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第11話 滉大、マイラとの会話を思い出す



―さっき、千晴が来た。


 淡々と告げた青からの一報に、滉大は驚く。

 そして、千晴が消えてしまった日のことが、少しの罪悪感と一緒になって、蘇ってきた。



 千晴がいなくなった、それが分かったのは、ビデオ通話の数日後のことだった。

 数日ぶりに、青へ連絡を入れると、あの日以来、千晴が店に来ていないと言う。

 少し不審に思って、青との通話を終えた滉大は、ビーコンを地図上に呼び出した。

「…あれ…ない…?」

 初めて千晴に会った日、怒って一人で改札を出て帰ってしまった千晴の背に、咄嗟に追跡系の術を飛ばしていた。そのビーコンの軌跡は、ハードディスクに記憶させているはずだった。

 「千晴」を示す点滅は、確かに昨日までは、そこにあった。

 記憶媒体の再起動とアプリの更新と、術発動のための魔力の補足、全てを例の空間へ移動して素の状態でも確認してみたが、どれをどうやっても、「千晴」の現在を示す点は消滅したままだ。

「…まさか、不慮の事故とか…?」

 最悪のことも予想して、自宅と思われる場所に足を運んでみたが、在宅だった「弟」は、「姉なんていない。一人っ子だ」と、断言する。

「たしか、サッカーの特待とかで、隣の市の高校に通ってるんだよね?」

 と、千晴から聞いた話を思い出しつつ問いかけると、驚いたように目を見開いて、「その情報、どこで知ったんですか?」と言い、不審げな目線を滉大へ向けた。

「おっさん、何か、へん。このまま、居座られても困ります。警察を呼びますって言うと、帰っていただけますか?」

 千晴によく似たしゃべり方で、スマホに番号を打ち込みながら、そんなおどしをかけてきた「弟」の表情に、嘘偽りは見受けられない。念のため、術も使ってみたが、何のかけらも弟からは出てこなかった。それなのに、そのマンションの一室に、千晴とそれを追いかけたビーコンの気配が、かすかに残り香のように漂っている。

―本部が関わっているのだろうな。

 そんな風に思った後で、通信が繋がらない状態で、こんなに手回しが良いというのが、おかしなことだとも、思ってはいたが。

 違和感を拭えないままホームに戻ると、本部からの通信の復帰を告げるランプが、小さく明滅している。

 確認のため、すぐさま繋いでみる。

「あ、王子、ご無沙汰です」

「やっと繋がったんだね。あのさ、何度も言うけど、王子はやめてね」

「だって、王子は王子ですから」

「いやいや、良い大人だし、俺…なんか、青の気持ちが、少し分かるような気がする。俺も、丸くなっちゃったなぁ…」

「あ、すみません、ご不便をおかけしました。今回は、星雲や巨星などの位置も悪くって、通常の回線を保てる程度まで回復するのに、時間を要してしまいました。一番の懸念事項としては、シーニーさんの店に来た女性ですが、実は、新事実が発覚しました!」

 少し興奮した様子の交換手マイラが、身を乗り出した。

 交換手は、青と同じ。

 まさか、宰相である兄の指示で付けられている『目』だとは、滉大も気づいてはいない。

 このエリア担当の交換手だから、他にも何人も担当している。役職名が『交換手』というだけで、実質、本部上層部と現地派遣員との仲立ちのような役目が強い。現地派遣員のリーダーもしくは上長は、その同じエリアにいることが多い。本部と通信が切れても、繋がる可能性が高いからだろう。ようは、中間管理職に限りなく近いのが交換手だ。ただ、部署が違うため、現地派遣員と交換手の立場は、あくまでもイーブンという体裁の元、お互いが都合よく回る関係を求められている。そのため、交換手自身に求められる素養も高い。仲立ちの意味を理解した上で、技術と魔術両方に長けてなければ務まらない職である。それに、一癖も二癖もある現地員とのやり取りを業務上支障なく進めることができる柔軟性も求められる。一介の職員に過ぎないのに権限もある程度容認されているのは、その能力と職種に準じたものだ。必要とあらば、他部署の機密事項や閲覧に役職が必要なものなど、目を通すことも可能だ。

