苦痛という名の檻・後編
さ、さんざんな目にあった・・・。
朝から『お誕生日おめでとうございます、これ、つまらないものですが、どうぞ』ばかり聞かされていれば、それだけで体力も消耗しようというものだ。
紅苓棟は靴の履き替えがないので、体育の時間まで気付かなかったが、下駄箱にも大量のプレゼントが・・・。
無下に断って会社に響いては困るので、仕方なく全て受け取ってしまった結果・・・。
手に負えない量になってしまい、大型トラックを呼ぶはめになり・・・。
み、見たくもない・・・。
思わず現実逃避をしたくなるぐらいのプレゼントという名の賄賂に近いものの山は、無駄に広い自室の大半を覆い尽くしていた。
私がプレゼントの山を見て頭を抱えていると。
「まあ、すごい量ですわね」 「紗季子・・・欲しいならあげるわよ」
ここぞとばかりに、一斉処分してしまおうと思っていると。
「お嬢様、売ってはどうでしょう」
紗季子が笑いながら提案してくる。
だが。
「駄目よ。人から貰ったものは、売らないのが最低限のマナーよ?」
三つ子の魂百までというが、まさにそれで、たかだか十年で幼い頃に叩き込まれたマナーは消えることはない。
「そうで御座いますね。失礼しました。―――ところでお嬢様、そろそろパーティの支度―――」
そうだった。恒例の誕生パーティ。主役はもちろん私。
「分かってるから」
いそいそと準備を整えようとしている紗季子をどうにかして追い出し、ずるずると座り込む。
もう5時を回っているし、パーティは7時からだ。
もちろん、パーティはすっぽかす気満々だ。
紗季子は毎年のことで諦めかけているし、義父は笑ってばかりで面白がっているだけだ。
招待客も顔ぶれが変わらないので諦めているらしい。
―――このパーティと、自分主役のパーティに私が出席しないのは、有名な話だ。
「さて、逃げるか♪」
毎年、この時だけは少しだけ心も弾む。私は制服を脱ぐと、黒のタートルネックにジャケット、ショートパンツにニーハイソックスという、お嬢様らしくない格好に着替え、さらにコートを羽織り、隠してあったブーツを履き、財布とケータイ、そして筆記用具にホットのブラックコーヒー(エスプレッソ)の入った水筒とサンドイッチ、挙げ句の果てには着替え(下着込み)にタオルまでバックに詰め込んで、三階の窓からダイブする。
――――え?無事かって?
もちろん。
こう見えても、運動神経は他人に劣ったと感じたことがない。
まあ、頭もいいのか悪いのかよく分からないけれど、一応学年トップ。全国模試は・・・上から三番以内を争ったり一位もぎ取ったりしているから・・・やっぱりいい方なのだろう。
兎に角、バックとコートで抵抗減らして、足からすとんって感じに。
十年やってれば、そこそこ上達するものだ。
――――と、いうわけで。
私は屋敷の外へと逃走した。
―――もちろん、明日の朝には戻るつもりではあるけれど。
今は少しだけ、気分がいい。