上中下の中
山道の道路から家の入り口まで車で行ったから、その道はあるんだけど、それ以外全部木よ。森よ。
平屋の家と庭があって、その周囲全部森。
日中放っておかれて、ゲームもないしテレビないから周辺を歩くんだけど、うん、暑くても日陰はやまほどあって、暑さは感じなかったな、最初は道なりに歩いていたけどだんだん森の中に入っていって、帰り道が解らなくならないように注意しながら森の奥に入っていったんだよ。
でも川や湖やなんかがあるわけでもなく、帰り道に気をつけながらも手当たり次第歩き回って、でもやっぱり何もないんだよな。そりゃ誰もいないよ。何もないんだもの。
じいさん、昼間何やってたんだろ?車に乗ってってわけでもないから、そんなに遠くには行ってないとは思うんだけど、何も聞かなかったな。
何日も森の中に入ってさ、別に何をするってわけでもなく、ひたすら歩いていたな。
で夕方になったら家に帰って、じいさんがご飯作ってくれて、風呂に入って寝ると。そんな毎日。
そんな毎日だったけど、突然びっくりするんだよ。
その日歩いていたらさ、森の中に家があるの。それも一軒じゃなく、何軒もあって。十軒以上。
いや驚いたよ。それもただ森の中に集落がある、家が建ってるってだけじゃないんだ、普通家を建てるといったら、整地するだろ、木を切って地面を平らにして、その範囲内に家を建てるよな、ところがその集落は違うんだよ、木と木の間に家を建ててるんだよ、全部。
木と壁が接してんの。家を建てたらそのぎりぎりに木が育ったとかじゃないようで、えらく強引に壁の四面を作ってるの。
解る?木と木の間に合わせて家を建てているの。
木と木の間を広く取れる家は広いし、間が狭い家は狭いの。
家を建てた人がそれでいいってのならいいんだろうけど、なんだかなぁって。法律だって、こんな山奥にまで追ってくるわけもなさそうだしねぇ。
で、全部の家、玄関に鍵がかかってないんだよ。鍵はあるんだけど、かけられてないの。
なんだろーなーと思いつつ、片っ端から家に入っていったけど、中も生活用品がある家とない家とでさまざまで、でも住んでた人を特定出来るような物は、何ももなかった。
だから、なんだろーなーとは思うのだけど、怖いとは思わなかったんだよ。誰もいなくて、どこも静かな雰囲気があったからな。
うん、子供の隠れ場所としては、結構よかったかもしれん。静かで、森に差し込んでくる日差しがあって、落ち着く場所ではあった。
それまでがそれまでってのもあって、何もない家でも退屈だって思うことはなかったよ。
一軒一軒中を見て廻ったんだけど、最後に入ったのは、家じゃなくて集会所みたいだった。
一番広い家なんだけど、玄関開けたら壁がなくて一間なんだよ。あ、壁がないったって、外壁はあるんだけど。
事務的な机や椅子がいくつかあって、棚があって、がらんとしてるの。
集会所かな、と思ってすぐ出ようとしたんだけど、でもその家だけ玄関すぐの床に扉があって、収納場所だか地下室だかがあるんだなと。
開けてみると、下の方が明るいんだよ。で梯子がついているの。
扉は閉まらないようにストッパーがあって、固定できるんだよ。それで閉まらないようにして、降りていってさ。
今だったら行けないね。怖いかどうかはともかく、危ないとは思うよな。
でもそのときの俺は、なんだろ?って降りていったんだよ。
結構長い梯子でさ、ずいぶん降りていってさ、ようやく下に着いたら、下り始めたとこの入り口は見えるくらい。
振り返って地下室の中を見たらさ、何があったと思う?