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第1話 ペット愛でるだけでいいから!

連続投稿!



さて、訳がわからないという人の為に説明せねばなるまい。 それは、夏休みに突入してほどなく、唐突に始まったのだ____。











いつもの日常。

それは、いつものようにスマホゲームのログインボーナスをチェックして連続ログイン日数を稼いだり、新しく始めたダンジョン探索型ゲームで相変わらずフィールドを大量に徘徊するボスに苦戦したり、新聞読みながらコーヒー飲んだりして朝の眠気に抗いながら退屈な夏休みを過ごしていた時だった。


突然玄関のドアが開き、転げそうになりながらも我が友人であるところの遠野響(とおの ひびき)がオレにあるものを見せた事から端を発する。


「当たったぜ!!」


「おー……そうか」


脈絡のない唐突な一言に含まれた言外の圧力に呑まれながらもなんとか返答を返すと、ヒビキは捲し立てるように言葉を紡ぐ。


「いやー、流石に当たらないと思ってたけどさ、どうしてもお前と一緒にしたかったし。 これは神様が日頃の行いを見て味方してくれた的な……!?」


「それならお前は今頃オレにお気に入りのゲームのデータを消されてもおかしくないね」


「………」


オレは神様がどうとか都合のいい事を捲し立てる友人に冷水を浴びせるが如くコイツの日頃の所業から考えて現実的な天罰を提案する。

するとヒビキは突然固まった。 さっきまで喜色が浮かんでいたその顔は今は困惑と恐怖、ほんのちょっとの疑心が浮かんでいる。



……………………。



「………消してないよな?」


「消してないよ」


「ほっ」


それなりに長い沈黙の後、確認するかのように呟いたヒビキの声に返答を返すと、あからさまな安心が返ってくる。

実際、オレはコイツには文化祭で女装させられたり名作ゲームのネタバレをポロッと零されたり等々、細かい恨みはいくつかあるが、それでも恨み切れないから友人やってるのだ。そんな姑息な仕返しなどしない。

それを伝えると、ヒビキはほんのちょっと嬉しそうに破顔した。


「へへへ、やっぱオレお前が親友で良かったと思うわ」


「煽てても夏休みの宿題は見せないぞー」


「いや、それも後で聞こうとしてたけど……今は違う話」


珍しいな。 ヒビキが宿題の事以外でオレの家に来るのは。 オレはさっきまで飲んでいたコーヒーを置き、新聞を傾けてヒビキと目を合わせると話を聞く体制に入る。


「で?何さ」


「言っただろ〜、『当たった』って。 当たったんだよ、『VRギア』が!」


「へぇ、それは凄い。 懸賞?それとも案外商店街のくじ引きとか?……どっちにしろお前、既にVRギア持ってたよな」


『当たった』と言うからには、運で手に入れたのだろう。 さっきも神様がどうとか言ってたし、ヒビキのここぞという時の運は良いからおかしくもない話だ。

でも、それでヒビキが喜ぶのはおかしい。 だってコイツ、VRギアを既に持っているのだ。


「いや、商店街のくじ引きだけど。 ……おっちゃん、かなり無理して買ったんだろうな。 まぁ、オレが取っちゃったんだけどさ」


「ミナミのおっちゃん、今頃血涙流してるんじゃないか?」


オレはヒビキとの付き合いでこの前紹介された商店街のおっちゃんを思い出しながら思う。 客引きの為に毎回高価な景品を用意してはヒビキに取られてる哀れなおっちゃんだったな。


「あのジジィの事は今はいいんだよ。それよりもホラ、受け取れ!」


「は?」


おっちゃんに若干の同情を抱いていると突然突き出されるダンボールの箱。 おそらくくじ引きの景品だろう。 確かにヒビキはVRギアもう持ってるし、誰かに渡すのだと思ってはいたが………。


「……まさかオレに?」


「おう! 言っただろ〜、『お前と一緒にしたい』って! そのギアに既に《ルート・エデン》っていうオンラインゲームがインストールしてあるから、一緒にしようぜ!」


…………何故に?


と、聞くと返事が返ってきたが、長かったので要約すると。

・実はオレ、βテスターだったんだ!

・βの特典でソフトを自分用と布教用に二枚発売日に貰えるのだ!

・でもVRギアは貰えない。

・仕方なくお蔵入りにしようかと思ってたらくじ引きにVRギアが!

・これだ!と思ってくじ引きに挑戦。見事VRギア(二個目)を手に入れる。

・兼ねてより一緒にやりたかったお前にプレゼントふぉーゆー!

・それ使って一緒に《ルート・エデン》やろうぜ!


