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口許をハンカチで拭い一呼吸をしている間、彼女達は次の言葉を爛々とした目で待ち望んだ。
「……期待しているところ悪いけど、いないわよ」
「ええー!! 絶対いる反応だったのに!」「隠してない?」
ばつが悪そうに応えると予想以上の熱量で返ってきた。
「委員長可愛いから狙ってる男子絶対多いよ!」
友人の一人・咲希が委員長の薄い茶色味がかった瞳をビシリと指差す。
芯の強さを感じるつり目に、両髪は三つ編みで天然パーマが程よく綺麗なウェーブを出しており、知的で柔和な雰囲気が出ている。
「見た目も中身もまさに委員長!しっかりしてて頭も良い。いいなぁ……」
もう一人の友人・雪が羨ましそうに言う。
「見た目も、って……眼鏡はしてないから」
『委員長っぽい』と言われる外見は気にしており、視力の悪さはコンタクトでカバーしていた。
色素の薄い茶色髪は勿論地毛なのだが、鼻筋の通った顔立ちも合わせてハーフのような印象を与えている。
「委員長の恋バナ聞きたかったのにぃー!」
悪いことをしたわけでもないのに、ため息を吐きながら残念がる友人達を見ると、理不尽だと思いつつもなんだか申し訳なくなる。
とはいえ仕方がない。好きな人なんていないのだから。
空っぽの恋話をしたところで彼女達は満足しないだろう。
「委員長に好きな人がいたら絶対面白いのにぃ……」
面白いってどういう意味かしら?
「気になる人とかもいないの?」
今度は期待の無い声での質問だった。
置いていた箸を持ち直してお弁当をつまみ始める聞き手の様子を眺めながら、何か提供出来るような話題は無いかと思考を凝らした。
「……気になるといえば気になる人は、いるかも」
「えっほんとに!?」「だれだれ!!」
テンションの振り幅が大きい。流石の女子高生。
弁当そっちのけで身を乗り出して聞き入る二人にたじろぎつつ、
「気になるって言ってもそういう意味ではないわよ」
出来るだけ期待値を下げるため、両手でどうどう、と抑える手振りをしながら言葉のクッションを置いていく。
「たまたま男子だったというだけだから、女性であってもおかしくない気になり方だから」
ハードルを下げるための言葉は焦らしているようにしか聞こえず、二人には返って期待を煽ってしまっているのだが、委員長は気付かない。
「教室には私達以外にもいるのだから、これ以上は騒がないでね」
委員長っぽい。
二人は頭の隅でひっそりと思った。