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選択は運命を揺るがすに足らず

タイトルそのまんまですね〜。


うっかり綺夕たちの“璃”の名前(=本名)を忘れて更新遅れました。すみません。

 それは唐突だった。




 五人の“璃”が産まれて約十日後、漸く皇璃の元にその知らせが届き、帰国の目処が立ったと言うのに、肝心の“璃”が拐われたのは。




 クリスマスが終わり、年末に向けた祭祀の準備に皆が動き回っていた頃。

 名の無い子供が三人居なくなった。

 銀の“璃”を持つ三つ子の方だった。




 その事実に真っ先に動いたのは、他ならぬ万璃だった。

 彼は連日ありとあらゆる情報を駆使して三つ子の行方を探した。



 そして辿り着いたのは―――。



 三つ子の母、亜美その人だった。

 直ちに万璃が問い詰めると、亜美はどこか病的な笑いを以て答えた。目は正気を失い、虚ろな光と孤独を映すのみだ。

「これ以上…息子たちを好きなようにはさせないわ。蒼夜はまだいいの。“璃”じゃないもの。ある程度安全でしょう?けどあの子たちはね、折角産まれたのに名前すら親に付けて貰えない、しかも制限がある…。おまけに見たこともない色ですって?そんなの…大人のエゴじゃない。私は私の子供を守るわ。…ふふ、名前も付けてあげたの。可愛い可愛い名前をね」

 くすくすと笑い続ける亜美の顔は、それでも幸せに満ちていた。

「…。その通りだろう。だが…」

「見つからないわよ」

 言い募ろうとする万璃を遮り、亜美は言った。

「どういうことだ?見つからないとは…」

「いくら裏家だって、見つからないものは見つからない。一人はね、預けたのよ?ちゃんとした友人に。名前を教えて…。けど、後の二人はどうしてることかしら…。居場所が判明する頃には手遅れかもね…」




 その後亜美は鬱病であることが判明し、療養生活に入った。

 亜美の言葉がどういう意味なのかは確認されておらず、その数年後皇璃が亡くなり、万璃が当主となった。楼璃も皇璃と共にこの世を去り、瑠璃とその息子の双子の兄・悠璃、そして蒼夜の乗る船が沈没して瑠璃が亡くなり、悠璃が行方不明になった。


 双子はそれぞれ夏野と昂璃、三つ子は風葉と緋月と暁人として成長し、現在に至る―――。







「―――では、何故誕生日が…」

 私の誕生日も、僑苡の誕生日も12月15日で、この間過ぎたばかりだ。

 そう。何とも阿呆なことに、この二人は期末も終わった学期末、全くもって空気の読めない転校をしてきたのだ。何に焦っていたのかは知らないが。

「それは母親が改竄していたらしいよ。暁人君も12月15日だと教えられているだろう?」

「え、まあ…。でも、それよりも…悠璃が行方不明で夏野ってやつになったってことか?」

「…まさかとは思うけど、それって浅葱夏野ですか?」

「おや、知っているのかい、風葉君」

「僑苡でいいです。…ええ、浅葱夏野といえば、全国区ですよ。4メートル越えで、オリンピックの優勝候補。ハイジャンの期待の星。そんなフレーズは嫌でも目につきますからね」

「…インタビューすら逃げる人だったっけ」

 思い出した。細身で柳みたいな印象だった。

 髪質が僑苡に似ていて、何となく記憶にある。

 見たのはインハイ、今の時期、聖苓は部活停止期間だから活動していないが、私は陸上部だ。種目は棒高跳びで、一応は決勝まで残った。優勝を逃したのは、アメリカ時代にやった事故での古傷のせい。その日は天気も良くなかった。台風が迫っていたから。今はもう、ないけれど。

 その傷を治そうとは思わなかった。普通に残ることを、受け入れていた。だが人間には利己心がある。それが働いた。

 優勝を逃した瞬間、自分に初めて芽生えたその想いは、何故か簡単に叶った。

 一週間後、そこには何の傷もなかった。

「…そう。道理で似ているわけだ」

「何が?暁人」

「顔。確かに、俺達三人は似ている。完璧な三つ子だ。けど…目の放つその人の人柄とか、決意とかって、全く異質だ。でも、夏野は同じだ。綺夕の目と」 また、暁人が別な性格を見せる。掴み所がない。軽いのか、何なのか。飄々としているようで、その実深い人間だ。弓削家の男なのかもしれない。

「そうそう。君達の本名は、僑苡君が悧璃。怜悧の悧ね。それで“れんり”。緋月は夕璃。穴に夕でね。嫌な名前だろう?それで暁人君が蓬璃。放り投げちゃったけど、本当は逢いたいって言う意味で掛けたみたい。末っ子にやるのがミソだね」

 結局、私は綺夕で輝悠で緋月で夕璃。そんなに名前は要らないのが正直な気持ちだ。


「夕璃は、特別な名前だから」




 穏やかに笑った柊さんの顔が、それとは裏腹に事の重大さを指し示していた。




「君は悠璃の裏、つまり、祭祀上のパートナーだ。裏家はその義務もある。悠璃が正式に花皇を承諾した場合、君も強制的に裏花皇となる。―――けれど、手放すつもりはないよ。これまで“緋月”を放っておいた、当主が悪い」




 あれは、何の本だっただろう。

 太古の昔、国を左右するほどの祭祀を行うものが居たことを書いた、古い本。

 今は絶版となった、その書籍には。




「裏家筆頭に、悲しみを湛えた二人の花皇が陰陽に別れる事なく立つとき、

国は平和と栄華の道を走ることになるだろう」




 何故、自分なのかは不明だ。

 けれども、私は私で居られることを祈る。変革は望まないのだ。保守的という意味ではなく、ただ平穏にひっそりと生きられれば構わない。






「お義父様」



 決意は固まった。否、自分の意志など固めなくとも、柊さんはそうするのだろう。




「生家に戻るつもりはありません。…けれど、緋月で生き続けるつもりもありません」



 柊さんの顔は、ただ老獪な笑みに彩られていた。

まぁ妥当な所かと。



将来は決まってるけれど…ね。

そこは秘密

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