魔法使いと朝食当番
辺りが暗くなり始めた頃、未だに暖炉に火が点かない状態が続いていた。
勿体ないが、弾薬から火薬を取り出して着火剤代わりにした方が早いだろうかと本郷が思っていた時にアイネが暖炉に向かって歩いていた。
「ちょっといいですか、私が点けますね」
そういうとアイネは両手を前に出した。
手に明るい光が灯ったかと思うと、火が放たれ一瞬で暖炉に火が点いた
「お嬢さん、魔法使いだったのか」
突然出た炎に気を取られていたが、コブスはすぐにアイネを魔法使いと呼んだ。
「他の方には言わないでおいてください。その代わりに、タイチさんの件も黙っておきますので……」
先程の戦いで、刀を取り出したところなどを見られていたはしっかり覚えていたようだ。
落ち着いたところで食料を取り出し、小屋の中にあったテーブルを4人で囲む。
干し肉と、暖炉の鍋で蒸した芋だった。今回は前回の失敗を踏まえ、ちゃんと塩も持って来ている。
少し遅めの夕食を取りながら、魔法の件についてアイネが語ってくれた。
「私の家も昔は首都にあったそうです。ラカスラト王国と本格的に戦争が起きた際に、魔法使い弾圧運動が原因で、魔法が使えたスーン家は地位を失い、代々トルガの町長になったと聞いています」
「なんでラカスラト王国と戦争してるんだ?」
いつかは聞こうと思っていたが、ちょうどいい機会と考え、率直な質問を投げかけた。
新しい国が出来たぐらいでそんな大規模な運動が起きるようなことがあるのだろうか。
「ラカスラト王国の初代王はガムルス帝国の第二王子が建国したんです」
「第二王子? 同じ国の王子が他所で国を作ったって言うのか?」
「第一王子は魔法を使うことができない方でしたが、第二王子は魔法を使うことができました。そして、王位継承権のある第一王子を第二王子が暗殺を企てましたが、失敗して、ガムルス帝国を脱出し新しくラカスラト王国を建国したと言われていますね」
「結構複雑そうだけど、あり得なくもない話か……」
歴史の中でも王位継承を巡り血族の中で戦争を行っていた国もある。そう考えればこの異世界でも同様なことがあってもおかしくはない。
「それがきっかけで魔法使いと呼ばれる人間たちを排除しようとする動きが国全体で加速していきました。悪魔の手先であると揶揄され、多くの魔法使いが命を落としたそうです。そして、国外へ脱出した魔法使いの多くはラカスラト王国に亡命し、今の規模にまで大きくなりました」
俗に言う魔女狩りにどこかの国が大勢の民族を虐殺や弾圧した事件、教科書によく出てくる物騒な話であった。
「そのせいでガムルスには未だに魔法使いを悪魔と考える人もいます。逆にラカスラトでは魔法が使えない人間は地位を下げられてしまうそうです」
「それでアイネが魔法を使えるってことは秘密しておいてくれってことか」
干し肉をモシャモシャと食べながら本郷は聞いていた話をまとめていた。
「その通りです。スーン家は途中で養子を迎え魔法の血は絶えた、ということになっていますので」
実際のところは養子ではなく実子にそのフリをさせて生き長らえたということらしい。
「コブスやジェリドは魔法使いに抵抗がない感じだったな」
「私たちの部隊には魔法使いがいたからな。それに実力主義の部隊だったから魔法が使えて強いのであれば誰も気にしていなかったな」
「ふーん。そういえば、俺かアイネ、それともコブスたちのどちらが狙いかって聞いていたけどそれもこの戦争と関係があるのか」
本郷が尋ねるとコブスは険しい表情になり口を開かなかった。代わりにジェリドが声を出す。
「隠していてもいつか分かるだろうし、ちゃんと言っておいた方がいいわね。私たちがいた部隊は『ブルーイーター』って呼ばれていたの。相手の魔法使いが着ている服が青かったからって単純な理由なんだけどね。当時はガムルス最強とまで呼ばれて連戦連勝だったんだから。そして最後に私たちが戦ったのがアデン砦の戦いよ」
アデン砦。サイスが言っていたアデンの悪魔と関係性があるようだった。
一拍の間をおいてジェリドが続けて話す。
