採点ミス
――あ。
採点ミスだ。一点多い。
窓際の席に座っていた僕は、そっと周りを見渡す。
クラスメイトはそれぞれ自分の点数や、友人の点数を見るのに夢中で、僕なんか視界にすら入っていないようだ。
僕は然り気無く答案の上に腕を置いて、うっすらと笑みを浮かべながら窓の外を見た。
外は一面の曇天で、ガラスは鏡のように僕の顔を反射している。
そこに映っていたのは、三日月のように口許を裂かせた誰かだった。
少しだけ動悸が早くなって、僕は急いで逃げるように窓から目を逸らす。
と、そのとき、僕の隣の席に座る女子が、突然立ち上がった。
彼女は、普段僕よりもずっとテストの点数が低い子だ。
こっそりと彼女の点数を覗いては、僕はいつもそれをからかっている。
もしかすると、さっきの一瞬で僕の答案の採点ミスに気付いて、先生にいつもの恨みにと告げ口をする気かもしれない。
一瞬焦ってしまったが、しかしどうやら彼女は自身の答案に気になるところがあっただけらしいことに気付き、僕はほっと胸を撫で下ろした。
「先生、ここ一点多いです」
教卓まで急ぎ足で歩いていった彼女は、自分の答案を手にそう言った。
――チクリ。
胸の奥に何かが刺さった音がした。
立派だと褒める先生と、それを聞いて小さくながらも確かな微笑みを見せた彼女の姿に、僕はどうしても耐えられなくなって、再び窓の方に目を移した。
やっぱり外は憎らしいほどの曇天で、そこに映った僕の顔は、どこか焦燥に満ちていた。