第2話 捨て子奴隷は勉強する
ぼくはヴァレン。あしたで3さいになります。ぼくはスールさまのやしきにすむどれいです。ぼくはうまれてすぐにスールさまにひろわれたらしい。そのりゆうはほんとうのおとーさんとおかーさんがすんでたところで、たべものがなくなるからすてられたらしい。
でもぼくはふたりのかおもしらないし、ここにいるみんながいるからさみしいともおもわない。
スールさまは、どれいしょうっていうおしごとをしていて、ぼくたちどれいを、あたらしいごしゅじんさまのところではたらけるようにしてから、そのあたらしいごしゅじんさまのところではたらかしてくれるらしい。
スールさまとはなれるのはさみしいとおもうのに、たまにあたらしいごしゅじんさまのところにはたらきにいったひとが、ごしゅじんさまとここにきてくれてどんなふうにおしごとするかおしえてくれるけどそんなにさみしそうじゃないからふしぎだとおもう。
そのときにふつうのどれいしょうはこんなにどれいにやさしくしてくれないということもおしえてくれる。ふつうはどれいをものあつかいするらしい。ひどい。
とにかくあしたからはあたらしいごしゅじんさまのところではたらけるようにするおべんきょーがはじまるからすこしふあんだけど、みんなのことをみてるとたのしそうだからすこしたのしみ。
そんな内容の日記を見て私は少しホッとする。文字の練習で今日から始めさせた日記で、文字が書けない子には必ず日記に自己紹介を入れたもので文字の練習をさせているけれど、この一番最初が私にとっては一番緊張する。
いま部屋で寝ているであろうこの子のように生まれてすぐ親に捨てられた子はあまり親を恋しく思うことはないのだが、物心ついてから親に捨てられたり、親が死んだりした場合は寂しがることが非常に多い。私もそうだった。当時5歳で長女だった私は、貴族だった両親が没落し、多大な借金ができた際に奴隷として売られた。その時に当時奴隷商になりたてだったスール様が拾ってくださった。そして今ではスール様の召使から手伝い兼他の子どもの世話係の一人になっている。
スール様は元冒険者で、昔に片腕をなくし、路頭に迷った末に奴隷商になったらしい。しかしスール様は奴隷商らしくない。奴隷を家族のように扱い、自身の屋敷のほとんどの部屋を改築し、奴隷たちが住む大部屋と大きな講堂を作って一緒に暮らしている。
普通の奴隷商が一つの大きな部屋で奴隷を雑魚寝させ、道具扱いをするためそれがよくわかる。
なんでも路頭に迷っていた時に似た境遇だからと様々な人の世話になったらしい。その恩返しとして孤児や路頭に迷っている人に手を差し伸べるようにしたらしい。その1人目が私だったようだ。
しかしこのような方法で奴隷を集めていることで目の敵にされていることも多く、大きな町に行くと同業者に大体嫌がらせや嫌味を言われるらしい。
しかしスール様は全くと言っていいほど気にしない。そのうえ私やほかの子が手を出されるのは本気で怒り何度か暴力沙汰になった時があった。
……最近何かとスール様の話に移ってしまうことが多い。みんなが言う通りその……好き……なのだろうか。でも私はスール様の奴隷だし……許されるものでもない。そう思い込むようにして無理やり眠りについた。
きょうからぼくのべんきょーがはじまる。きょうはもじのべんきょうとけいさんのべんきょうをするらしい。そのべんきょうにつかうものをあさにジルがとどけにきた。せきばんとはくぼくっていうらしい。せきばんはいしでできたいたで、とてもおもかった。それを3まいもらった。はくぼくはしろいぼうでせきばんをこするとこすったところがしろくなる。このふたつをつかってもじをかくらしい。
これをいっしょにもらったふくろにいれてジルにおしえられたへやにいく。ふくろがすごいおもい。
「今日からはヴァレン君がお勉強に参加します! みんないろいろ教えてあげてね」
「はい! キャシーせんせい!」
私はキャシー。この屋敷に住む奴隷で子供たちの勉強の先生をしている。これは私以外に3人いて、いろんな子に個別で教えている。基本的に4年ですべて終わるように設定してあり、おもに国語、算数、歴史、魔術、家事について教える。最初は国語と算数、家事と魔術の基礎を教え、三年目からは歴史とほかの教科の特に難しい部分や理解できなかった部分を教える。先ほど話した通り今日はヴァレン君がこの勉強に加わる。もうすぐ来る頃だと思う。そう思っているとちょうどヴァレン君が到着した。……石板などが入っている袋を引きずりながら。何これかわいい。
「き、今日からよろしくね。 ヴァレン君」笑いをこらえるのに必死になりながらヴァレン君の席へ案内する。「ここがヴァレン君の席ね。明日からもこの席になるから覚えて。まずは文字の練習をしましょう。」
「はーい」
「まずは軟字の書き取りを……」
そうこうしているうちに夕方になった。まさかヴァレン君がこんなに物覚えがいいなんて……今日だけで軟字はおろか硬字も覚えて、算数も掛け算まで覚えてしまった。まずありえない。まあ、伝えた分をすぐに吸収するから楽しくなってどんどん教えてしまった私にも責任があるのだけれど……といけない。早く今日の報告書を書いておかないと。
この屋敷では何かにかけて報告書を書くことになっている。皆の勉強の進捗状況や食堂にある食材の残量などほとんどのことで報告書を書く。そしてそれをジルに渡すことになっている。そしてそれを受け取ったジルが処理したものをスール様に渡すようになっている……ジルが受け持つ仕事の量が多いといつも思うのだが、本人がそれを快諾しているため誰も何も言わない。ジルの優秀さには毎回目を見張ってしまう。
とにかく報告書をまとめて今日は寝よう。
一部読みずらい箇所がございますがヴァレン君の幼さを表現するための演出です。ご容赦ください。
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