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予言

 しばらく考え込んでいると、今度は内線が入る。

「万璃だ。――どうした?」

『万璃様、その…お孫様がお産まれに』

 そのことは、忘れていた。いや、時間的にも同じであったために、三つ子の方にばかり気を取られていて、ではあるが。

「そちらは、普通のようだな…」

 ほっとした様子で、万璃は呟く。これ以上問題を増やさないで欲しかった。何しろ、全権を任されているとはいえ自分の正式地位は“花皇”。最終決定を下すには躊躇いがある。

 何はともあれ、万事明日に流すとして、万璃は仕事に戻ったのだった。







 それから数日。三つ子の処遇も決められないまま、五人の子供は目を開けた。

 そして例によって祐那が駆けつけてきたのだった。

「万璃様、例の…っ」

 としか言えないのは、まだ子供に名前が付けられていないからだ。

「どうした?」

「目を、開けたそうです」

 万璃に嫌な汗が流れる。それは確かめるのが、怖い。

 とはいえそうも言ってはいられず、万璃は子供たち五人が居る部屋へと向かった。




 入室すると、これまた皆が万璃を複雑な表情で迎えた。

 当の子供たちは、三人は泣き、二人はそれを煩そうに聞き流しているからだろうか。

 泣いているのは三つ子の方、という訳でもなく、産まれた順に並んだベッドの、丁度奇数の三人だった。

「普通は、つられて泣くものなんですけどね…」

 医師の顔も引きつっている。何しろ、泣かない二人は揃いも揃って、産声を上げたきり、意思表示をしないのだ。

 否、五月蝿いという意思表示はしている。顔が、目が、大人たちに向かって『泣き止ませろ』と訴えている。非常に、乳児らしくない。

 つまり、この二人は生後数日で、自我が確立している可能性もあるのだ。末恐ろしいことこの上ない。

「…とにかく、瞳は確認したのか?」

「ええ、全員。――三つ子は全員銀…前例がないので何とも言えませんが、とにかく経過を見て…」

「―――だが、3C‐1だぞ?それは…」

「確認いたしました。どうやら、“璃”は二色、銀と赤・緑・青の…」

「それこそ、前代未聞だな…」

「アレキサンドライト…。二つの色を持つ者、なのでしょうけれど…」

 “璃”ですからね、と医師は続ける。

 “璃”に何の意味があるのか、はっきりとは分かっていない。正直なところ、その瞳の持つ強さも、一概には言えない。

 だが、このその手の界隈からは古代より『裏家』と呼ばれているこの家系では、こんな言い伝えがある。






 曰く、『誰にでも心の奥には獸を飼っている。その獸が表面に出た者には幾つもの心がある。そしてそうでありながら一つの“何か”を貫く者こそ、真の当主であり、また、それは同じ日に男と女、それぞれ一人づつ近き血で産まれる』と。






 それは『裏家』の初代が言った、予言であった。

 そしてその後には、こう続く。






 『共に家からは離れる。

その別離は家を傾ける。

男は硝子から反射する光の蒼さが翳る頃水と炎とに挟まれて、女は狂った利己的な大人の暗い欲望によって、それぞれに傷を抱えて歩き出す。

朱にまじわれば赤くなることはなく、それぞれはそれぞれの獸を胸の裡で剱と成し、輝きを増す。そして比類なき強さを持った二人は、その傷を癒せぬまま大人になる。抱く思いは忘れ、傷を深くしていくのみ。最強で且つ天つ才を持つ者は、孤独と孤高に果てはなく、あるのは星のない満月の夜と砂漠であり、朝は来ない』






 その予言は、書物にしか残っておらず、誰も知らない。知っていれば失敗を侵すことはなかっただろう。少なくとも、当主さえ知っていれば、男は助かったであろう。苦しみ続けることはなかった。

 女は――助からない。それは避けようがない。






『男も女も、心の数だけ名前を持つ。それは全てが本当で、全ては偽りである』






 万璃はおろか、皇璃も楼璃も、それを知らない。


 年の暮れ、静かに『裏家』に鏑矢が放たれたことを。






『終焉の篝火は緑。赤と緑が銀に乗って風となり、炎を昂る。そして黒き炎となりて、焼き尽くす。紫と金の傍観者は蒼を殺めて炎を沈めるだろう』

 色々起きちゃいます。でも血統断絶はないですよ。



 隠蔽工作とか人さらいとか人身売買とか証拠隠滅とか。

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