というわけらしい。


「エデンは凄いんだぜ〜! 正に無限の可能性が詰まってる! 廃人達の夢の様なゲームなんだ!」


「あっ、じゃあ無理かも」


「へっ?」


嬉しそうにゲームについて語るヒビキを見てると言いづらいが、オレには無理そうだ。

………いや、だってオレ、そんなにやり込むタイプじゃないし。 廃人達の夢とか言われてもそんなに多いデータを処理する程の頭は無い。 説明書見る限りレベル最大がどこかもわからない果てしない要素をやり込む事は出来そうに無い。 これならヒビキと一緒にやっても足を引っ張るだけだろうとか思う。

ダメージ計算、新しいスキル構成の発見やステータス厳選、クエスト効率の検証やフラグの管理、トライアンドエラー。

廃人とは、知能と共にそれ以上の根気が必要だ。 ほかのゲームでもレベル60後半ぐらいには育てるけどそれ以上のやり込みはしない類のオレに育成の奥深さとか聞かされても困るし、戦闘で活躍できる程のプレイヤースキルを求められても困るというものだ。


「で、でもよ、これは世界初のVRゲームなんだぜ? ゲーマーなら……いや、ゲーマーじゃなくてもゲームやってる奴なら、やってみようってなるだろ!?」


「正直、難易度高いのは好きじゃない」


焦った様子のヒビキを見て少し罪悪感が湧くが、できないものはできないと言わなければ。 友達なら、いや友達だからこそ半端に付き合うのは許されないだろう。 オレははっきりとこのゲームはオレには合わないと言った。

だが、ヒビキは納得行かないのかあらゆる言葉を尽くしてオレを誘おうとするが、オレの反応は薄い。 既に興味も新聞に移っている。


そんなオレの耳にほかのゲームではあまり聞かない単語が響いた。


「___なら、『相棒(インディゴ)システム』で遊ぶだけでもいいから!」


「いんでぃごしすてむ?」


「そうだ! 相棒って書いてインディゴ」


その言葉が耳に入って、思わず頭を傾けた。

相棒、パートナーという単語自体は珍しくもないが、システムとして聞かされるのは初めてだ。 もしかしたら今まで見かけたゲームにそんなゲームもあったかもしれないが、少なくともオレが聞くのは初めてだろう。 思わずオレはヒビキに聞き返す。


「おおっ、興味出たか? ーー『相棒システム』っていうのは、ゲームを始めたプレイヤー全員が最初から使える召喚スキルでな、なんでも『自分の分身である魔物を従える』とか、なんとか……………とりあえず、ゲーム的にはプレイヤーのスキルを反映したステータスを持ってる高性能AIを搭載した特別なテイムNPCを召喚できるってヤツだな。 見た目も可愛いし、育成も楽しいし、プレイヤーによっては《ペット》とかいう言い方してる奴もいる」


「《ペット》か……ちょっと憧れるなぁ……」


「お、そういやお前のマンション、ペット禁止だもんな。 召喚は簡単だぜ?一言、『サモン』って叫べばいいんだ」


それは………正直かなり憧れる。 可愛いペットとか夢だったりする。 一日中モフモフに包まれるなら死んでもいい、とか考えた事もあるくらいだ。

特にウサギがいいね。 モッフモフだし、クリっとしたお目目が可愛いしモッフモフだし、丸っこいデザインは優しい気持ちにさせてくれるしモッフモフだし、白い体毛は雪のようで可愛いしモッフモフだ。 何より耳がモフモフだ。


「な? お願いだ! ……オレのインディゴも偶にお前に預ける事もあると思うしさ、そういう時にお前のパートナーと一緒にめいいっぱい愛でるだけでも楽しいぜ? お前確か動物好きだろ」


「まぁ……それなら、やってみようかな……?」


「へへ、決まりだな! 設定は終わらせてるからキャラ作ったら直ぐにでも始められるぜ。 じゃあ、エデンで会おう!」


はっ……! ペットの誘惑に思わずOK出してしまった!? ……ま、まぁ、ペット愛でるだけでいいって言ったのはヒビキ本人だし、大丈夫だろ。 多分。

オレはVRギアをオレに押し付けて帰っていったヒビキを見送りながらこれからの事に思いを馳せる。

《ペット》か………可愛いんだろうな。 戦闘にも参加させられるらしいけど……。

オレは押し付けられたVRギアをだらしのない顔で眺めていたのを妹に指摘されるまでずっとVRギアの確認をしていた。 ゲームに関してヒビキが不備とかをそのままにしておくとは思えないが、万が一もあるからな。



____ちゃんとソフト入ってるよな………?


インディゴ=藍色

という意味なんですが、とある理由で《ルート・エデン》の仮想世界内では相棒という意味に使われてます。別に言語が違う訳ではなく、単純に固有名詞を利用してるだけです。

みんなも神話の神さまや魔剣聖剣の名前を当て字に使ったりするのを見たことがあると思いますが、エデンでは『インディゴ』とは、とある英雄の事を指すのです。

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