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 それは、16年前の冬の日の奇跡だった―――。




 その界隈では最も有力で、遥か古代より日本に確固たる家系として存在しており、現在も全く衰えることなく、むしろその大きさが日本を越え、世界にまで広がっている、特殊な家系でのことだった。

 俗に裏家と呼ばれるその家系に、その日五人の子供が産まれた。




 12月17日のことだった。




 広い本館の中をぱたぱたと、真崎佑那まさきゆうなが走る。

 メイド姿ではないが、古来よりこの家に仕える真崎家の人間で、齢は25。彼女は今、連絡係として当主の部屋へと急いでいるのだ。

 使用人とはいえこの家に仕える全ての人間が、この家の世間から隠された始祖の代より仕える人間のため、扱いは親戚のようなもので、使用人というよりは家庭内の割り振りという感が強い。

 今や、差は無いに等しい。当然、当主に会うのに畏まることもない。

 3階の一番北にある部屋の前で、佑那は軽く息を吐いて桜材の重厚な扉を叩く。



『誰だ?』

 奥から声が響いて来る。当主代行の万璃の声だ。

「万璃様、佑那です」

『―――入れ』




 佑那が扉を開けると、丁度万璃は書類の確認をしていたらしく、デスクの上はファイルが積まれ、紙が散乱している。

 当主である万璃の父・皇璃おうりは現在双子の弟・楼璃と共に海外旅行中で、今ごろは豪華客船の中だろう。共に妻を亡くした身であり、一卵性双生児でもあるため、大変に仲が良い。

 そんな事情で、万璃は当主代行として奮闘しているのだ。




「どうした?佑那」

「それが…。実は先程、例の三つ子が誕生したのですが……」

「?それは喜ばしいことだろう。何故そんな顔を…」

「そ、その…。どうやら、三人が三人共、“璃”らしくて……」

「な…っ」



 先程まで、とても42とは思えない程の甘い笑顔をしていた秀麗な顔が、複雑に歪む。

 通常“璃”は一卵性だろうが二卵性だろうが、双子の先に産まれた方が持つ。

 これまでにも、三つ子は幾つかあった。

 ただそのどれもが、一卵性+二卵性の場合には一卵性の先に産まれたほう、全て二卵性だった場合は一番最初に産まれた子供、ごく少数の例でしかないが、全て一卵性だった場合にも一番最初に産まれた子供が“璃”だ。

 今日この日まで、例外はなかった。双子の場合でも、二人が二人共最初から“璃”であるということも無かった。

 万璃やこの家に関わる全ての人間は、そんなことは有り得ないと無意識に信じていたし、揃い子以外に“璃”が産まれるということも無かった。

 全く、異例の事態だったのだ。




 万璃はしばらく考え込んでいたが、やがてポツリと言った。

「だが想定外とはいえ、喜ばしいことに変わりはない。―――御当主に報告し、名前を考えて貰わねば…」

「そうですね。ところで御当主は今…」

「カスピ海だと言っていたな。相変わらず二人で気儘に旅してるらしい」

「それでは当分戻りませんわね…」

 沈黙が下りる。皇璃も楼璃も優秀なのだが、昔から勝手なところがある。

 楼璃はともかく皇璃は敵が多いというのに、本人は今回のようにふらふらと旅行にでかける。警戒心のなさにかけては、他の追随を許さないのだ。尤も、最強の“璃”である皇璃にとっては何の問題にもならないのだが。




「とりあえず、会いに行こう」

 ふわりと優しい笑みを見せて、万璃は席を立つ。

 佑那もそれに従い、並んで歩き出す。






 通常、産まれたばかりの子供が“璃”であるかどうかを見極めるなどという行為は行われない。しかし双子以外の揃い子の場合にのみ行われる特殊な検査がある。

 現在脳波を測定するというものが専ら用いられており、ご多分に漏れず、三つ子も測定された。

「―――結果は、3C‐1、A:+++。つまり、未知…か」

 二人目に産まれた子供の分の書類に記載されたデータを見て、万璃は深くため息を吐く。

 3C‐1自体は特殊なことではない。並みには強い方だろう。

 しかし、A:+++というのは未知、つまりは虹彩は並み、力としては測定不能ということになる。

 一人目のデータを見ると、結果は3C‐1、A:+だった。これは測定許容範囲内であるが、虹彩の顕す力よりもワンランク上、つまりは万璃の持つ『強』の“璃”である白もしくは万璃の亡くなった双子の兄・菫璃ぎんりの持っていた紫と同程度の力であることを示す。

 3人目のデータに移ると、今度は3C‐1、A:−という結果だった。数値を見る限りは、力は並みということになる。

「だがそれなら何故Aが…」

 Aは能力の高さと、常にない形質のどちらか一方、或いは両方を持つ場合に付く値だ。

 先の二人は確かに異常だった。しかし、三人目の子供にどうしてAが付くのか、万璃には分からない。

「万璃さん。恐らくとは思いますが、三人とも形質が特殊な可能性が――」

「しかし、3C‐1だ。これは形質が異常とは…」

 脳波のパターンにより、その種類は測れる。3C‐1は並であり、本来Aがつく理由はない。

 本当に、異例の事態だったのだ。

 書き上げていた別のこの家系の小説では全く皇璃の性格について触れていなかったのですが…、書いていて既に自由に動き回ってくれています。

 どうやら当主と言うのも烏滸がましい位のちゃらんぽらんな性格みたいです。



 徘徊老人だと思って優しい目で見守ってくだされば有り難いです。

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