第2話 キャラクタークリエイトでまさかの失敗
《うぇるかむ!エデンへようこそ!》
「意味重複してるし……」
ゲームを始めると聞こえてくる機械の声にそうツッコミを入れる。 ようこそとウェルカムはちょっと違うが、大体同じ意味だ。 わざわざ二回繰り返す言葉ではない。 出鼻を挫かれた感があるが、とりあえず辺りを見渡してみる。 周囲一帯は一面黒い空間だ。 自分以外の世界が消えてしまったような印象を受ける。 実際、ここの空間にテクスチャは存在していないのだろうから間違いではないだろう。
《ここは、キャラクタークリエイトの為の空間です。 チュートリアルはログイン後に指定の場所で行うので、ここではしません。 では、クリエイト画面をどうぞ!》
オレのツッコミに反応を返す事なく、機械の声はどこかお決まりの印象を受ける言葉をかける。 おそらくシステムでメッセージが設定されているのだろう。この声はAIとかではないようだ。
とか思っていると、目の前に透明な窓のような画面が出てくる。 多分これがクリエイト画面だろう。 多くのVRを題材とした小説に良く出るメニュー画面の形にドンピシャだ。 多分ゲーム内のシステムウィンドウは大体こんな感じなのだろう。
とりあえずクリエイト画面を見てみる。 どれくらいパーツがあるのかと適当に一番下までリストをスクロールしてみる。
「うわ……髪型だけでもスクロールに8秒かかった……」
パーツ多すぎ問題。 思わずうわ……とか言っちゃったよ。 多分オレの今の顔はかなり引き攣ってると思われ。
「その前に、今オレどんなアバターなのさ?」
《アバターを確認しますか? YES or NO》
気を取り直し、まずは今のアバターの姿を確認するように言うと、選択肢が出てきた。 当然のごとくYES。 そもそもこの確認要らないんじゃないか? だって最初からアバターを表示してた方がいいだろ。
「いえす」
《アバターを表示します》
そうして表示されたのは、簡素な服を着ただけの現実のオレそのままなアバターだった。
うん。 これはオレだ。 童顔で低身長で髪が長くて………まぁ、色々と女性に間違われる事の多いオレの姿のままだ。 実は妹よりも身長が低い事を密かに気にしている。 ショッピングとかすると必ず年下に間違われるのだ。 これでも高3なのに「ギリッギリ!……よくて中1がいいところだろ」とヒビキにも言われた記憶がある。 因みに女性の平均身長を見ながら判断されてたからヒビキは後で締めておいた。 そんなオレの身長は139㎝だ。
「身長高くできない?」
《推奨しかねます》
ほんのコンプレックスから聞いてみるが、返事は芳しくない。 多分多くの人から同じ質問をされたのだろう。 機械の声に対応するボイスが存在しているという事はよくある質問という訳だ。
……まぁ、現実の体と乖離が酷いとログアウトした時地獄を見るとか言われてたし、現実の姿のままで………いや、髪下ろしたままだと邪魔になりそうだな、いっそ結ぶか。 切るという選択肢が出ないのは………実は妹がこのゲームをしているからだ。 オレがVRゲームをヒビキから渡された時に「一緒にやろー」と後ろから誘ってきた時に判明した。 だから髪は切れない。 妹は何故かオレが短髪にしてるとかなり落ち込む。 母も残念そうに見てくるし、家族の目があるうちは髪は切れないだろうな。 一人暮らしが待ち遠しい。
とりあえずクリエイト画面から適当に二つ結びの髪型を選んで、カラーパレットから髪色を金髪に染める。 瞳も薄い青色にしてみればオレの面影は殆ど無くなる。 こういうゲームでリアルを持ち出すのはルール違反だし、最近は情報化社会の弊害か外見が同じだとリアル特定余裕だろうからな。 対策としてある程度現実と離れたアバターにしなければ。
「こんなもんでいいだろ」
そうして出来上がったのは、現実より幼い印象を受ける自分のアバターだ。 二つ括りにした髪型が印象を幼く見せているのだろう。 童顔なのも相まってかなり幼女みたいだ。 …………………失敗したかな?
