デートその1
「藤井、どっか寄り道して帰ろうぜ」
掃除当番が終わった後の俺を待っていたのは友人の金井ではなく、莉桜だった。
昔から気が強いとこがあって、少々、男らしい口調をしているが、れきっとした女子だ。そんな男らしさと、顔の綺麗さがそろって、一部の男子からの人気は高い。
「……金井は」
「帰った。『明日の報告楽しみにしているから、頑張れよー』だとさ」
金井は俺と莉桜は付き合っているとなぜか思い込んでいるが、実際ただの幼馴染だ。しかし、俺の友人はそのことを何度言っても信じてくれない。
「それで、どこに行きたいんだ?」
「お、さっすがー。付き合ってくれるんだ?」
「……どうせ言っても連れてくんだろ?」
「まぁね」そう答えて、彼女は俺の手を取って歩き出す。
「ほら、早く行くよ!」
とても楽しそうに笑う彼女。……夕飯までに帰れるのかな、俺。
そうして俺と莉桜がやってきたのはカラオケだった。
「ほらほら、早く選べよ、そうじゃないと、なにも歌わねぇで帰ることになるぜ?」
……今ここに来たばっかりなのになぜもう五曲も入っているんだ。しかも、全部しぶい。
「なんていうか、あいかわらずだな。莉桜は。というか、もっと最近の曲とか、知ってるのはないのか」
「いいだろ、別に。あたしはあたしの好きなものを歌う!なんか文句あんのか?」
ほら、怖い声。まったく、気をつけろといっているのに。だから、莉桜は敵を作りやすいんだ。
「おい、藤井?」
「ん?」
振り向いた時には、時すでにおそし。莉桜の顔が目の前にあった。顔を後ろに引くも、背中は壁。
「な、なんだよ……」
「藤井はあたしのこと、好き?」
一瞬の間。
「え、いや、なんだよ、急に……」
「ごまかすな」
「いや、どれくらいっていわれても……」
「じゃあ、あたしのことは嫌いか?」
いつになく真剣な莉桜の声。そして縮まる莉桜との距離。
「別に嫌いとはいってないだろ。好きだよ、フツーに。幼なじみだし。こうやって、遊んだりしてるし……」
「そういう意味じゃない」
ピシャリといい返される。
「もう一度、いう。ごまかすな。あたしの質問に答えろ」
――俺は、
「……………」
「……ごめん。急にいわれても、答えられねぇよな。だけど、このこと、忘れないでおいて」
「……わかった」
その時の俺には、そう答えることで精一杯だった。