初めての仲間は、守銭奴の老人と怪力のオカマでした
ベルフェゴールから連絡をもらった後、いつの間にかまた眠ってしまっていたらしい。
夢を見ていた。
何だか体が熱く締め付けられるような感覚に襲われていた。肉を切り、骨まで刺さったときのゴリッという音、銃を撃った時の腕に伝わるビリビリとした振動。生々しいほどに未だに手に残っている。殺した瞬間の兵士の顔がハッキリと脳裏に浮かぶ。
本郷はその悪夢に耐え切れずハッ目を覚ました。
目の前に尖った唇と青髭だらけのおっさんの顔面があった。
「そんなお決まりの展開望んでねーよ!」
青髭の顔面を両手で押しのける。
「あーら、もう少しだったのに、惜しいわー」
青髭の男はオホホホと言わんばかりに片手で口を隠しながらベッドから降りると下がっていく。
「やっと起きたか。ジェリド、賭けは私の勝ちだな」
「んもぅ、せっかちな男は嫌われるわよ」
ジェリドがコブスに小銭を手渡していた。
その後に聞いた話であるが、ジェリドが本郷に馬乗りになった状態でキスを迫り、その前に起きるかどうかを賭けていたらしい。
悍ましい話である。
「あれから町はどうなった? 人質だった皆は?」
「そう焦るな。なんも食ってないだろ。食いながら説明してやるから」
そういうとコブスは蝋燭が置かれていたテーブルから食事を持ってきた。
お皿の上にはパンと蒸した芋、それと少しの野菜が乗っていた。
渡されたパンに噛り付くと、歯がおれそうなほどに硬かった。ふわふわなパンをイメージしていたがフランスパンよりもさらに固い。芋も野菜も味付けなしの超絶シンプルなものだった。
「パンは固いし、芋も野菜も味が一切しないんだが……」
「贅沢を言うな。用意してやっただけありがたいと思ってほしいものだ」
「肉に魚……。食べたいなぁ」
硬いパンを齧りながらコンビニがとても懐かしいと感じていた。
食べたいものがなんでも並ぶラインナップの豊富さはこの食事を食べてしみじみと思う。
「それでだ。お前さんが倒れた後、しばらくして近くに駐屯していた正規兵の連中が来た。あの爆発と煙を無視はできなかったんだろう」
「大変だったのよ! 兵士の死体を見るなり犯人扱いされるんだもの!」
硬いパンを引きちぎってはゆっくりと噛みながら疑問を投げかけた。
「でも、こうして無事だってことは誤解は解けたんだろ?」
「そうだな。町長代理が何とか説得してな。それに町中の全員が目撃者だしな」
「町長代理? 町長本人が説明すればいいじゃないか」
コブスが言っていた、町長の一人娘の事だろうか。
服を破かれて、ちらっとしか見えてはいなかったが、綺麗な肌だったなと妄想が膨らむ。
「あの爆発だけどな、町長の屋敷が吹き飛ばされたんだ。逆らった見せしめに町長の口に爆弾を咥えさせて、金目の物を奪ってドスンってことらしい」
想像するだけで一気に食欲が失せていきそうだった。それでも空腹には勝てず、次にいつ食べられるか分からないかもしれないと食事を続けることにした。
その様子を見て、コブスも説明を続けてくれた。
「殺しの件については一方的に奴らが悪いってことでお咎めもなしだ。安心しろ、正規兵が来る前にちゃんと金目のものは全部奪っておいたからな」
胸元に忍ばせた袋を取り出すとジャラジャラと揺すり満足げな顔をする。
「タイチの事だが、私の仕事を手伝う異国の用心棒ってことにしてある。見慣れない格好だし、異世界から来たなんて町の人間にも正規兵にも言えるわけないだろう? それに、傭兵崩れとはいえ、兵士を殺したんだ。用心棒とでも言わないと納得しないだろうからな」
「アタシもコーちゃんから異世界の人間って聞いて驚いたけどね」
流石は金貸し、ちゃっかりしている。それに根回しもしっかりしているし、世渡りが上手い。確かに血まみれのスーツ姿なんてこの世界では怪しさ満点だろう。
「なんで俺が異世界から来たなんて信じてくれたんだ?」
森で出会った時からどうして異世界から来たことをすんなりと信用していたのか疑問であった。
「最初は頭の狂った変な奴だとしか思わなかったけどな。バアル神殿跡を指差すもんだから驚いた」
本郷が最初に寝ていたあの石畳の場所はバアル神殿と呼ばれていた。
大昔は立派な神殿があり、毎日のように信者がこの町を通り、神殿で祈りを捧げようと活気に溢れていたそうだ。
「ガムルス帝国とラカスラト王国の最初の戦争が始まったのが大体1000年ぐらい前だな。その時にこの辺りでも戦闘があって、砦の役目をしていたらしいが壊されたそうだ」
「1000年前か…」
もしかしたら以前の神達のゲームが影響しているのかもしれない。
そんな推測を行いながら茹でただけの野菜を口に放り込んだ。
