アイテムボックスとガチャチケット
「首都に来いって? 俺が?」
アイネが届けてくれた手紙はガムルス帝国の軍からの呼び出しであった。
「はい、今回の騒動について直接報告してほしいそうです。私も来るように書いてありました」
手紙には本郷とアイネが出向くように書かれていた。コブスとジェリドについては今回の件を他言しないようにとだけ最後に書いてある。
手紙には首都に入るための通行証も同封されていた。
「コブスとジェリドはどうするんだ?」
「ここにいなくていいのなら私たちも首都に戻るさ。本当の自宅はそっちだしな」
こうして翌朝に出発することが決まり、今日中に準備を整えることとなった。
その日の晩に夕食を3人でとりながらコブスが先日の答えを出してきた。
「首都に戻ったら、タイチの世界の料理を妻に教えてやってもらえないだろうか」
「奥さんいたのかよ!?」
「その気持ち分かるわー。アタシも結婚するって聞いたときは驚いたものよ」
コブスの奥さんは軍人時代の人、ということまでは聞くことができたが。馴れ初めについてはあまり詮索するな。ということ以外は語らなかった。
食事を終えて自室に戻る。
「守銭奴で元軍人で、笑いながら人に切りかかるような人間の奥さんか。本当に人なんだろうな……」
想像して出てきた人物像は空賊で頭領、3人の息子からはママなんて呼ばれている肉に噛り付いて引きちぎるようなパワフルな女しか出てこなかった。
「40秒で支度しないと怒られたりするんだろうか……」
これ以上想像しても、多分今の答えはそれしか思いつかないと感じ、それ以上考えるのをやめた。
「そういえばステータスとかどうなったんだろう。確かベルフェ様が報酬が何だとか言っていたな」
本郷は久しぶりにメニュー画面を開いた。
ここ1週間は扱きに扱かれて見ている暇などなかったので久しぶりに感じる。
「おっ、ステータスが上がってる。でも本当に殆ど変わらないし、魅了だけ一切変わってないな」
変化があったのは【度胸】【技量】【才能】だけだった。
経験を積めば確かに反映されるようだが、ステータスが上がったとはいっても本当に毛が生えた程度であった。ゲームで例えるならチュートリアルをクリアしてその経験値でレベルが上がった程度の成長である。恐らく、【魅了】に変化がないのは特訓しかしていなかったからだろう。
「魅力ってオシャレとか身だしなみで上がるもんなんだろうか……」
王道のハーレム展開にならないのは魅了のステータスがないせいなのではないだろうか。魅了が低いと老人やオカマを惹きつけるようである。
次にベルフェゴールが言っていた、アイテムから特別報酬の受け取りを行うことにした。
「他の神にバレたらヤバいって言ってたけど、どんなシステムになってるんだ?」
報酬を開くとアイテムボックスに宝くじのような絵が追加された。
その名も武器ガチャチケット。
『ランダムで武器が出るよ!』
説明欄に可愛い文字が書いてあった。
「まんまじゃねーか!」
本郷は部屋の中で、システムに向かってツッコミを入れたがもちろん何も返答はない。
生き残るうえでもっと便利なものが出るかと想像していたが、こんなところでもギャンブル要素が盛り込まれていた。まだ、猫型ロボットのポケットの方が信頼できるというものだ。
文句を言っていても何も変わらないので、とりあえず回してみようと思った。
チケットがアイテムボックスから消えて、その代わりに、『太刀』『SMAW』と表示されアイテムボックスに表示される。
「おぉ! ちょうど刀は欲しかったんだよなー。これはありがたい」
選択して念じてみれば取り出せるだろうかと思い、試しに念じると太刀が目の前に現れた。
想像していた刀に比べると少し長いと感じたが、剣よりは遥かに軽い。そしてリーチが長い分、室内で振り回すような戦闘には向かないことも判明した。
「どっかの名刀とかだったら嬉しいよなー」
