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オタク、戦闘す

 コブスがこれでもかと相手を挑発したせいで、謎の連中はローブ間から剣を引き抜いた。

 とても長い時間対峙していたように感じるが実際には数十秒しか経過していない。


 謎の連中は少しずつこちらを取り囲むように馬車の周りに広がるとジリジリと間合いを詰めてきていた。本郷たちと謎の連中の睨み合いが続く。


「じれったいわ!私はじっと待つ女じゃないの!」


 均衡を破ったのはジェリドであった。

 睨み合いの状況に耐えられず真っ先に近くにいた奴に飛びかかる。それに合わせるかの様にコブスも近くの敵に向けて剣を向けると突進を開始していた。


 そして残された本郷も自然と体が動く。2人に合わせて動かなければやられると思ったからだ。


 一気に間合いを一番近くの敵に詰めると上段から一撃を振り下ろす。もちろん、相手もその攻撃を防ごうと剣を前に構える。

 そして刀が相手の剣に当たり横に逸れて地面に向けて落ちる瞬間に持ち手を逆に切り替えて振り上げる。


『剣での戦いの一撃目は向こうもこちらを見ている、避けられるか逸らされると思ったほうがいい』


『相手の体を斬ろうと思うな。甲冑や何かしらの防具を付けていた場合に致命傷を与えられない可能性があるからな。まずは相手の武器を扱えないようにするんだ』


 コブスの訓練通り動いていた。振り上げた刀は真っすぐと振り上げられ、相手の持っていた剣を薙ぎ払う。それも両手首ごとであった。

 攻撃された奴は大量に吹き出した血と突然無くなった手に驚いていた。もう1人も同様に後ろに一歩下がったのが視界に映る。


『相手を確実に殺すまで気を抜くな。動いている限り何をするか分からん。私が戦場にいた頃に口に剣を咥えて攻撃してきたやつがいた』


 本郷の知る限り、三刀流で戦う化け物みたいな海賊の1人という知識しかないが、口で手榴弾のピンを外す兵士もいるし、ありえない話ではないかと訓練の時は思っていた。


 振り上げた刀を再度持ち手を切り替えて斜めに振り下ろす。相手の首目がけて左上方から右肩へ一気に切り裂くように斬りつけた。しかし途中で勢いが足りなかったのか、それとも途中で刀が止まってしまい、分断することができなかった。