《アバターを決定しますか? YES or NO》
「えっ……あ、はい」
《アバターを決定しました》
やべっ、決定しちゃったよ。 ……まぁ、いいか。 高校生くらいの男が動物を可愛がっているより幼女が動物と戯れているように見られた方が絵的にもいいだろう。 間違ってはいけないのはオレはペットを可愛がる為にこのゲームを始めたことだ。 別に戦う必要はないのだからわざわざ威圧的な外見にする必要も無い。 よし、正当化完了。 別に幼女っぽくなったのがショックとかじゃない。
……あれ、そういえばキャラクリの時点で初期スキルや職業とかは決めないのか? よくある小説では先に決めるもんだが。
「あの、職業とかは決めないのか?」
《初期は全プレイヤーが職業:冒険者です。 変更するにはLV10になり、かつ職業に対応したスキルを所持している必要があります》
「なるほど」
つまり、レベル10になった時点で持っていたスキルでなれる職業にも違いが出る………ある意味プレイヤーのプレイスタイルにあった職業に自動的になれるという事か。 初期にある程度スキルが取得できないのは残念だが、プレイヤーが行動するとそれに対応したスキルが取得できると説明書にも書いていたし、自然と自分に合ったスキル構成になるものなのかも。
《質問は終わりましたか? YES or NO》
「いえす」
《では最後に『異能』を設定してください》
「異能……?」
なんか聞きなれないワードだな。 スキルとは違うのだろうか?
「その異能……というのは何?」
《プレイヤーが神に祝福を受けた存在である証であり、生まれた時から持っている先天性のスキルの様なものです。 プレイヤー達は各々オンリーワンな異能を手に入れ、それを育てながらパートナーと共に世界を巡るのです》
うーん……つまり、プレイヤーは全員始めた時から固有のスキルを持っているって事か? そしてそのスキルを育てながらパートナー……多分インディゴの事か。 それと一緒にゲームを進める、と。
これは、PvPになるとこの異能の把握ができているかどうかで勝敗が決まる事もありそうだ。
「それで? その異能はどうやって設定するんだ?」
《ガチャです》
「えっ」
《ガチャです》
「いや」
《ガチャなのです》
「…………………そうですか」
完全に運なのか。 まぁ、オンリーワンなんだしな。 勝手に選ばせたら普通に重複する可能性があるし、ガチャでも良いのかもしれないが。 もっといい言い方無かったのかと思わずにはいられない。
《異能を決めますか? YES or NO》
「ああ……はじめて」
《了解しました》
……………………。
………………………………。
………………………………………。
「演出とか無いのか……」
ガチャって言ったから、そりゃ煌びやかな演出があるものだと思って待っていたが、普通にだんまりだ。 この黒い空間に何か変化がある訳でもない。
ちょっとだけ期待してただけに落ち込みながら待っていると、《決定されました》という言葉と共に目の前にシステムウィンドウが現れる。
「『ナイトウォーカー』……?」
《夜間活動時に全ステータスが25%上昇するパッシブスキルです》
「なるほど。 限定的ではあるけど、それなりの当たりを引いた訳ね」
システムウィンドウに書かれた異能を復唱すると、律儀に返答が返ってくる。 夜間限定とはいえ、全ステータスが1.25倍になると思えばかなり有用なスキルだ。 何よりステータス上昇系はこれと言った弱点が無いのがいいな。 有り難く貰っておこう。
それにしても、この機械の声には異能毎に説明用のテキストがインストールされているのだろうか? ……少なくとも『ナイトウォーカー』だけに説明があるとは思えないし、全部の異能に説明用の言葉が用意してあるのだろう。 まぁ、ログインしてステータス画面を見れば直ぐに異能の効果は分かるだろうし、わざわざこの声に聞く人もあまり居ないだろうが。
「そろそろ、ログインしよ」
《最後にプレイヤーネームをお決めになって下さい》
あっ……そういやそれがあったな。 完全に忘れてた。
「うーん……じゃあ、リク!」
《すでに使われています》
……うぐ、現実の名前は無理か。
「クガ」
《すでに使われています》
苗字もダメかー………。 いっそのこと、外見に合わせて女性名詞にしてみるか? ……なんて。
……………流石に、使われてるよな?
「………リナ」
《プレイヤーネームを決定します》
「ちょっとまてぇええええ!!!」
これだけ、YESかNOか聞かないの!? ……待て。 ホントに待てよ。 マジでコレが通ったらヒビキに一生ネタにされる……ッ!!
「変更を!変更を求める!!」
《では行ってらっしゃいませ。心ゆくまで、エデンの世界を堪能して下さい》
「待てって言ってるだろぉおお!?!?」
《ログインします》
レベル上限は特に決めてません。なので、最終的にかなりインフレする可能性が高いです。まぁ、それまで続けばですけど。