今は使う必要がなかったので、アイテムボックスに入れるイメージを念じる。太刀は目の前から消え、再びアイテムボックスに戻っていた。
本郷は、どんな武将が使っていた名刀だろうかと期待して武器の詳細について確認する。
『ながい、かたい、つよい。しばらくは戦える』
「これ絶対にベルフェ様が想像して作ったやつだ……」
ベルフェゴールことであるから本郷の知識にあったものを混ぜ込んでそれらしいものが出る様に作ったシステムのようである。
説明が適当なのは恐らく面倒だと感じ適当に仕上げたせいだと思われる。
次に、SMAWと表示されたもの取り出してみる。
形は筒状であり、ずっしりと重い鉄の塊だった。
「なんだっけこれ、どっかで見たような……。ロケランじゃねーかアブね!」
すぐにその武器をしまう。ベルフェゴールのガチャは戦国から現代戦争までかなり幅広いラインナップらしい。
この段階でロケットランチャーが出てきたのはかなりのチートアイテムではないだろうか。
銃や剣のレベルから見ても未来の兵器感が強かった。
知識の中でも魔法の杖として出てきたこともあり、主人公が見事にそれを扱い、ゴーレムを倒したシーンは熱い展開だったなと思いつつ、元の世界に帰ったら読み返したいと本郷は思った。
『つよすぎるから、使い捨て。使い終わったら勝手に消える』
こんなところまで原作を忠実に再現しないでほしかった。
それならばゾンビに向かって弾数制限なしの方を出る様にできなかったのだろうかと思いつつ、使いどころが分からないこれはしばらくしまっておこうと決めた。
そして、気になっていたアイテムボックスがどこまで利用できるのかということについても実験した。これも自分の知識で作られたのであれば何でも入り、なんでも取り出せるチート能力出来上がっているはず。
試しに部屋の中にあったものをしまってみようと本郷はいたるところを念じてみたが、部屋の中のすべてが反応しなかった。
壊れているのだろうかと思い、コブスに渡されたままの甲冑と銃に向かって念じると今度は目の前から消えアイテムボックスに入ったのだ。
何が理由で入るものと入らないものの区別がされているか現状は分からないままだった。
次に困ったのは、しまえる距離である。手をぐっと伸ばした程度の距離しか入らない。手の届かないもの範囲外扱いになるらしい。
「アイテムボックスぐらい普通に作ってくれよ……」
やっと勇者らしい能力が出たと思ったが、ベルフェゴールの面倒くさがりが前面にちりばめられた、便利なようで不便なシステムだということは判明した。
「太刀の事はコブスに話すとして、ロケットランチャーは黙っていよう……。新しい発見と欠点が分かっただけでも収穫だな。今日はもう寝よう。」
この世界の技術がまだ分からないことと、使い捨てのため、切り札として取っておいた方がいいと思ったことも要因だ。
そんなことを試している間にいつの間にか本郷は眠ってしまっていた。
翌朝、体に感じたもの凄い悪寒に目が覚め、咄嗟に太刀を取り出して構えていた。
これもコブスとジェリドの訓練の賜物である
悪寒が伝わってきた方向に目をやると、両手を組んで壁に寄りかかる様にコブスが立っていた。
「すごいヤバい感じがしたんだけど何だったんだ……?」
「私が出した殺気ってやつだよ。普通の人間には分からないだろうが、特訓の成果が少しは出てきたんじゃないか」
先程の強烈な悪寒は殺気だったらしい。
体から血の気が引きそうになる感覚がとても気持ち悪かった。
「おっさんの殺気で起こされるってどうなのよ……。女の子が朝だよーとか言って起こしてくれるハーレム系に今から変わらないかな……」
「それも向こうの話か? 理解できんな。それにその剣は昨日言っていた刀か? どこから取り出した?」
「なんかこ報酬だって神様がくれたんだけど、俺の力で出したりしまったりできるみたい。もらった銃や弾薬もこんな感じでさ……」
そういうと刀をアイテムボックスにしまい、次は銃と弾薬を出現させる。
