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「大学の監督にも事情は説明して、話は無かったことにしてもらった。こんな役立たずを特待生で取りたくないだろうしね。」
大学側に立って考えればそれは理解できるが、使えるものは使うというスポーツの世界が、今は憎たらしい格差社会のように思えた。当の本人も、仕方ないよと言いながら全然仕方なくない顔付きをしている。
新垣の家庭に、大学に通わせられるお金などどこにもない。母親が子供五人の家庭を養っているのだからそれは当然のことだ。だから尚さら彼は、特待生に拘っていた。特待生で入学すればあらゆる待遇があり、入学金や授業料が全額免除になる場合もある。大学に行くなら、それしか方法はないと彼はいつも語っていた。そしていつも、プロになって家族を守るんだと、わざと口にして現実となるのを願っているように、よく自分の夢の話をした。僕は、論理的な根拠など無いが、それでもそれが当然のように叶うのだと漠然と考えていた。でも、その未来が訪れることはない。僕は神様とやらがいるのなら、こんなに身を粉にして一生懸命やった奴が報われなくてどうするんだと悪態をついてやりたい気分だった。
「今まで未練があったけど、最近決心がついたんだ。就職してちゃんと働いて、母ちゃんに代わって家を養っていこうって。」
夢に敗れ、社会に出ていく十八歳の少年が背負うには、家計を支えていくというのは大きすぎる荷物だった。それを背負うと覚悟した彼の背中は心做しか大人びているように見える。そういう意味で、彼の目に映る世界は、僕たちの少し先を行っているのかもしれない。その目には卒業というのは、もう直に迫っているように感じるのかもしれない。彼はまだきっと学生のままでいたいのだ。
僕は何も言えないまま黙りこくっていた。あろうことか、今一番傷付いているはずの新垣に、「そんな暗い顔すんなって」と慰められすらしてしまったのだから、僕は自分のことが情けなくて仕方なかった。卒業を控え、彼は覚悟を決めた。なら、僕の覚悟は?僕の覚悟とは一体何だろうか。よれよれのカッターシャツに袖を通しながら、僕は考えていた。