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短編集  作者: Teacup(紅茶)
3/6

さよならはきらいですか?

6年間、片思いを続けていた。


それも今日で終わりになる。高校の卒業式。君とは離れ離れになってしまうから告白しようと思う。


昨日のうちに卒業式の後話そう、とだけ伝えておいたけどどんな話をするかも告白の仕方もなにも考え付いてない。


朝、いつもと違ういつも通りの教室から始まって、淡々と、時間に連れさられて行くように進んでいく卒業式。


友達は泣いていたり、それを見て笑ったりしていたけど、私はどんな顔をしていただろう。


君とどんな話をしよう、君にどう告白しよう、それでいっぱいだった。


卒業式が終わってしまい、解散になると、みんなは仲のいいグループで帰ったり、打ち上げにいったり。


そんななか私は、すこし急ぎ足になりながら校門に向かう。


帰る卒業生でいっぱいの校門。君の姿は見当たらない。


そういえばどこであうなんて約束してなかったな、少し会えるか心配になってきた。


いつもなら、ここで待っててくれているのに。そう思いながら君を待ってみる。


10分、いや20分経ったぐらい?もしかしたら5分だったのかもしれない、私を呼ぶ声が聞こえる。


「ごめん、待たせちゃって。」


「ううん、だいじょうぶ。」


「じゃ、ゆっくり帰りながら話そうか。」


ふたりで歩き出す。帰り道、思い出話で盛り上がる。


出会った日のこと、一緒に過ごした日々のこと、他愛もない話だけど、その全部が私にとっての大切な思い出。


「走ったといえば。一昨年の体育祭のリレーで君、おもいっきりこけたよね。あのどんくさい姿、今でも覚えてるよ。」


「もう。あれ、結構はずかしかったんだから。あまり思い出させないでよ。」


そんな話をしてるうちにタイムリミットが近づいてきた。このままではだめだ。ちゃんと伝えるんだ。


「あ、そこでもうちょっと話そうよ。」


私はそう言いながら、家の近くの公園を指さす。君はいいよ、と言ってくれた。


だれもいない公園で、話が絶えることなく続く。


日が真っ赤になって影が伸びてきたころ、私は勇気を出す。


「あ、あのね、これからなかなか、あえなくなるでしょ?だから、君に言っておきたいことがあるんだ。」


「え、分かった。なんでもいってみて。」


君の顔つきが真剣になる。心臓がさらに暴れるのを感じる。


「私、君のことが好きだったの。この6年間、ずっと。」


時が止まったかのように感じた。驚いた君の顔。


時の流れを戻したのは私だった。


「だから、その。私の恋人になってください!」


また時が止まってしまう。本当に止まってしまったように感じてしまうほどに。


そんななかで木々が私を小バカにするみたいにざわめく。


「えっと......ごめん。君の気持ちには答えれないよ。君を、そういう目で見ることができないんだ。」


木達が私のことをあざ笑うようにうるさく聞こえる。やっぱりか、わかっていたけど私じゃだめだよね。


なみだが流れそうになるのを必死に抑える。抑えきれないけど、抑えるんだ。


のどが、口が、声帯が私の言葉の邪魔をする。もう一言、いいたいのに。君に。


「でも君が、君さえ良ければ、今までと同じように仲良くしてほしい。」


君がそう、続けて言った。


すこし申し訳なさそうな、悲しそうな、困ったような目をしながら微笑んだ。


「あっ・・・・・あっ・・・・・・」


いま、どんな顔をしてるかなんて、考えたくもない。君をどんな顔で見てるかなんて。


「本当にごめんね。」


君も泣きそうな顔をする。私は抑えきれなくなる。


一気に泣き崩れてしまった。6年間の思い出とか気持ちとかぜんぶ一緒に崩れてしまうような感覚に包まれる。


スカートが土で汚れるなんて気にしないで座り込んで泣いた。


そんな私を君がやさしくつつんでくれた。そして、


「ごめんね。ごめんね。」


君も泣き出してしまう。


「君をそんな目でみてしまったら全部、君とのいままでの全部が壊れてしまう気がするんだ」


君が叫ぶように言う。私は驚いて、私にはなにがなんだかわからなくて、固まってしまった。


「君のことが好きだった!同じ6年前から!でも絶対に叶わない気持ちだと思って考えないようにしてたのに!」


続けて消えてしまいそうな声で君がいう。


「ダメなんだ。この恋はかなってはダメいけないんだ・・・・・・」


「だってそうしたら」そうつづける君の声は消えてしまってわからなかった。


私の涙が止まる。君の私を包む力が強くなる。


君も同じことを考えていたなんて思ってもいなかった。少しうれしいけどやっぱりかなしい。


太陽が姿を隠して公園の電灯がつきはじめた。


「遅くなってしまったね。そろそろ帰ろっか。」


君が涙をぬぐいながらゆっくり立ち上がる。


「うん。帰ろう。」


私も立ち上がる。


「別れる前に、もう一回ぎゅってさせてほしいな。」


それはポロッと私から出てしまった本音だった。


君が数秒考える素振りをみせて、腕を広げて笑ってくれた。


思わず駆け寄る私。また泣きそうになりながら君に抱き付く。


君も力いっぱい抱きしめてくれる。


長く感じたその時が終わり、離れようとした。ふっと視界全体に君の顔が映る。やわらかな感触が唇を襲う。


一瞬だった。一瞬だったけどその感触と君でいっぱいになった目の前がずっとまぶたの裏に写される。


我に返るときみはすごく照れた顔をして、逃げるように、


「これで、きっぱりあきらめなよ!じゃあまた会おうね!・・・・・・さよなら!」


君は家に走って行った。


またしばらくぽかんとしていた私。公園の時計が時報をならす。7時だよ7時だよ、早く帰ろう!


それを聞いて再び我に返り、足が家路に向かう。


「やっぱり、さよならなんてだいっきらい。」


ぽつりとつぶやく。


でも、こんな素敵なさよならなら、べつにいいかな?


内心そう思っている私の顔はどうなっていただろう?考えたくない。だって恥ずかしいから。

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