「当時は魔法よりも扱いやすく動きも早い銃が強かったわ。撃って突撃して剣で撃ち漏らした敵を倒す。そんな戦法ね。でも、相手だってバカじゃない。魔法障壁を編み出したのよ。まぁ障壁って言っても何発も銃で撃てば消えるようなものだけどね。当時は急に敵に当たらなくなるんだもの。味方中がパニックになったわ」
魔法障壁。ゲームでもよくある魔法だった。
本郷の知識にあるものだと銃でも魔法でも跳ね返したり無効化していたがこっちの世界はそんなに性能は高くないらしい。
「そこから一気に相手に圧されちゃって、砦を落とされそうになった時に伝わってきた命令が相手を砦の中に誘い込んで砦を爆破しろって命令だったのよ。もちろん味方が砦にいる状態でよ? 何かの間違いだと思ったし、確認のために部隊が一度下がることになったんだけど、砦を出た瞬間に急に爆発してね、生き残ったのはアタシとコブスだけだったわ」
ジェリドがちらりとがコブスの表情を確かめるように見て、話を続けた。
「アタシ達のケガも治ったころに軍法会議があって、そりゃもう必死に説明したわ。でも、実際にそんな命令は出ていないの一点張りでね。挙句に『ブルーイーター』がラカスラトに協力して起こしたんじゃないかって疑惑まで出たわ。魔法使いも所属していた部隊だったから疑いやすかったんでしょうね。そして、何の説明もないままアタシたちは除隊扱いでポイッってわけ」
「その時に指揮官をしていたのがサイス・デミトリーだ」
コブスの重たい口が動き、憎たらしそうに声が出た。
「それからは誰かに命を狙われたり大変だったけど、全員返り討ちにしてたらいつの間にか来なくなっちゃったのよね」
「そして、今回の一件で私たちが絡んでいるのを知った誰かが向かわせたと睨んだわけだ。もちろん、タイチやお嬢さんが狙われた可能性もある」
「それは分かったけど俺たちが狙われる理由はなんだ? アイネはスーン家の人間だからって言われれば説明がつくかもしれないけど、俺なんてこっちに来たばかりだぞ」
「帝国も一枚岩じゃないからな。王制なんて形だけで、ガムルス王は血が途絶えているし。実質国を動かしているのは軍の中枢部だ。傭兵とはいえ自国を襲ったとなれば都合が悪い連中もいるんだろう」
そんなことで人を殺すのか、と言いかけたが、話を聞く限り邪魔な奴は早めに消しておくという流れはどの世界も共通であるようだ。
「あの、お話は変わりますがタイチさんの事を聞いてもいいでしょうか? 先ほどの消えた剣などについて……」
「信じられないかもしれないけど、俺はこの世界の人間じゃないんだ」
本郷は自分が置かれている状況をアイネ説明した。神の代わりに戦わなくてはいけないこと。力を手に入れるには死のリスクが伴うこと、逃げることができないということも含めて全て伝えた。
アイネは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたが、すでに説明をしているコブスとジェリドもいたので信用してくれるまで時間はかからなかった。
「神の使徒というものなんでしょうか……。なぜそのような呪いを?」
「アイネちゃんもそう思うわよね。アタシ達も最初に聞いたときはビックリしたわ」
「俺だって最近は呪いなんじゃないかって思い始めたよ」
まだまだこの力に関しては不明瞭な部分も多い。ベルフェゴールが欠陥システムであるから仕方がないのだが、次に連絡が来たときはクレームを付けようと思う本郷であった。
そう思い、干した肉と蒸した芋を口に放り込む。とても質素な味がする。
「それにしても干し肉と蒸した芋ってこの世界はこんなのばっかりか! 焼肉とかないのか!」
「だったら明日の朝飯はタイチに作ってもらおう。この小屋の裏手を進めば川もあるし、動物なんかもいるだろう。こういうのは言い出した奴がやるもんだ」
「でしたら私もお手伝いします。野草で良ければ分かると思いますので」
文句を言わずに静かに食べていればよかったと心底後悔する。
こうして明日の朝食当番が決まったのであった。




