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お礼の仕方を壮絶に間違えた少女の話

 おかわりの芋も食べ終えて、コブスとジェリドも自室へと戻っていった。

 受け取った報奨の袋の中には銀貨が数十枚入っていたが、今後の面倒を見てくれると約束してくれたコブスに手間賃として全部渡してしまおう。


 夜も更に深みが増していた。

 今日はもう朝まで寝ようと蝋燭の火を吹き消す。外の月と星の明かりだけがほのかに部屋を照らしている。


「この世界にも月や星はあるのか。地球をベースにしたって言ってたからそれも再現してあるのかな」


 窓の外を見つめているとコンコンと弱い音で扉をノックする音が聞こえた。


「あの……。アイネです。入ってもよろしいでしょうか……?」


 アイネ。先ほど町長代理と名乗っていた少女である。

 ジェリドが気にかけていたがこんな時間に何の用だろうか。


「アイネさんか。どうぞ」


 多分、町中での戦闘に関して何か言いたいことがあるのだろうと思い、何の気なしにアイネを部屋に招き入れることにした。


 扉を少しだけ開け、頭だけこちらに向けると、部屋全体を見渡すようにキョロキョロとしている。


「私の事はアイネでいいです。それとコブスさんとジェリーさんは……?」


「ご飯も食べたし疲れたから寝るって言って帰っていたけど?」


「そうですか。良かった……」


 何が良かったのだろうと思ったが、アイネは部屋の中に素早く入り込むとパタンと扉を閉じる。


「んなっ……!」


 薄暗い中、扉の前に立った少女の姿を見て、本郷は口が空いたまま塞がらなくなっていた。

 最初に見た時は私服と思われる服を着ていたアイネが、白いワンピースのネグリジェ姿で立っていたのだ。


 ゆっくりとアイネは本郷のベッドへと近づいてきた。

 近づくにつれて、そのシルエットがハッキリと分かる。


 かなり薄い素材なのだろう、月明かりに照らされているせいで体のラインがくっきりと出ており、上下に白の下着を着けいることも分かった。


 これがゲームの展開なら、

『うひょー! 待ってました!』

 と喜んでこの先の展開をお座りして待っていただろうと思う。

 しかし、現実でいきなりこのような展開を迎えると、何がどうなっているのか思考が追いつかない。


 緊張なのか興奮なのか分からないほど心臓がバクバクと大きく鼓動してる。

 固まったまま動けなくなっている本郷をよそに、アイネはベッドの乗ると、本郷の腰に両足を挟むようにして座った。


「このぐらいのお返ししかできませんが……」


 そういうと、本郷の右手を掴み、自らの胸に押し付けた。

 鷲掴みになってしまうような形になり、もにゅっと揉んでしまっていた。


 スレンダーだと思っていたが、

『思ったより……ある!』

 その感想と手で触った感覚が直接脳内で何度も揉み返す動作が繰り返し再生している。


 そして、やっと今起きている状況に思考が追いついて胸から手を放した。


「ちょ、ちょっと待て! なんでこうなる!?」


 アイネの姿を直視することが出来ず首を横にしたまま尋ねた。


「町を救って頂いたお礼です。コブスさんにタイチさんが皆を救おうと提案したと聞きました」


「うんうん、確かに流れ的にはそうだったけど、この町では人に対するお礼はこれが普通なのか!?」


 確かに昔は体で払うということもあったのだろうが、この世界でもそのような風習なのだろうか。

 だとしても自分より年下の女性に積極的に迫られた経験のない本郷にはこの先どうしていいのか分からなかったのだ。


「お父様の書斎に会った書物に、女性はこうやってお礼をするのが当たり前と書いてありました……。未経験ではありますが書物でしっかり覚えましたので……頑張ります!」


「頑張る方向が間違ってるから! それただのエロ本じゃねぇか!」


 もう少しでいろいろな展開に発展しそうなところを、エロ本という単語で冷静になることができた。

 ベッドのシーツを剥がすような形で、アイネをコロコロと転がすと、直視できないその姿を隠すためにローブの様にシーツを巻いて隠した。


「あのな、多分アイネが読んだ本の事なんだけど……」


 ゆっくりと、かつちゃんと理解が出来る様に書斎で見た本について説明した。

 それは未成年が読んではいけない大人の、それも男性が楽しむ本であって、そういうことは普通はしないということを説明すると、アイネの顔が次第に赤くなっていく。


「だって……! お父様の執務室の技術書の棚の奥にあったんです!だから私いっぱい勉強して……」


 エロ本の隠し方が中学生並みの父親のようであった。

 自分の行いがとても恥ずかしいことだと理解したアイネはダンゴムシの様にシーツに体を包んだまま丸くなっていた。


「まぁ誤解も解けたみたいだし、嫌々やるのは良くない。お互いの事とか考えてやらないとダメだ」


『タイチさんなら私は嫌じゃないです……』


 ボソッと呟いたアイネの言葉は本郷には聞こえていなかったらしい。


「なんか言ったか? とりあえず今日はもう遅いし、今ならみんな寝てるだろうから帰りなさい」


 何とかベッドからアイネを立たせると、扉の前まで見送った。

 ベッドに腰を下ろすと、戦いとは別の意味で大きなため息が出た。


「ちょっと惜しいことをしたかな……。でも、こういうのはやっぱりダメだよなぁ。でも……柔らかかった……」


 右手をモギュモギュと握り柔らかい感触を思い出していた。


「戦わないといけないのにそんなこと考えてたら死んじゃうか……」


 何とか煩悩を打ち払い、再びベッドで眠る本郷であった。


 一方で扉から追い出され、とぼとぼと歩くアイネは複雑な心境であった。

 自分たちを命がけで救ってくれた本郷に一目ぼれをしていたのである。


 そして、精一杯のお礼として父親の秘蔵本で学んだことが卑猥な意味で間違っていたことを想い人に指摘されてしまったことも相まって、憂鬱さを隠せないまま自らの寝室へと戻っていったのだった。

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