らいたー・いん・ざわーるど
「もしも、世界が自分の思い通りになったら 」
誰もが1度は考える事だと思う。
この世のすべてが、自分の思いのままに動く。
自分が世界のシナリオライターとなり、筆をとる。
未来は変えられる……いや、作り出せる。
そんな存在を人々は「神」と呼ぶ。
神と言ってもピンから切りまで存在するが、大体は「人知を超えた存在」として表現される。
人が知ることを超える。その存在に人がなることはまず不可能だ。しかし、人間は自らが神となり世界を構築した。
「物語」だ。
既存の世界から離れ、自らの思いを詰め込んだ世界において、それを作り上げる人間は神にも等しい存在と言えるだろう。その世界から見れば。
そして、最初に戻る。もし、あなたが作り上げたセカイが既存の世界を上書きしたとしたら、
その時あなたは何者なのでしょう。
少女はそして、考える。
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「おはよー空〜」
「おはよ〜」
私は真木 空。ごく普通の高校1年生。身長160cm、体重はヒ・ミ・ツ♡
自分で言うのもなんだが、学業も運動もそこそこ。友達もたくさんいて充実した学校生活を送っている女の子!
という設定だ。
「伊織、数学の宿題やった? 」
「やったとも! 空じゃあるまいし! 」
「えぇ〜……見して! お願いします! 何でもしますから! 」
「え? 今何でもするって……しょうがないなあ……」
「ありがたやー! 」
この子は野坂 伊織
11月11日生まれ。身長153cm 体重[禁則事項]kg 美術部所属の明るい子だ。趣味は絵を描くことと、お菓子作り。最近は来るべき時のためにチョコ系のお菓子を特訓している。家族は4人。母、父、弟が2人。家族仲は良好。2人の弟はまだまだやんちゃ盛りで日々彼女は手を焼いている。そのため、お姉さんスキルが高く、身体は小さくとも心は広い、まるでオカンのような子だ。最近、その小柄な体格に似合わない大きく豊満なバストがさらに大きくなっているのが悩み。
え、なぜこんなに彼女のことに詳しいのかって? レズストーカー? いやいや、そうではない。確かに伊織のことは好きだが恋愛対象ではない。故にストーカーなんてする理由がない。
ではなぜか。画面の前の皆さんには教えてあげましょう。
私が「神」だからです。
おっと、中二病とかじゃありません。邪眼とか今はないです。
私は正真正銘の神です。もっとも、あなたがたが「人知を超えた存在」を神と呼ぶなら……ですがね。
野坂伊織という少女の情報は、私が書き上げた設定。故に私が知らない野坂伊織はこの世界にはいない。
私はこの世界の、いいや、物語の作者となったのだ!
すべてはこの1冊のノートから始まった。
ある日の下校途中。
まだ一登場人物だった私がいつものように1人帰路を歩いていると、道の端に無造作に置かれたノートが1冊。
今思えばその時点で色々おかしいことに気づくべきだったのかもしれない。
人も車も通るコンクリート舗装された道路に置かれていたのにも関わらず、今さっき丁寧に置かれたかのようにそのノートは綺麗だった。
「なにこれ……? 」
私はその奇妙さになぜか魅力のようなものを感じ、そっと手に取った。
薄い茶色のリングノート。ページ数は厚さからいつも授業で使っているノートとさほど変わらない。
他にも特に変わったところはなかった。
「誰かの落し物かな……? 」
落し物なら表紙かどこかに名前が書いてあるのがセオリー。
そう思い表紙を見るも、名前もクラス名も何も無かった。
そうなら仕方がないとここまでなぜか躊躇していた自分に正当な理由を言い聞かせ表紙に指をかけさっとめくる。
「これって……?」
ノートはじめのページは、私、真木空のプロフィールが事細かにびっしりと書かれていた。
「なにこれ……? え……? 」
その刹那身体中に悪寒が走り震えが始まった。
ただのプロフィールでもそんなものが道に落ちていたら恐ろしすぎる。
ましてやそのノートには、私自身しか知らないような情報まで書かれていた。
このまま捨てて逃げようか。
警察に持っていこうか。
自室に隠しておこうか。
様々な考えが代わる代わる頭に浮かんでは消える。
最善策を模索するも全くゴールは見えない。
とりあえずノートの2ページ目をめくる。
現状打破に踏み切った。
1枚目の裏は空白。2枚目には...