「あの神殿には昔から言い伝えがあってな。世界を巻き込んだ大きな戦が起きるときに国を救うべく救世主が現れるって話があるんだよ」
「それが俺だっていうのか?」
「どうかな、少なくとも剣も銃もまともに扱えない救世主なんて聞いたことがない。ただ、世界中で戦争が起きているってところと、そこからタイチが来たという話は辻褄があう」
「でも、最後に銃を撃った時の顔は格好良かったわよ! 痺れたわ~!」
やはり以前の神様の出世ゲームの1人が、そこから現れたのだろう。
どちらにせよ、そんな言い伝えを信じてくれた2人には心から感謝した。
「コブス、ジェリド。色々助かった。」
「ジェリドなんて堅苦しいわ、アタシの事はジェリーって呼んで、私のソウルネームなの!」
「じぇ、ジェリー?」
ジェリドがニッコリと笑い頷く。
男を片手で持ち上げたり、それを地面に叩きつけるような怪力だったことを思い出し、変に詮索するのはやめることにした。
「そういえばちゃんとした紹介がまだだったな。こいつが……ジェリド・ガイエンだ」
「ジェリーだって言ってるでしょ! コーちゃんじゃなかったら殺しちゃってるわよ!」
「俺は本郷、本郷太一だ。俺にも良く分からないが神様に戦えって言われて、気が付いたらここにいた」
ベルフェゴールやその他の神について話していいものだろうかと本郷は悩んでいた。
自分の知っている異世界ものは大抵そのことを伏せていたからだ。自分もそうしたほうがいいかと思ったが、欠陥だらけのシステムで1人で生きていけるとも思えない。
むしろ、誰かに話して少しでも楽になりたいという意味もあった。ベルフェゴールと名乗った神に勇者と間違われたこと、能力を手に入れるには死のリスクを背負うこと。大した戦闘力もなく、強制力のせいで逃げ出そうとすると自ら命を絶とうとする自決の事。
分かっていることをすべて2人に話した。
「ジェリド、お前どう思う?」
「タイチちゃんが嘘を言っているようには見えないけど、いきなりそんな話をされても飲み込めって言う方が無理よね」
「そうだよなー。異世界から召喚されましたって言われて可愛い女の子にチヤホヤされるのなんてハーレム漫画ぐらいだよな。俺が出会ったのは金貸しのおっさんと、……ジェリーさんぐらいだし」
おっさんとオカマと言いかけそうになったが、ジェリドの目が鋭くなったことに反応し、言葉を変えた。
普通なら可愛い少女を助けて、華麗に町を救い、ケガ押して倒れたところを親身になってお世話してくれる女の子が頬にキスを……などという希望した展開はなく、もう少しで一生の眠りにつくようなキッスをされかけたのだと思うと、本当に運がないのだと思う。
「ともかくだ、タイチ。私やジェリド以外の人間には秘密にしておけよ。ややこしい話が余計にややこしくなる」
立て続けにコブスが忠告する。
「お前の話が本当なら、この戦争も恐らく召喚者が何かしらの形で関わっている可能性があるだろう。ガムルスとラカスラトの戦争もそうだが、他の国でも戦争が起きているのもそれが原因かもしれん……」
「この世界では戦ってる国ばっかりなのか?」
「どの国もここ数十年は小競り合いを繰り返していただけなんだがな。最近になってラカスラト王国が積極的に戦いを仕掛けてくるようになった。この戦争に、その紋章を持つものが関わっているのだとしたら、関わりから逃げ出そうと出来なかった。それなら一応の説明がつくだろう?」
「確かに。それはあり得るのかもしれない……」
最後の芋のカケラを口に放り込んだ。
コブスの言っていることは正解に近いのかもしれない。世界中の戦争についても気になるところではあるが、まずはこの戦争について知らなくてはならないようだった。
それにしても味のしない芋というのは何とも食べにくいと感じていた。パサパサしていて飲み込むのもやっとのほどだ。
「まずは提案だが、しばらく私やジェリドがお前の面倒を見る。剣や銃、それに格闘術なんかも教えてやろう。あんな素人攻撃じゃいつか死ぬだろうからな」
「それはありがたいけれど、何にも渡せるものなんかないぞ?」
「お前さんは強くならないといけないんだろう? 強くなれば自然と金が向こうから近寄ってくるもんだ。タイチは絶対に金を産む。金貸しの勘だ」
「そうね、タイチちゃんが強くなればいい男も寄って来るでしょうし、私も賛成よ!」
どこまでも守銭奴な老人と、怪力オカマのおっさんが仲間になった。
だが、ありがたい話ではある、
パーティーメンバーのスタメンが、サラリーマンと守銭奴となどというゲームは聞いたこともない。それでも初めてできた仲間は本郷にとってこれ以上なく嬉しかった。
でも、幼馴染や国の王子様が最初に仲間になる話なんてやっぱりゲームの中だけなんだろうなと落胆したのだった。




