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ふかした芋には塩をかけたい

コブスとジェリドが正式に仲間になった。

お皿に乗っていた分だけでは足りず、おかわりを頼んだが、出てきたのはまた蒸した芋だった。

塩もかけずにもぐもぐと食べる2人を見て、多分旨いよりも簡単に済ませる派なのだろうと思った。


もくもくと3人で芋に噛り付いているとドンドンと強く扉をノックする音が聞こえた。


街で倒した兵士たちよりも立派な甲冑を付けた男と、護衛の男が2人。それに続くように少女が部屋に入ってくる。その女性はあの時服を破かれていた少女だった。


「貴殿らが、野党を倒してくれた者たちか、感謝する。私はサイス・デミトリー、デミトリー家の伯爵である」


「野党ねぇ……」


ジェリドがぼそりと呟く。その言葉に反応したのか、サイスと名乗った男がコブスとジェリドを睨み付けた。


「コブスにジェリドか……。軍から抜けていたのは知っていたが、まだ生きているとは思わなかったぞ【アデンの悪魔】め!」


どうやら顔見知りの間のようだが、関係は最悪らしい。

サイスの歪んだ顔が薄暗い部屋でもよく分かる。

数秒間お互いににらみ合っていたが、サイスは本郷の視線に気が付き、何事もなかったかのように態度を変えた。


「貴殿がタイチと名乗る異国の者か。我が国の民であれば勲章を与えるよう軍に依頼したいところではあるが、異国の者であるから仕方ない、報奨で我慢されよ」


そういうと傍にいた護衛が小さな袋を手渡してきた。ズシッとした重みからして貨幣だろう。


「それでは、我々はこれで。タイチ殿には申し訳ないが今回の件を報告し、その対応が決まるまでトルガの町から出ることは禁ずる。貴様らもだ」


サイスは振り向くと再度、コブスたちを睨み付ける。

その後、入り口まで向かい、後ろに立っていた少女に話しかけた。


「アイネ嬢、お父様が亡くなられた直後ではあるが、あなたが町長代理だ。国のためにしっかりと尽くせ」


「かしこまりました、サイス様」


そういうと、護衛を引き連れてサイスは部屋から出て行った。

閉じられた扉に向かってジェリドがムカムカと怒っていた。


「アイツ! アタシのことをジェリドって! もう少しで顔面を破壊してやるところだったわ!」


「お前にしてはよく我慢したさ。タイチも悪いな、私たちにも色々とあってね」


プリプリと怒るジェリドの背中をコブスがポンポンと叩きなだめた。


「話したくないならお互いに詮索しない、それでいいんじゃないか? さっきアイツよりはコブスたちの方が俺は信用できるし」


アデンの悪魔。白い悪魔や、亡霊なんて呼ばれたキャラも本郷の世界にはいた。


『通り名は強さの証拠だ!』


オンラインのロボットオタクの仲間もそう言っていた。こんな濃いキャラになったのも軍人時代に色々とあったのだろう。それに向こうが話したくなった時に聞けばいいだろう。


「あの、お話し中に申し訳ないのですが……」


取り残された少女が申し訳ないように会話を遮る。


「あぁ、すみません。えっとアイネさん、でしたっけ?」


「はい。アイネ・スーンと申します。アイネで結構ですよ。死んだ父のトルジットに代わって今は町長代理をしております」


礼儀正しい少女だった。すらっと肩まで伸びた髪を後ろで束ね清楚な感じがする。肝心なところは良い意味でスレンダーだった。あくまで良い意味でスレンダーだった……。


「ジェリド様、町はこのような状態ですし、返済まで少し待っていただくことは出来ないでしょうか。今は復興を優先させたいと考えておりますので……」


「今回は取り立てよりも挨拶に来た程度だから心配しなくていいさ」


アイネは深々と頭を下げると静かに部屋を去った。


「なんか綺麗だし冷静な人だったな。スレンダーだったけど」


「父親が殺されたばかりなのにいきなり町長代理になったり、良くできたお嬢さんだと思うぞ」


「アンタたち、女心がまるで分っていないわね……」


「オカ……ジェリーには分かるっていうのかよ」


アイネの去った扉を見つめながらジェリドは娘を見る母の様な顔をしていた。


「多分、泣きたいはずなのよ。それでも自分が泣いたら町の皆に示しがつかないし兵士たちも付け上がるわ。そうならないために必死に自分の心を押しとどめているのよ。アタシには分かるの……!」


「女心か……。私は昔からそういうのには鈍いものでな」


「あら、冷たいわね」


「夫や親を亡くした連中はいくらでも見てきただろう。あまり肩入れすると後が辛いぞ」


コブスの冷静な考えは普通だったら冷徹だと思っただろう。

軽い言葉ではなく、色々な死を見てきたからこそ出てきた重みがあった。

本郷が今日殺した程度では済まない規模の殺し合いも2人は経験してきたと思われる。


口を挟めないまま気まずい空気を、芋を食べることで紛らわしていた。

それでも我慢に耐え兼ねて、言葉を発する。


「なぁ、蒸した芋以外になんかないのか?せめて塩だけでもくれ」


真剣な眼差しで訴えた。いい加減唾液が限界だ。口の中の水分がすべて芋に持っていかれ、飲み込むことができない。


「文句の多い奴だな。仕方ない、後で塩か何かを用意しよう」


「そうしてくれ。あと、せめて揚げ物にするとかサラダにするとかして食いたいもんだな」


文句を言いながらもモチャモチャと芋を食べ続ける本郷を見ながらコブスは考え事をしていた。そして、思いついたことを本郷に問いかけてくる。


「タイチは料理が出来るか?」


「たまに自炊したりすることは合ったから一通りは出来るけど」


その答えを聞いてコブスはさらに深く考えているような表情になった。


コブスには何か考えがあるようだった。

ただ、その日はもう少し考える、とだけ言い残し解散となった。



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