 そう、今回のような、青の店に来たイレギュラーな女に関することを、何年も何世紀も遡る機密文章などに潜り込んで調べることも、可能な権限を持っている。

 不通の期間に、この交換手は自分でできる仕事を進めていたのだろう。話す口調とは裏腹に、案外、当てになる交換手だと、折につけて、滉大は感心していた。

「何?どうしたの?そんな、興奮するような内容だった?」

「…というか、ここで話すのも憚られる感じですよ!なので、30分ほど人払いしてますので、思う存分お話しできます!」

 こちらからかけた通話に出たはずの交換手の手際の良さに驚きながら、滉大は話を促す。

「あの女性は、すでに本部他部署の管理下にあります」

 神妙な面持ちで、交換手はそう一気に言い切った。

 聞いた言葉を反芻しながら、滉大は、考えられる可能性の全てを頭の中で網羅する。

「…ってことは…まさか、流刑系の犯罪者ってこと?」

 そう言いながらも、『まさか』という思いはぬぐえない。それなのに、『そう』だとするなら、青の店に出入りがきることも、術がかかりにくいことも、納得できると気付く。

 つまり、千晴は『同族』ということだ。

「そうです。ただ、厳密に言うと、違う、とも言えますが、扱いは、『犯罪者』ということになっています」

「何年くらい?」

 自分たちと同族だとしたら、あの見た目でも、この星では相当の年月を生きていることになる。滉大は、その不可能な可能性に、少しばかり、ぞっとした。

 この星で20才=成人とするなら、滉大の種族では80年ほどになる。ざっと4倍だ。その後はゆるやかになるため、より一層、見た目と年齢が、この星とは異なってくる。成人を超えると、200年ほど見た目の変化はほとんどない。この星の年数に換算すると、平均寿命は3~400年ほどになるはずだ。

「そうですねぇ…ざっと、8年程度でしょうか」

 書類を確認しながら、交換手は大まかな数字を告げる。

「それって、もちろん、俺たち的な8年だよね?」

「ええ、ですから、そちらの時間に換算すると30年前後といったところでしょうか」

「…そんなに…」

「ええ。つまり、そちらの星の人たちにとっては異世界人ですね。なので、そちらの民族と生活するには、不都合なことがあるため、本人に何重にも術が施されています。その一つが、難しい言葉で書いてあるものを私なりに訳すと、『数年で世帯を渡り歩く』という術です。つまり、成長速度が違うため、同じ世帯で生活し続けることが不自然で不可能なんです。女性の周辺の記憶の操作を繰り返しかけ続けるには、術に必要な魔力の補充や高度な維持力など、当人が望んでいる術ではありませんので、色々と無理があります。そのため、おそらく3年程度の周期で、ぽんっと、幼少期からの記憶を無理やりその女性の記憶に詰め込むようなやり方で、世帯を移住移動して生活しているんではないかと思われます。その移住世帯は、これも予想なんですが、女性の移動可能圏内に引っ越す単体世帯が多いと思われます。その上、家族と成り得るものたちが家を空けることが多い職種、近くに既知の知人や親せきなどがいない家族、子どもがいない夫婦や、時には祖父母宅に預けられているような体裁で老夫婦宅など、その時々に見つかる最も術が破綻しにくい所を狙っていると思われます。長期間に渡る術の発動は、難しいですから、女性の本来持っている魔力やその土地の地力などを媒体にして、なんとか維持できる程度で発動させているかと。ただ、それも、長期間同じ精度で持続させるのは、やはり、難しいようですね。術も修正や管理が必要ですから。本人が望んで掛けていないものならなおさらで…。で、そろそろ、上書きの時期かと思います」

「上書き?」

「ええ、他部署の再構築案件の中に、その女性らしき書類を見つけたんです。写真は添付されておらず、書類とナンバーのみの記載でしたが、おそらく同一人物だと思います。…その再構築案件は似たような時期の似たような術の案件ばかりでしたので、予想されるのは術の上書きです。今のままでは、いずれ術は切れて、自分を思い出すことになります。そうなると、その星では、変人でしょうからね」

「…そうか」

「珍しいですね」

「何?」

「いつも、こういう話も、ちゃらちゃら聞いてるのに、王子」

 『王子』と再度呼びかけた交換手に少し苛立ちながら、

「…ま、いい。それで、女が急に消えたことと、その案件に関わりがあるってことか?」

 と、本題に沿った質問を続けることにした。

「あら、もう、ご存知だったんですね?」

「青と今朝話したんだけど…」

「青って誰ですか?」

「シーニーのこと」

「あら、シーニーさんも、王子と一緒で、すっかり現地に同化してしまいました?」

 交換手はシーニーの現地名に、くすくすと笑う。

「無理やり、俺が名付けたの。あの女の子に紹介する時に、さっそく役に立ったから良かったんじゃないかな」

「なるほど…で、シーニーさんと話した後?」

「そう、青が、女が来てないっていうから、俺が付けていた追跡系の術の軌跡から割り出していた自宅と思われる場所で確認したんだよ。居なかったし、弟は姉の記憶もなかった。ただ、ビーコンの気配は残っていたから、不思議だったんだよ」

「なるほど。…おそらく…あ、やっぱり、他部署のビーコンもはりついてます」

「そうか、俺のと二つあったってことか…気づかなかったよ…」

「それは、しょうがないことですね。そもそも、そちらにいらっしゃる間は、魔力封じられてますから、当然です。…あ、やはり、世帯を替える時期だったようです。術は、術、ですから、発動条件が、おそらく時間の指定のみ、なんでしょうね」

