐欺じゃない! 神を欺くだなんて許されないわ! 今すぐ殺す!」
「いや殺すって! そっちから連絡があったから伺ったまでですよこっちは!」
「何よ! この不可思議な呪文書に書いてるじゃない! 世界を平和にする仕事って!」