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天使のフットボール  作者: リリー
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34/39

34、仲直り

名古屋ゴールデンオルカの激しいプレスに苦戦しながらも

武藤ちさの虎の子の1点を守りきって勝利した浅草エンジェルスの選手達は安堵の表情を浮かべていた。


試合後、ちさがロッカーに引き上げると通路で白田麻衣と西村樹里奈が雑談を交わしていた。

「ちさ、樹里がお待ちかねだよ!」

麻衣がちさを呼んだ。

「樹里さん!」

「ちさ、逞しくなったね。」

「そうかな?あはは。」

「あんたに謝っても許してもらえるとは思ってないけど…

いろいろ嫌な思いをさせてゴメンね。」

「そんな…いいよ!樹里さん。」

「いや、私がどんなヒドイことをしたか自分自身が一番よく分かってる。

本当にゴメンナサイ!」

「樹里さん!もう後腐れなしだよ!」

「うん…今日、ちさが本気でぶつかって来てくれて嬉しかったよ。」

「最初は遠慮してたんだけど麻衣さんに怒られて・・・」

「え?麻衣が怒る?珍しい。」

「私だって怒りたくはなかったけど…」

「そっか。麻衣のお陰か!まあ、ちさと真剣勝負できて本当に楽しかったよ。」

「樹里さん!私もだよ。来年も再来年もこれからずっと勝負できるから楽しみだね!」



「いや…私は引退するよ。」



「えっ…なんで?」

「もう体にガタが来ててさ。思い通りのプレーができないんだ…」

「まだ大丈夫だよ!樹里さんならまだまだやれるって!」

「いや、チームにもこれ以上迷惑かけられない。

ちさにも簡単に吹っ飛ばされるようになっちゃったし。はは。」

「そんな…じゃあ、エンジェルスに来なよ!一緒にやろうよ!」

「浅草にはもう戻れないよ…」

「ちさ、樹里が決めたことなんだからムリ言っちゃいけないよ!」

「麻衣さん・・・」

「こんなトラブルメーカーのポンコツを欲しがるチームなんかないから。」

「樹里さん・・・」

「ちさ!私、死ぬわけじゃないんだからさ。ははは。」

「だって!せっかく樹里さんと…」

「あっそうだ!ちさ、オフになったら名古屋に遊びに来なよ!いろんなとこを案内するからさ。」

「うん!行く!絶対に行く!!」

「約束だよ!」

「うん!約束する!」


3人が会話をしていると、そこに戸田葵が通りかかった。


「葵!」

「は、はい!」

「葵、あんたにも謝りたいんだ…」

「樹里さん…」

「嫌な思いばかりさせて本当にゴメンなさい。」

「いえ…」

「葵が私に言ってきたこと頭の中では理解してたんだけどさ…

速水君が私よりちさを選んだことが悔しくて悔しくて。」

「ちさは本当に樹里さんのことをお姉さんのように思ってたんです。

だから絶対にそんなことはしませんよ!」


「私が本当にバカだったんだ…

でも、こうやって4人揃うと全日本の女子ユース選手権で優勝した時のことを思い出すね。」

「決勝でエリーザユースに勝っちゃったし!」

「あー!エンジェルスユースが初めてエリーザユースに勝ったんでしたよね!!」

「確か、ちさがゴールを決めて勝ったんだよね。」

「麻衣、ちさ、葵と私…最強の攻撃陣だったな!

優勝して試合後に長老が大泣きして、ちさに抱きついてたよね。あはは。」

「あ…あの人は150歳くらいまで生きそうな勢いだよ。」

「私…この前、怒鳴りつけられたし。はは。」

「本郷さんの後釜は樹里しかいねえ!が口癖だったよね。」

「まあ、私に期待してくれてたんだよね…

そんな最高のチームも…何もかも私が崩壊させてしまった。

私ね、ユースをヤメてからサッカーなんか2度とするか!

って思ってたんだ…」

「樹里さん、どうして大学でサッカーを始めようと思ったの?」



「大学に入学した年の冬に速水君が倒れて入院したんだ…

それから毎日、私は病院に通い続けた。

翌年の春、桜が咲く直前に速水君は亡くなった・・・

私は絶望の淵を彷徨っていた。

鬱状態で不眠症になり夜も眠れなかった…

何をしても楽しくないし本当に何も手に付かない状態だった。

その時期の記憶もほとんどない…

そんなとき、あんた達がU-20のW杯で活躍している姿をテレビで見たんだ。

どんどん勝ち続けるのを私は夢中になり試合を見たよ。

結果は準優勝!

無気力だった私は活力を取り戻した!

もう一回サッカーをやりたいと思い、大学のサッカー部の友達に入部したいと頼み込んだ。

度胸には自信がある私も2年間のブランクはさすがに不安だった。

体力はなくなっていたけど技術は衰えてなかった!

私はもう一度やれると確信した!!

体力を取り戻すために毎日毎日走り続けた!

弱小だった大学生チームを徹底的に鍛え上げ大学4年のとき

全国大学女子サッカー選手権で優勝した!

そのときの活躍が目に留まり名古屋にスカウトされ入団って経緯になったんだ。

でも、せっかくNリーグのチームに入団できたのにケガ・・・

神様の天罰だと思ったよ。」


「樹里…」

「天罰なんかじゃないよ樹里さん!」

「そうですよ…」

「いや、黄金世代と言われたチームをぶっ壊した私への報いだよ。

あっ葵、さっき麻衣とちさには言ったんだけど私は引退する。」

「えっ?引退?」

「樹里は他にやりたいことでもあるの?」

「恋愛でもしよーかな!はは。」

「え?」

「じゅ…樹里さん。」

「だってさ、今まで出会った人はみんな速水君と比較しちゃって。

なんか、どいつもこいつもつまらないなって感じてたんだ・・・

でも、死んだ人って永遠に美化されるんだよね。」

「樹里さんはキレイだからすぐにいい人が見つかるよ!」

「ホントか~?昔は自信あったけど今はクソババアだしな!はは。」

「そんな~!樹里さんは今でも衰えてないよ!!」


「お世辞ありがとう!

あっ…3人にお願いがあるんだ・・・

絶対に優勝して!私達の浅草エンジェルスを優勝させてよ!!」

「樹里さん!絶対に優勝させるよ!頑張るよ!!」

「ちさ…頼んだよ。

そろそろバスの出発の時間だから行くね。じゃあまた・・・」



西村樹里奈はこの試合を最後に引退した。

幼い頃から天才と言われ

超一流になれたであろう選手の悲しい現実であった。




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