5、知りバレ
応援するチームが勝ち続けるというのは本当に気分がいい!
ノリノリで仕事も頑張れるってもんだ!!
店に着くと健太が入念に髪をセットしていた。
「うぃーす。勇気、今日は来るの早いな!」
「なんか、気分良くてな。
あっ!健太、サッカーのU-17とかU-20に選ばれるってやっぱ、凄いことなの?」
「そりゃそうだよ。その世代の最高のサッカー選手だからよ。
U-17やU-20のW杯まであるんだぜ。でもなんでそんなこと聞くんだ?」
「いや、なんかテレビで言ってたからさ…」
「ん!?まあ、将来の日本を背負って立つ逸材だな。」
(やっぱ、ちさはスゴイ選手なんだ。ここまでの選手になるために
相当な努力をしてきたんだろうな。)
ちさのことを考えると俺の目頭は熱くなりやがる・・・
さて、今夜も仕事を頑張るか。
女子サッカーを見るようになってから微妙にやる気が出てきた。
最近の俺、やっぱり変だ。
開店と同時に常連客の麻香が来店してきた。
いつものように健太を指名、俺はヘルプについた。
「健太、逢いたかった~もう!」
麻香は健太の上客だ。
この女、高校の体育教師でありながらホストに狂い
風俗でバイトをしながら健太に会いに来る。
「そういや、勇ちゃん。今日さ台東区スタジアムで女子サッカー見てたでしょ?」
(ギクッ)
「俺がそんなの見るわけないじゃん!」
「そうよね…浅草エンジェルスの武藤ちさのユニフォームを着たホスト風の観客が居てさ、勇ちゃんにそっくりだったのよね~」
畜生、この風俗女、何気にペラペラ暴露しやがって・・・
ヤバイ、健太がニヤニヤしながら俺の方を見ている。
バレちまったか?
「麻香は女子サッカーをよく見に行くの?」
「あれ、健太に言わなかったっけ?私、小学校3年から大学までサッカーやってたし。
Nリーグの選手とも対戦したことあるのよ。」
今の俺には興味津々の話だ。
本当は色々聞きてー!!
「だから今でも試合を見ると現役に戻りたいなって思う。
Nリーグの選手は私達サッカー少女の夢・希望なの。」
こんな風俗教師から女子サッカーの話を聞くとは思わなかった。
「でさ、その武藤ちさだっけ?どんな子?」
ヤバイ、健太の野郎、完全に気づいてやがる…
「う~ん、小柄で一生懸命。遠慮がちというか消極的なのよね。
それがなければすぐにでも代表に選ばれるくらいの選手よ!
あっそうそう。3年前にU-20の女子W杯があって日本は準優勝だったんだけどさ、そのときのメンバーだったよ。あの子。」
「そんな、小柄で一生懸命な子のユニフォームを勇気が着てたとかありえねーよ。マジ爆笑だよ!!!」
「そうだよね。あっはっは。」
「ははは・・・」
そして閉店になりソファーでくつろいでいると健太が来た。
「なあ、勇気。女子サッカー見に行ってんの?」
「あぁ…そうだよ。」
「えぇっ!?マジか。なんでそんなの見てんの?」
「いや…感動するんだよ。ひたむきで一生懸命であきらめないプレー。
一回見に行ったらハマったっちまってさ。」
「分からなくはないな。確かに男子に比べりゃパワーやスピードは劣るけど
どうにかしようって一生懸命さは伝わってくるよな。」
「なんかさ、あの子らの試合見てるとこっちまでやる気が出てくるんだよな」
「でもな、ああいう子と俺達では所詮、住む世界が違うんだぜ。
ましてや、世代別代表にも選ばれる程の選手だろ。
ガキの頃から学校が終われば毎日練習。練習が終われば自主練。
放課後に友達とカラオケ行ったりプリクラ撮ったりして遊んでるヒマなんかないし、
土日は一日中試合。夏休みもクリスマスも正月もなかったと思うぞ。
青春をサッカーに捧げたと言っても言い過ぎじゃねえだろうな」
「そうだよな。俺は何の努力もして来なかった宿無しのら犬だもんな…」
「色目使うんじゃねえぞ!」
「分かってるよ。あの子がサッカーしてるのを見るだけでいいんだよ!
セックスしてぇとか思ってねーよ!もう寝るからな!!!」
健太に話したことでなぜかスッキリした気分になれた・・・