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苦痛は激しさをまして

 散々だった昼休みを終え、私たちは教室へともどった。

「紫藤さん、今まで校内案内してたんでしょう?何だか騒がしいのだけれど、知ってる?」

「柚木さん…、世の中には知らない方がいいこともあるんですよ…」

 疲れた。無論柚木さんに悪気はないことは百も承知だ。

「それじゃ怪しいってば、緋月」

「…百歩譲って暁人や風葉が疑われたとして、私まで疑われることはまずないから」

「流石優等生」

「それ以前に私は女」

「「中身と行動は男な癖に」」

「基本男嫌いだけどね」

 私は男が苦手だ。嫌いな理由は色々あるが、最大の理由は逆玉の輿狙いで近寄る男が私の周りに多すぎるからだろう。

 私が紫藤の血を汲んでいないと分かれば、見向きもしないだろうに。

 優等生然とした外面の裏で何を思っているのかさえ見抜けないような男と付き合うつもりは全くない。

 私の心の裡はきっと、人を見下しているだけにしか思われないのだろう。そんなことはアメリカに渡る前から自覚していた。

 当時はそれで人並みに悩んだつもりだが、アメリカで自分より年上で、考えも大人な人間たちに接するうちに、見下されても仕方ない態度をとるのなら、権力なんか関係ない気もして、開き直ったというか居直ったというか、意思がはっきりしたと思う。

 勉強を片手間に片付けつつ、アメリカにいたほとんどの時間を人間観察に費やしていた当時の自分は、何と気儘でマイペースな人間だったことだろう。

 惜しむらくは、それから数年が経ち、現在に於いて、そんな精神的余裕がないことだ。

 でも、何故だろう。

 憤りや本気の呆れなど、ここしばらくは皆無だったのに、今は専ら喜怒哀楽の『怒』ばかりがよくでてくる。それが少し、まだ私を人間に留めておいてくれているのかもしれないと思う。

 私は自分が異常であることを理解している。

異常でなければ、どうして善人の仮面を被ってしかし、心の裡では過去にしがみついて現実から離れようとするのか。執着を感じるのは過去の記憶だけ、現実はどうでも良く、自分の感情よりも一般的な人間がどんな行為にどんな感情を抱くのかのみで判断してきた。誰かに理由を付けて死んでほしいと言われれば、何の躊躇いもなく死ねる気さえする。

 痛みがどうとか、死んだらどこへ行くのかというような不安も、感じたことはない。生に執着は持っていないし、またそうまでして生きたいと思えたこともない。生きていることは、只の苦痛でしかない。

 どうして人を殺したがるのか、好きになれるのか、嫌いになれるのか、あまり分かってはいない。

 ただ、自分の意向を無視して効率の悪い方向ばかり行くのは嫌気が差す。一般的なモラルの何たるかは理解していたが、それでも所謂人間的な感情による行動というのは、なかなか取れない。

 私のような人間が一番危険であることも、理解している。

 だから害にならないように矯正しようとする人間がいるのだし、彼らには彼らなりの正義があるのだとも思う。

 そういう所謂“善人”たちは、人権がどうのこうので、それを私のような人種に当てはめる。傍観者たちはそれを見て感動し、また同時に、それに従おうとしない者に侮蔑の視線を投げ掛ける。

 根本にある価値観が全く異なるのならば、それを型に当てはめるのは苦痛でしかない。

 放っておいてくれればいいと思う。煩わしくて仕方がないと思うのなら、いっそ分かたれてしまえばいいと。

 臭いものには蓋をして、人間はいつでも見逃してきた。

 だからそれで構わないのだという思いをこちらも抱いているのだと、なぜ気付いてくれないのだろう。

「緋月?どうした?」

 僑苡が話しかけてくる。私が何も見ていなかったことに気付いたようだ。

「別に、………何かあった?」

「いや何もないけど…疲れてんのか?」

「そうねぇ…。思春期特有の悩みってことで」

「何か知らねぇけどさ、お前の場合一生引きずりそうだな」

 また縁起でもない、と笑って答えてしかし、その通りだと思う。

 世界と自分との齟齬は、これからも私を苛み続けるのだろう。

 なまじただ思い出にしがみつくだけだったその人物が、目の前に立っている。

 僑苡が私を現実へと引きずり出す可能性だってある。







 私が願って止まなかった再会はただ苦痛の色を濃くしていくのみ、それは坂道を転げ落ちていくのと同じように、加速していき、だがしかしその先は平坦な道ではなく無明の闇、堂々巡りしかできない思考の中を永久にさ迷う流離い人となるのだと、このときはっきりした――――。


 綺夕の思考は一生ものだと思われます、このままでは。

 さて、僑苡と暁人は助けられるんですかね…(ぇ、そうゆう話だっけ!?)←予定にありません。綺夕が勝手に暴走した結果です。

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