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僕は( )  作者: 『無価値』
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新垣は、野球に関してはさほど詳しくない僕から見ても、そのストイックさがよくわかる。放課後は一番最後まで居残りして練習していることが多かったし、朝も一番にグラウンドに入り自主的に練習をしている。身体を大きくしなきゃいけないが口癖の彼は、普通よりも二倍ぐらい大きな弁当箱を持ってきていて、それを見ると僕は圧倒される。一体いつ休む時間があるのだろうかと僕は時々心配になるのだ。

彼と出会ってから、彼の頑張りをずっと見てきた。彼は野球選手としても、人としても、自然と応援したくなるような人だ。ひたむきに努力する人間こそ、応援されるに相応しいのではないかと、素人ながらに僕は思う。それこそ僕は、彼が初めてベンチ入りしたこと、レギュラーになったこと、公式戦で初勝利を納めたこと、その報告を受ける度に、自分のことのように歓喜した。だから今は、彼が愛してやまなかった野球を辞めざるを得ないことが、まるで自分のことのように苦しいのだった。仕方がないで片付けるには、どうにも遣る瀬無い気持ちになる。努力というのは、こんなにも理不尽に無意味にされていいものなのだろうか。

彼が競技人生に終止符を打たなければならない理由は、事故だった。例の如く夜遅くまで練習をして、一人帰路に着いていた時のこと。学校を出てすぐの県道を右折して直進ひたところにある交差点。信号は青だった。彼は躊躇いなく通過しようとする。そこに飲酒運転の車が突っ込んできて、彼は自転車ごと吹き飛ばされた。百パーセント向こうに非がある痛々しい事故だ。

幸い命に別状はなく、彼の体は日常生活に支障がないレベルにまでは回復した。しかし、彼はもうバットを握ることも、ボールを投げ、受け止めることも、ユニフォームを泥塗れにしながら、ベース間を夢中で走ることも二度とない。彼はもう、野球ができる体ではなくなっていた。

三年生の最後の夏、日頃の努力が認められキャプテンとなった彼は、持ち前の明るさと自らの練習に対する真摯な態度で、チームをまとめ、思う存分力を出し切った。地区予選、県予選を勝ち進み甲子園に出場。その後も三回戦まで駒を進め、そこで敗れはしたものの、全国の舞台で活躍した彼を欲しいという大学がいくつかあり、その内の一つに特待生制度を利用して進学することが決まりつつあった頃に、その事故が起こってしまった。

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