「じゃ、女は別の場所に移動して幸せに暮らしてますってとこかな」

「う~ん、幸せかどうかは、わかりませんけどぉ…」

 何か知っているのか、交換手は言葉を濁らせて、しばらく思案中といった風に止まってしまった。

「ん?ってことは、その他部署のビーコンって、記憶を消されて別の世帯に移動した女も追跡しているってことか?」

「ええ、もちろん。現在地、送りましょうか?」

「…いや…いらないかな…せっかく、本部に報告する懸案事項が消えたってことだし…」

 青の様子を思い浮かべて少し迷いながら、滉大はそう判断した。

「あ、もう一つ、重要なことをお伝えし忘れてました」

「何か?まだ、ある?」

「シーニーさんはその女性の関係者筋にあたります」

 交換手の言うことを、言葉通りに頭に入れて、滉大は少し混乱する。

「…ってことは、青も犯罪者系列扱いになってるってこと?」

 そんなはずはない、それを知っている滉大は、交換手の言うことの信頼性に疑問を抱きながらそう訊ねた。

「それはありません」

 端的に答えた交換手に、好感を抱く。頭の回転も良いし、状況判断も良い。交換手にしては出来過ぎとも思える。リクルーターの腕を褒めてやるか…と滉大は考えていた。

「それに、そういう人材であったならば、いくら僻地と言っても、そんな任務に就かされることはありません」

 犯罪者を再び拿捕することもある。その協力を要請されることもまれにある。そんな部署に記憶を消された元犯罪者の派遣員っていうのは、あまりにも短慮すぎる。

「そうだよねぇ…」

 腕を組んで顔を上に向け目を閉じた滉大は、どかっと背もたれに体を預けた。

「え?ってことは、何で、千晴ちゃん見て、何の反応もないの?」

「…記憶の何か、ですかねぇ」

「関係者筋だけど、会ったことはないってこと?」

「それはないんじゃないですか?」

「覚えてないってこと?あ、そうか、青って、記憶がないって言ってたね。もしかして、消されてるってこと?」

「…どうでしょうねぇ、私からは何とも…」

 語尾を濁すマイラに、滉大は眉を寄せた。

―守秘契約?

 小さくつぶやいた声を拾った交換手は、おずおずと言った様子で話し始める。

「…あの、シーニーさんに聞いてみては?」

「何?」

「だから、シーニーさんに、直接、聞いてみたら…いかがかな?と」

「…な?」

 交換手は、そう言いながら目くばせをする。

「ですから、記憶操作されたかもしれない人の術を誰かが破ることはご法度ですけど、本人がうっかり思い出してしまうのは、致し方ないという風潮が、無きにしも在らず、なんですよ。今回のことで、どっぷりと様々な書類にダイビングしてしまっているうちに、数々のイレギュラー案件も目にしてしまいまして。私は、業務上の守秘義務に抵触してしまいますので、これ以上は申し上げられませんが。それに、これは、秘匿特権としてお話しますから、オフレコ、他言無用でお願いしますね!」

「オフレコって…そもそも、そっちが録画してんでしょう…」

「へへへ、そうでした」

 交換手は、さして驚いた様子もなく、そんなことを言って笑っている。

「さ、そろそろ、30分がたちます。私からお話しできることと、したいことは、今全てお話ししました。この30分については、二度とお話しできないことも含まれています。どうぞ、王子の御心の中に、留め置いてくださいね」

 そう締めくくって、交換手の後ろで扉が開き、数名の同じ制服を着た男女が入室してきたところで、一方的に通話は切れてしまった。

「…モヤモヤする…」

 誰かに相談するか、話して、考えをまとめたい所だが…

 そう思って青は、椅子をくるっと回しながら、目を閉じた。



 そう、あれから、もうすぐ3年、だ。


 半ば、忘れていた交換手との会話も思い出す。

 術の発動条件は時間のみと、交換手が言っていた。

 とすると、きっと、女は、また、記憶を消される狭間にいる。その術が弱まるか切り替わるかする、かすかな気配で、女の魔力が少し戻るのだと滉大は考えた。その時期だから、あの店を見つけ、入れてしまったのだろう、と。


 青と女は、既知の間柄だ。


 何より、三年前のあの日々、二人の目に宿る何かに、感じた、それが物語っている。



 女が入ってきたと報告をしてきた青を、モニターで眺めながら、滉大は、三年前のやり取りを思い出していた。そして、その時の青のことも思い出す。

「青、今から、そっち行くね。ガトーショコラも買って行ってあげる」

 一息ついた所で、滉大は青にそう告げる。

「いらねぇよ!」

 青が強く拒否する様子に、滉大はケラケラと笑う。




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