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その後数日が経ち、学期末テストを終えて校内はまた穏やかな雰囲気へと戻っていった。
「テスト終わったし、もうすぐ夏休みだね!」
弁当のハンバーグを摘みながら嬉々として話す咲希。
雪は、夏期講習で普段の生活とあまり変わらないかも、としゅんとした顔だ。もそもそとポテトサラダを摘まむ。
しばらくお昼も勉強を行っていた委員長が加わり、皆で机を囲ってお昼を摂る日常が返ってきた。
「委員長もやっとテストモード脱却したんだから、いっぱい遊ぼうね!」
爛漫の咲希に対し、委員長の表情は曇っていた。
「んーー……」
「委員長!聞いてる?」
「もしかして、テストの結果あんまり良くなかった?」
今日は各授業毎に続々とテスト用紙の返却が行われていた。
成績を取り戻そうと頑張っていた委員長だが、長く伸びた前髪の隙間から覗く表情は結果が読み取れない。いつもの余裕が感じられないところを見ると、思うような成績にはならなかったのだろうか。
「テストはまずまずの結果よ。頑張った甲斐があったわ」
でも、と続く。
「テスト成績だけでは心許ないのよね。そう……不祥事を書き消すような内申点が欲しい!」
不祥事。先日起きたユーキ先輩を巡った騒動の事である。噂話が加速して起きた不運だが、謹慎処分を受けるという初めての経験に、委員長は深く傷を負っていた。
関係者の雪はすっと目を逸らした。
そうして突入した夏休み。人通りの多い駅前からは数名の呼び掛けが聞こえてくる。
「「募金のご協力をお願いします」」
制服姿で募金箱を持って立つ数名の学生達。端の方に委員長の姿もあった。
熱中症を懸念して日陰で行われているが、夏の暑さに汗を何度も拭う。
ふぅと息をつくと、聞き覚えのある声が掛かった。
「あれ、委員長ちゃんだ。ボランティア活動?」
声の方に向くと、派手な服(衣装?)を纏った読者モデルが立っていた。
「はい」と頷くと、「暑い中大変だね」と苦々しい笑いが返ってきた。
「先輩はお出かけですか?」
「うん。これから撮影なんだ」
学校にいる時よりもアクセサリーが増えている。
ゴツめのシルバーアクセサリーの数々。身に着けた事は無いがどれも高そうだ。
「ジュースでも奢ってあげたいところだけど、委員長ちゃんだけに渡すわけにもいかないしね」
募金箱を持つ生徒には他校の子もいる。ユーキ先輩のオーラに気付いてチラチラとこちらを見ている子もいる中、下手な事をして足止めされたら先輩としても迷惑だろう。
「お気遣い無く」
ひとまずそれだけ伝えた。
「それじゃ、頑張ってね」
スッとお札を募金箱に入れてひらひらと手を振って去っていった。なかなか格好良いじゃないか。
すぐさま隣にいた女子から「お知り合いですか?」と食い気味に聞かれたが、顔見知り程度ですと曖昧に答えた。
それにしても暑い。明日は帽子でも被ろうかと思ったところでまた声がかかった。
「こんなに暑い中お疲れ様だね~」
人通りの多い通り故か、知り合いの通行が多いようだ。もしくは、事前に言ってあったので見物がてら寄ったのかもしれない。
しっかりめの生地で作られた制服の自分とは違い、対面する2人の友人はクロップド丈のTシャツや白のワンピースといった、涼しげな格好だ。
「募金のご協力を」
「はいはい、ちゃっかりしてるなぁ」
「無理にとは言わないけれどね」
そんなやりとりをしながらふと視線を向けた先に、財布を持ってこちらの募金集団をキョロキョロと見渡している女の子がいた。
偶然にも先日図書館でぶつかった女の子だった。向こうもこちらの視線に気付きとことこと近寄ってきたので、にこりと微笑み少し腰を屈める。
「あのぉ、募金って少なくても大丈夫ですか?」
「勿論よ、気持ちが何よりも大切ですもの」
委員長の言葉を聞いて安心したのか、手に握っていた小銭を募金箱へと入れてくれた。
10歳前後の小学生が他人を思って募金とは、器の大きい子である。
「ありがとう」
「えへへ」
思わずその子の頭を撫でると照れくさそうに笑った。
雪や咲希も女の子を覗き込んで取り囲んだ。
「偉いねぇ~!将来立派な大人になるよ」
「やぁーん、可愛い」
高校生に囲われても物怖じしていないところを見ると、こういった場面に慣れているのかも知れない。
「アタチ、かわいい??」
「うんっ!かわいいよぉ~」
個性的な一人称に衝撃を受けたのは、どうやら委員長だけのようだ。二人は特に気にする事もなくちやほやした後、委員長と女の子に別れを告げてその場を離れていった。
「暑いからあなたも気もつけてね」
お別れの挨拶のつもりだったが、女の子はなぜかもじもじしてその場から離れない。どうしたのだろう、もう募金は受け取ったというのに。