「ほぅ、便利だな。なんでも入るのかそれは」
「いや、どうも入るものと入らないものがあるんだけど、条件が分からない。部屋の中の物はダメだったけど、甲冑や銃は入るんだよな」
「タイチの力は便利なのか不便なのかさっぱりわからないな」
「この力をくれた神様に言ってくれ。さっきの刀だってすごいものなのかどうか全く分からない代物だし」
アイテムボックスの話と刀の話が終わった後、コブスの提案で刀の切り味を試そうということになった。
本郷が訓練として剣の練習をしていた場所に辿りつくと、コブスは近くにあった丸太を『ふん!』と一撃で二つに割ってみせた。
「タイチ、その刀を貸してみろ」
そう言われ取り出した刀を渡したが、コブスが持った瞬間に刀が消えてしまった。
これには本郷もコブスも驚いた顔になった。
しばらく考えてしかしコブスは何かを感じたようであった。
「今度はしまっている銃と弾薬を出してみろ」
言われた通り銃と弾薬を取り出すとコブスは先ほどの事がなかったかのように持ち上げた。
「なんで刀だけダメなんだ?」
「分からんが、この神様の力が影響しているのではないか? 仕方ない、タイチが切ってみろ」
銃と弾薬を返され、しまう代わりに太刀を取り出す。
本郷は言われた通り、刀を上段で構えそ太刀を振り下ろすとスパッと割れたのだった。
初めて刀を使ったが、コブスから剣の扱いを学んだこととスキルがあったおかげで使い方はしっかりと出来た。
「なんかめっちゃ切れるなこれ。剣とは大違いだ」
本郷は切れ味の素晴らしい太刀を見て、惚れ惚れとしていた。
しかし、コブスは太刀には目もくれず丸太の断面を見ていた。
「これを見てみろ、こっちが私が切った方で、こっちがタイチの切った方だ」
見比べてみるとコブスが切った丸太は叩き割ったように断面が歪なのに対して、太刀で切った方は綺麗に真っすぐ切れている。
「この刀であれば甲冑ごと人を切り捨てられるかもしれんな。剣では骨が邪魔で大抵体の途中で勢いが止まるが、これは切れ味の次元が違うから達人が使えば人も真っ二つに出来るだろう」
「達人なら……ね。まぁやっと便利なアイテムを手に入れることができたからいいか」
「死んだら何の意味もないから過信はしないことだ。切れ味が一流でもタイチはまだまだ兵士としては三流以下だからな」
コブスは大声で笑いながら釘を刺してきた。悔しいがその通りなので何も言い返せない。
切れ味を試したところで町に戻るとジェリドとアイネが馬車の前で待っていた。
「ちょっと2人でなにしてたのよ! もしかしてお楽しみ?」
「やめてくれ! 俺は女の方がいいしコブスは奥さんがいるだろうが!」
アイネがジトッした目でこちらを見ている。
『私に興味を示さなかったのは、そっち系の方だったからですか。そうですか』
と、言わんばかりの冷たい眼差しであった。
必死に誤解を解こうと本郷はアイネに事情を説明した。
そんなことも気にも留めず、コブスはアイネに話しかけた。
「お嬢さん、町の方はもうよろしいので?」
「町長代理といっても肩書だけですから。結局は町の皆さんが手分けしてくれましたし、私は皆さんの会話を聞いていたぐらいしかしていませんよ」
笑う仕草こそしていたがどう見ても苦笑いだった。
「それもまた時には必要なことですよ」
そういうと、コブスは馬車の手綱を手に取り、御者席に座った。
コブスなりの励ましだったのだろうと思った。
「ジェリドとお嬢さんは後ろだ。タイチは横に来い。馬の扱い方も教えてやろう」
そう言われて御者席に乗り込む。荷台をちらりと見ると先に乗り込んだジェリドがアイネの手を取り馬車に引き込んでいた。
そう言えばジェリドもアイネの心配をしていたなと思い返していた。
コブスもジェリドも変人ではあるが根は優しいということが良く分かる
こうして、トルガの町を後にして、ガムルスの首都アウグスタに出発したのだった。




