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シンと静まった空間に教諭の声とチョークの音が響く中、委員長は授業に集中しきれずにいた。
破竹の勢いで広がる自分の噂に、戸惑いを感じているのだ。
今まで勉学に向き合い、男子とは学友としての付き合いはあれども、男女の付き合いをしたことは無かった。
周りの恋愛話は、自分とは関係の無い出来事として1つ隔たりを置いた状態で見聞きしていた。
それゆえに、関係ないはずの生徒同士の不確かな噂が、次々と噂の形を変えて広がっている現状が理解しがたいのだ。
ユーキ先輩について全く興味を持ってこなかった(知らなかった)委員長にとって、身近な人気者と噂になることがどれほど注目を浴びるのか、彼女には計り知ることが出来ない。
は、と意識を持つと、授業はすっかり進み慌ててノートをとる。
そもそも周りは過剰に意識しすぎなのではないか?恋愛を否定するつもりは無いが、学生の本分は勉強であるべきだと私は思う。
知識をつけ、理解を深め、見聞を広める。
大人になるための大切な準備期間なのだから、不確かな感情に振り回されている場合ではない。
楽しそうに恋愛をする人は、おそらく愛情を向ける相手がいることに、幸福を感じるのだろう。
好きな人や恋人がいなくとも、モチベーションが上がる人がいれば充分だ。
少なくとも自分はそうだ、と小さく頷きながら、自身の席からは見えない教室後方に意識を向けた。
あぁ、そういえば今日は森くんを見ていなかった。今日の朝はどんな本を読んでいたのだろう。
はと気付き、黒板の文字をノートにとる。
雑念に邪魔をされ、ペンを取る手が度々止まった。
お昼の時間になり、賑やかな話し声の中で弁当を広げる人、コンビニや購買のパンを広げる人、学食を食べに教室を離れる人など自由空間となった。
「委員長ー、お昼食べよー」
コンビニの袋をガサガサと音を立てながら咲希がやって来た。
委員長は机を片付け、立ち上がる。
「ユーキ先輩の所に行ってくる。」
「えっ
突然の申告に驚く咲希。だが委員長は決心した顔つきで、すたすたと廊下側へと歩いていった。
「私ずっと考えていたの。全く根も葉も無い噂話がこんなに広がって、しかももう尾びれがついている」
委員長は恋愛未経験の身でありながら、妊娠の噂まで立ってしまっていることに、少なからず腹を立てていた。
「誰かが悪意を持って広めているんじゃないかしら。」
(授業中に)沢山考え、行き着いた答えだった。
「ユーキ先輩に会いに行けば何か分かるかも知れないわ。じゃっ」
委員長は足早に歩き始めた。なぜなら廊下を走ってはいけないから……。
こんなに律儀で真面目な人を、貶めようとするだろうか?
仮にそんな人物がいたとして、更に増長させるような噂をわざわざ流すだろうか?
咲希は、単純に女子高生達の興味を引いて噂が肥大化してるだけだと思ったが
「……私も行くっ!委員長待って!」
面白そうなのでついていくことにした。