「真木海美……お母さん!? 」
2枚目には1ページ目同様、情報がびっしりと、なぜかお母さんの情報が書かれていた…
ペラペラ次へ次へとめくってくと、父、弟、友達、学校の先生、私の周りのあらゆる人の情報がしっかりと書かれていた。
「なにこれ……意味わかんないんだけど……」
その時もう私の中ではこのノートをその場に捨てて逃げ帰るなんて選択肢は残っていなかった。
そして最後のページ、背表紙の真裏をそっと覗く。
《くりえいたーのーと》
1.キャラ情報は消しゴムで消して書き換えられます。
2.そのキャラの裏ページに書き込んだことは作品にしっかり反映されます。
3.ページはなくなっても補充されます。
4.いないキャラのページが欲しい時は念じるなりなんなりしてください。
綺麗な明朝体で4つのルールらしきものが箇条書きされていた。
さらに4番の下に荒っぽい字でこう付け加えられていた。
「5.まあうまくやりなよ少女よ!」
この時私は「作者」になった。
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それからというもの、私はくりえいたーのーとを使って、今までつまらなかった日々を次々に塗り替えていった。
手始めに実験の意味合いも込めて、適当な女子を適当な男子に告白させた。
設定を書き換え好意の方向を指定。
ページの裏に日時を指定して完璧。
案の定次の日学校に行くと、
「あ、あの……ずっと前から好きでした! 」
「え!? うそ……!?えぇ!?」
シナリオ通り演者は動いてくれていた。
「実は俺も……気になってたというか……」
「「「おおおおおおお! 」」」
朝から教室のボルテージは最高潮。
男子は叫び女子も叫ぶ。
まるで自分のことかのように成功の幸せを噛み締め手を取り合い歓喜する。
「なんだかおめでたいねぇ……空? 」
「え!? あぁ! そうだね! 私もなんだか嬉しいなぁ〜」
もちろん私は喜んだ。
「これは最高のシチュエーションだ」と。
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設定の書き換えは他人だけでなく、自分にも適用された。
「記憶力がものすごく良い」と書き足せば、その瞬間から記憶力が気持ち悪い程よくなった。
「身長が170cm」と書き足せば、一瞬で目線がぐんと上がった。
次の日どんな目で見られるか少し心配だったが、まるで私が元々170cmあるかのように、
「前から思ってたけど空はスタイル良くて羨ましいわ〜いいな〜」
と話しかけてきたから特に問題はなかった。
結局身長は目線の変化が気持ち悪くてすぐに戻した。
そんなこんなで、いい按配に順風満帆な高校
生活を送っているというわけです! まるっ!
日々の生活も色豊かなものに書き換え、不幸になる人を減らし(まあテストの順位など限界はあるが)、まるで気分は救世主。
ジャンヌ・ダルクも驚き導きっぷり。
世界は私の思うがまま!