 本郷はすぐに相手を蹴飛ばすように片足で蹴り、刀を引き抜く。動かなくなったの死体をちらりと見て、確実に息絶えているかを確認する。間違いなく死んでいたようである。


 それから、すぐに態勢を立て直したもう1人が本郷に向かって剣を振りかぶってきていた。

 それを刀で打ちとめると鍔迫り合いの状態になる。


『相手が接近して動けないときは相手の大事な場所を思い切り蹴り上げればいいわ! 大抵の男ならそれで動かなくなるし甲冑でもアソコの護りは完璧じゃないのよ。』


 先程斬った奴の一瞬ローブから見えた顔、今戦っているこいつの顔も間違いなく人間の男だった。

 それならばと思い、後に仰け反る形で刀を一瞬引く、この時、お互いに全力で押していたため、相手が前のめりになる形で態勢を崩した。


 本郷はこのチャンスを逃すまいと相手の股間を思い切り蹴り上げた。

 それはボールは友達と言っていた彼もビックリするほど綺麗な形で蹴りが入る。


「ウゴッ……!」


 男が呻き声とともに倒れ込む。

 あれが自分の立場だったらと思うと同情するが、やらなければこちらがやられるのだ。

 迷いもなく倒れた男の首を、被っていたローブごと横に薙ぐ様に斬り飛ばした。


「すごい切れ味ね。ローブごとスパッと切れちゃったわよあの人」


「刀というタイチの世界の剣らしくてな。試し切り用の丸太も綺麗に二つになっていたよ」


 2人の声が聞こえたことで、戦いが終わったのだということに気がつく。

 どっとした疲れと無意識に呼吸をせずに戦っていたのだろうか、一気に息が切れぜぇぜぇと呼吸する。


「いつから見物していた。むしろ手伝ってくれればいいのに……」


「1人目の手首を斬り飛ばしたあたりからだな。殺されそうになった時には助けてやろうとは思ったが最初から助けたら実戦にならないじゃないか」


 コブスとジェリドは相手を瞬殺にしていたらしい。

 やはり人間の皮を被った化け物にしか思えないほど早過ぎる。


 呼吸が徐々に戻り、2人のいる方向を見た時だった。

 繁みの奥から細長い銃口が真っすぐとこちらを向いていた。


「後ろだ!」


 本郷が必死に捻り出した声と同時に銃声が鳴り響く。


 倒れたのは俺でもコブスでも、ジェリドでもなかった。

 銃口を向けていた奴が倒れ落ちた。


 咄嗟に振り返った2人もその光景に驚き、銃声の方向を見た。

 そこにいたのは凛々しい顔で銃を構えたアイネだった。

 そう、荷馬車からアイネが敵に向けて銃を撃ったのだった。


「もう1人いたのか……。私の勘も鈍ったのかもしれないな」


「アイネちゃん助かったわ! すごいじゃない!」


「昔、父に教えてもらったんです。スーン家の人間たる者、女でも戦わなければならない時があると……」


 ゆっくりと銃を下ろしたアイネの顔は真っ青だった。

 それは本郷が初めて人を殺したときの顔と同じ表情だった。それに比べて疲れたとしか感じない今に慣れというのが怖いと感じつつ。今回も生き残ったと心から安堵していた。


「それにしてもこいつら、野盗じゃないな。装備が軽すぎるし統率もとれていた」


 コブスが相手の死体を観察しながら物色をする。

 その光景に驚いたのであろう。本郷が最初にコブスと出会った時とアイネが似たようなことを言う。


「コブスさん。襲ってきたとはいえ人道的に扱わないと……!」


「お嬢さん、人は死ねばただの器だ。戦場に人道的なんて関係ないんだよ。こちらを殺そうとした奴にかける慈悲があるのかい」


「ですが……!」


 本郷もジェリドもこの件に関しては何も口を出さなかった。アイネの言葉はそれ以上出てこなかった

 自らも敵を撃ったことに思うところがあったのだろう。


「何も持ってないか。武器だけでも頂いていこう。タイチ、そっちのやつから剣と銃をとってきてくれ」


 持っていた太刀をアイテムボックスしまう。

 自分が今しがた殺した。首がない死体と手と首がない死体を見て拝む。

 そうすることで、殺したことを少しでも忘れないようにしようと思った。


 首がない死体から剣を取り、次に手首が付いたままの剣から手を引き剥がしとる。

 そして剣を2本とも片方の脇に挟み、茂みの奥で倒れていた男から銃を取り上げた。


 多分弾も持っているだろうと銃を持っていた男を転がして仰向けにすると額に穴が開いていた。

 一撃で頭を射抜くアイネの腕に感心する。自分よりも射撃の腕は上ではないだろうか。


 男のポケットから予備の弾薬も取り出し、馬車へと向かう。

 ずっしりと重い剣と銃、それに弾薬を持ちながら本郷は思った。


「重たい。せめてアイテムボックスに入ればいいんだけど……」


 そう思うと持っていた剣2本と銃1丁、それとポケットから取り出した数発の弾薬が消えた。

 呆気にとられたが、全てアイテムボックスに入った状態になっていた。


「タイチちゃん、どうしたの?」


 ボーっと立っていた本郷を心配してジェリドが声を掛ける。

 そして、近くにいたコブスにも今起こったことをありのまま話した。


「タイチ、試しにこれをしまってみろ」


 そういうとコブス2本の剣を本郷に渡した。2人が倒した奴らの剣だろうか。

 言われた通りアイテムボックスにしまうイメージをしたが、1本だけ消えて、もう1本は何度試しても消えなかった。


「なんだこれ、こっちだけ消えないぞ……」


「それは【私の剣】だからな。こっちが奴らの持っていた方だ」


 持っていた件をコブスに返し、代わりに渡された剣はアイテムボックスにしまうことができた。

 何の違いがあるのだろうかと本郷は理解できていなかったが、コブスがある仮説を立てる。


「持ち主が所有していると認識される場合は、消すことができないのかもしれないな」


「つまり、死体には持ち主という概念がないからしまえるけど、生きてる相手にぶんどるや盗むのコマンドは使えないってことか。モンスターからレアアイテム取るのに結構重宝したんだけどな……」


「共有物やお店で買ったものは自分の物だから大丈夫じゃないかしら?」


「色々試してみるしかないか。まぁ勝ったんだし、雨が酷くなる前に今日の寝どこまで急ごう」


 こうして、たった数十分の初めての実戦が終わったのだった。


 念のため、死体を森の中に隠し、移動を再開する。

 しばらくして一軒の家が見えてくる。


「今日はここに泊まるぞ。タイチ、馬を馬房に入れておけ」


 本郷は馬車から馬を外すと家の横についている馬房に馬を入れた。

 馬具の外し方や馬の入れ方なんかもスキルのおかげでなんとなく分かる。騎乗スキルを習得しておいたのは正解だったかもしれない。


 荷台から馬用の藁を馬房のエサ箱に入れると馬はムシャムシャと食べ始めた。


 雨風が強くなり始め、馬の世話を終えた本郷も急ぎ早に小屋に入る。

 着ていたローブを入り口の傍に引っ掛けると、暖炉の前でしゃがんだおっさん2人がお尻をこちらに向けて口論をしていた。


「ちょっと、コーちゃんの下手くそ! そんなんじゃダメよ!」


「うるさい! 木が湿気っているんだ、私の言う通りにしろ!」


 おっさんのデカい尻がぶつかり合い。まるで喋っているように見える。


「尻が喋ってる……!」


 その言葉が本郷の口から漏れた。


「ぐふっ…!」


 本郷の言葉がツボに入ったのだろう、アイネが必死に笑いを堪え、俯いたままプルプルと震えていた。

 その後、おっさん2人の口論は続いたが火は起きなかった。

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