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過去の欠片

「どういう意味かな、緋月」

 柊さんは笑みを崩すことなく問うてくる。私の言っている意味などとうにお見通しの癖に、性格は本当に最悪だ。

「どうもこうもありません。私は今さら生家に戻るつもりはありません。ですが将来は夕璃として生きることを望む、と申したまでです」

「ふぅん。随分かしこまった言い方だね。どうやら自分の発言の重さは理解しているようだ」

 くすくすと柊さんはひとりごちる。

「お義父様こそ、私がこの話を切り出した時点で分かっていらしたはずですが」

「…嫌みはもういいよ」

「では認めてくださるんですね?」

「ああ、構わない。どうせ裏家に戸籍なんかないんだ。…つまり、緋月が夕璃に戻ろうが戻るまいが戸籍はそのまま紫藤家のものだからね」

 くすりと笑った柊さんに、何となく安堵した。




 それから数日後、相変わらず微妙な毎日を消化していると、どうやら平穏はあっという間だったらしい。

 放課後、いつものように帰り支度をしていると、放送がかかる。

『紫藤緋月、海棠風葉、弓削暁人。以上の三人は至急生徒会室へ―――』

 呼び出された理由は分からなくもない。先日の件についてだろう。あの下半身無節操男は、生徒会とも関係が深かった筈だ。

「緋月、どうする?」

「何が?」

「雲行きが怪しければ、この学校買い取っちゃえばってこと」

「風葉…。それはやめて」

 僑苡も大分金持ち思考に毒されている。むしろ私がおかしいのかも知れないが。

「ふぅん。綺夕って案外常識人?」

「…暁人。私はいつでも常識人よ」

 アンタやこの学校の紅苓棟の生徒と違って。

「つもりじゃなくて?」

「…死ね。ウザい」

 一々細かいところに反応されれば、いい加減鬱陶しい。

「風葉、行こう」

 僑苡の腕を取って教室を出る。そのころには既に教室には誰も居なかったから、その姿を見られずに済んで良かった。


 生徒会室は入ったことがない。何度か勧誘が来たが興味はなく、実を言えば生徒会メンバーの顔もよく知らない。

 今日初めて叩く扉は厚い。意を決してノックしてみると、返事はすぐにあった。

「名前と所属を」

「一年紅A組、紫藤緋月です」

「同じく海棠風葉です」

「弓削暁人です」

「どうぞ」

 返事を待ってから扉を開けると、そこに立っていたのは美形ばかりだった。

「ようこそ、紅苓棟生徒会執行部へ。僕が副会長の柾木芳徳。よろしく」

 思わず面喰らって立ち尽くしていると、甘い顔立ちをした男子が近づいてきて自己紹介を始めた。これは歓迎の証と取るべきか否か。

「うわー、三人とも同じ顔!!…あ、はじまして。俺は書記長の神崎護ね。噂はかねがね聞いてるよー」

 今度は金髪のチャラい系だ。聖苓は校則に厳しくはないが、耳に穴を開けて何が楽しいのか分からない。手入れが面倒なだけだろうに。しかも、書記長はそれを何個もぶら下げている。軟骨に穴を開けるのは痛いと聞いたことがあるが見ていて本当に痛々しい。耳殻のみならずその内側まで開けているのだ。全くもって理解できない。

「へ〜ぇ、これが今年のナンバーワンかぁ。こーやって見るとドアを蹴破ったなんて信じられないんだけど」

 書記長の耳を凝視していると、ふいに顔を覗き込まれてのけ反る。

「…ナンバーワンって、何ですか?」

「うわー、自覚なし?」

 書記長があんぐり口を開けている。一体何だというのだろう。

「ま、簡単に言うとその年の一番容姿の整った人ってことだな」

 また別な人間が話に入ってくる。今度は少女漫画であれば主人公の相手役なルックスで、気の強い目が印象的だ。

「俺が会長の蓮見響夜だ。因みにはじめましてじゃない」

 といえど、直接の面識はない。僑苡や暁人の方を見ても同様だった。

「はぁ…。ですが、なんでナンバーワンだとかなんだとか決めてるんですか?」

「そりゃ、美の追求でしょ。人間の心理に基づいたものだと思うけどね、輝悠」

「!!」

「鏡威も輝悠が可愛いと思うだろう?」

「!!」

 私がその名を使用していたのは、柊さんに引き取られる前だけだ。それは僑苡も同様の筈だし、他人にばらすようなことはない。だから、知っているということは施設の出身かその関係者ということになる。

「貴方は…」

「覚えてない?真尋だよ」

「ヒロ…?」

 佐野真尋。そう、確かに施設に居た。私や僑苡と同じように、生後一週間で施設の前に捨てられた子供だった。真尋は一コ上だから、物心ついたときからの仲だ。私と僑苡と仲が良く、三人でつるんでいた。忘れるわけがない。

「そ。輝悠が居なくなって、鏡威も引き取られてから…ちょっとして蓮見家の養子になった。名前も変えられたしね、分からなくても仕方ない。―――けど、二人とも変わらなさすぎだろ。顔はともかくその性格」

「「……」」

 子供の頃からひねくれていた自覚はある。しかも、今以て自分の思考や言動が同世代とズレている。印象が深くなるのは否めない。


「―――あの、何か勝手に盛り上がってるところ申し訳ないんだけど、何が起きてんの?」

 書記長が口を挟む。まぁ疑問に思っても仕方ないだろう。

「ホントにいっぱい名前があるねぇ、二人とも」

 暁人はウザい。名前など自分で付けたものではないのだから仕方がない。無視だ。

「それは秘密。…な、輝悠」

「…。ヒロ、それはともかく…本題に移ってくれると助かるんだけど」

「ああ、悪い。…えーと、先日の事件のことでちょっと話があるんだ。そっちの椅子に座って」

 ヒロの言葉に従い、豪奢な刺繍の施されたアンティークのテーブルへ向かう。

 嫌な予感がする。

 風向きがおかしいように見えた。生徒会室の窓からは丁度中庭が見える。そこの枯葉がふわりふわりと浮き上がっている。

 落ちる寸前の美しい輝きを放つ太陽が窓から差し込み、僑苡と暁人の髪を青く染める。それと同時に、頭の奥で何かの音がしている。

 そう。

 今生徒会室に居ることは大した問題ではない。

 どこかで何かが起きている。それはきっと、自分に関係することだ。




『――――ざけんなよっ』

『蒼兄!!』

『離せよ、くそ!!どうして俺は“璃”じゃないんだ!!…“璃”だったら、お前を助けられるのに…、悠璃………』

『蒼兄、いいから…。大丈夫だ。悠璃を助ける方法は、俺も純平も考える』

『昂璃……』

『大丈夫だ。…きっと見つかる。だから、今は家に帰ろう』

『純平…』

『昂璃、蒼夜さんを頼むな。俺は今から仕事入ってるから』

『ああ。完璧にこなしてこい』

『俺がNG出すわけないだろ?』

『…純平、気を付けろよ』

『蒼夜さん?』

『頼むから、俺の知らないところで居なくなるな。…俺はもう、あんなのは二度と嫌だ』




 頭の中で響いた会話は、一体どこでされているのだろう――――。

 さて、何だかようやく本題に向かえそうな気がします。



 タイトルですが、この辺の話にはまったく絡まないので変ですよねー。

 ストーリーも疑問だらけですねー。

 というわけで次回はそれらの解決が入れられるように調整するつもりです。


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