普通だったらここで、「5000兆円拾う」とか書くと思うが、なぜだか私は人を操る優越感と、救う充足感で満ち溢れていてあんまり自己利益に繋がるような改変はしなかった。
胸は少し、少しだけ! 大きくした……
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ノートを拾ってから数ヶ月。
あの時見てたケモミミ女の子のアニメがいつの間にか終わってるし、3ヶ月ぐらいそろそろ立つのではないだろうか。
いつものように朝起き、朝食をとり、余裕を持って家を出て、そろそろすっかり彼氏とラブラブの伊織と待ち合わせる交差点に差し掛かる。
もちろん伊織の彼氏は私が差し向けた。
その男子は引っ込み思案でまあ俗に言う陰キャと言うやつだった。設定にも思いっきり書いてあったし。
そんな彼はその性格上なかなか好意を寄せ得る女性にアタックできていなかった。
そこで私の出番だ。
冴えない彼の育て方はもう慣れたもんだ。
設定をチョチョイと書き換え伊織好みの男に近づける。
そんでもって少し様子を見るも一緒に出かけたりするくせになかなか進展しないもどかしいいいい関係にしびれを切らして、告白させた。悪いとは思っていない。
なんだかんだ上手くいったし誰も不幸になってないし万々歳なんじゃないかーと勝手に自己完結して伊織ルートのハッピーエンドへ彼をぶち込んでやった。
途中何回か「そんな偽りの恋で本当に当人は幸せなのか! 」
と悪魔の囁きが聞こえたが、私の中の人助けを生きがいとする天使(数人赤い髪で剣二本持ってるよく分からない人もいたが)が一蹴してくれた。
そんな主人公っぽいモノローグを展開していると、トットットとローファーで元気にかけてくる音が耳に入った。きっと伊織だ。
昨日また彼氏となにかいいことでもあったのだろうか。これも私のおかげ……
「伊織おは……」
その足跡は意に反して、すっと私の横を駆け抜けて言った。
長く綺麗な黒髪、白く澄んだ肌、クリっとした大きな黒目、長いまつげ、華奢な体、きっと気にしているであろう貧乳!
一瞬で私の心は奪われた。
「おはよー空〜ちょっと聞いてよぉ〜!あれ? 空〜? 」
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学校で早速あの少女のことを調べようとノートを広げた。
あの美しい人形のような姿を頭に浮かべながらそっと優しくノートを開く……も
「はぁ?」
ノートに彼女の設定ページは存在しなかった。
「そんな馬鹿な!? 」
何度も何度もノートを開き直しは彼女を思い浮かべ、彼女思い浮かべはノートを開き直しを繰り返すも、1回もあの姿は出てこなかった。
「どーしたの空? 元気ないじゃん? 珍しーねー? 雪でも降るのかなー? 」
「あぁ……今の私そんなふうに見えるの……? 」
「うん〜なんだか失恋した乙女みたいだよぉ〜」
落ち込むなんて多分久しぶりだ。
最近はなんでもノートでいい方向へといじっていたから悩みなんて全然無かった。
そう、なんでも思い通りに……
でも彼女はノートに載らない!?
てことは……私は彼女を動かせない!?
「あああ! なにこれもやもやするうう! 」
感情に任せて急に立ち上がったので、同時にガターンっと椅子が大きな音を立てて倒れた。
自然とクラス中の視線が一点に吸い込まれるように集まる。
なにこれ!? 恥ずかしい!え? うそ?
あの美少女……! 許すまじ!
数秒後スッと何事も無かったかのようにクラスは平常運転に戻る。
ノートがいつも通り動けば、今日はクラスで小テストにはじめて全員満点合格するという楽しい楽しいイベントが起こる。
しかし、そんなことを考えている暇はないっ!
あの女! 超絶可愛い女の子!
絶対……絶対に……
私の意のままに操って友達になってやるんだからあああああ!
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「ふふっははははは! やったぜ大成功!」
昼休み屋上。
以前は安全面を考慮して使えなかったが、あの子が青春っぽくないと書き換えてくれた。
彼女の設定通りここは居心地がいいのに人も少なく静か。最高の働きをしてくれた。
「いやー……まさか僕以外にノート持ちがいるとはおもわなかったけど……こんなに上手くいくとは……」
パタリと焦げ茶色のリングノート、「真木空」と書かれたページをそっと閉じる。
「この先が楽しみだなあ! ここにキマシタワーを建てよう! はっはっは! 百合展開バンザイ! 」
完