良かろう、ならば殺し合いだ!
馬車に揺られながらトルガの町出発した。
「この世界の一般的な移動は馬だからな。乗れた方がいい」
コブスのアドバイスで手綱を任せてもらったが、上手く馬車を操ることができずフラフラと馬車が動いてしまう。本郷は車があれば簡単なんだがなと思いつつ、騎乗スキルの習得を試みる。
『【騎乗】を習得しますか ※確率0.00001%』
馬に乗るぐらいのスキルで殺さないでほしいと思った。
スキルがなくても慣れれば馬を操ることはできるだろう。
しかし、スキルがあった方が扱い方が理解できるので断然習熟度が早い。
『【騎乗】を習得しました』
剣や銃の時にも明らかだった。かなりハードな訓練ではあったが、サラリーマンが1週間程度で戦えるようになるとは思えない。スキル補正のようなものも働いているのだろうと思っていた。
それに少しでも低いステータスが上がればいいなという期待もあった。
スキルを手にしてからは馬がどうすれば動くのか、曲がるのかというのが知識で分かる。
フラフラと左右に揺れていた馬車がやっと真っすぐに進むようになった。
ある程度慣れてきたところで、コブスに質問をした。
「アウグスタまではどれぐらいかかるんだ?」
「途中で日が落ちるだろうからキャンプして明日の午前中ぐらいだろうな」
車かバイクがあればもっと早く着くのだろうが馬車でゆっくりとであればそれぐらいはかかるのだろう。
数時間ほど馬車に揺られていると雨が降ってきた。
「ジェリド、荷台のローブを出してくれ」
コブスがそういうと、ジェリドが荷台に載せてあったローブを取り出した。
本郷とコブスはローブをまとう。雨合羽の様なローブだがしっかりと雨をはじいてくれていた。
ガタガタと揺れる馬車は木材にそのまま座っているので振動と固さでお尻が痛くなってきた。
「クッションか何かないかな、尻が痛くなってきたよ。なぁコブス?」
横にいたコブスを見た瞬間に、その顔は見覚えがあると思った。
その顔は本郷と一緒に強盗の兵士の殺したときにしていた冷静で何を考えているか分からない冷酷とも思える顔だった。
「ジェリド、何人だと思う」
「3、いや、4人ってところかしらね。雨だからちょっと分かりにくいけど、途中からずっと同じ間隔で付いてきてるわ」
荷台でのんびりとしていたジェリドまでコブスと同じく軍人の顔をしていた。
険しい表情のこの2人を見ると背筋がゾクッとする。
「マジかよ、全然気が付かなかった。野盗か?」
「気が付かないとはまだまだ訓練がまだ足りないらしい。もっと殺す勢いで私が叩き込んでやろう」
「アタシも手加減なしでやろうかしら。もっと鍛えれば片手で相手を殺すぐらいには強くなるわよ」
「先に俺が死んでしまいそうなんだが……」
あれ以上にハードな訓練は体がヤバいと反応している。
温厚なラグビー部が軍人並みになって相手を薙ぎ倒していく風な人間になりかねないと思う。
「アイネちゃん。悪いんだけど馬車からは絶対に出ないで頂戴ね」
「分かりました。でも私もスーン家の娘ですから自分の身は護れます!」
「まっ!強い女は素敵になるわよ!」
会話だけなら女の子の会話なんだよなと思いつつ片方がオカマなことを残念に思う。
「この辺りでいいだろう。タイチ、訓練の成果を私に見せてみろ」
そういうとコブスは馬車から降りて剣を抜き、森の中を睨む。
ジェリドも荷台から降りると腕をまくり格闘の構えを取っていた。
「タイチ、あの刀を出しておけ。殺し合いになるぞ……!」
「分かってるさ!」
言われずともこれから起こるであろうことは容易に想像がつく。
本郷も馬車から飛び降りると、アイテムボックスから太刀を取り出した。
「タイチさん今どこからそれを……?」
「あー……後で説明するよ」
隠して出したほうが良かっただろうか。
刀を何もない空間から出したところをバッチリと出した瞬間をアイネに目撃されていた。
「私とジェリドが1、タイチは2だ」
「俺が2人相手にするのかよ!」
「戦場じゃ数十人突っ込んでくるからな。それぐらいは軽くやってくれないと困る」
軽くからかわれていると、森の中からザザっと草木を分けて何かが近寄ってくる気配を今度は感じとった。
「隠れてないで出てこい! 相手をしてやろう!」
コブスが大声で森の中で動く何かを挑発する。
すると人間の男らしき人物が4人、茂みからこちらへ出てきた。
全員が全身隠れるようにローブをまとっており顔は見えない。
「お嬢様とうちの若いのが目的かな? それとも私たちの方かな?」
コブスの問いかけにローブの人間たちは答えなかった。
「良かろう、ならば殺し合いだ! うちの若いのはお前らよりも強いぞ?」
親指で本郷の方を指差し、立て続けに相手を挑発するコブス。
顔は見えないが4人の視線がこちらに向けられているのは分かる。
『やめろ、自慢そうに俺の方を見るんじゃない。そういう死亡フラグを立てた時は敵のヘイトが集中しやすいんだ!』
心の中で泣きたいほど叫んでいたが、冷静なフリを続ける本郷であった。




