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ある土地改良を始めた娘の話


「お父様。あの使っていない区画、お花畑にしていいですか?」

 隣村に続く道の両脇には原っぱが広がっていいます。あそこにお花を植えたら通る人も楽しいでしょう。


「どうせ使う予定もないし、好きにして良いぞ」

 お父様にも快く了解してもらいました。


 農業指導をしているお兄様に相談すると、隣村の農家の方に協力を求めるようにアドバイスを受けます。

 けれど、手伝ってくれるでしょうか?

「お嬢さま自らお話すれば大丈夫ですよ」

 本当かしら? こんな小娘の言う事を聞いてくれるでしょうか。

 隣村の畑に行くと知り合いのおじ様が畑仕事をしていました。試しに伺ってみます。

「あそこをお花畑にしたいのだけれど、どなたか手伝ってくれませんか?」

「お嬢さまに頼まれちゃ、断れねぇな」

 二つ返事でOKをもらいました。しかもお友達も連れてきてくれるそうです。


 数年前からこのおじ様の畑を始め、色々な畑にお邪魔させてもらっています。正直、こんな子供ではお荷物にしかなっていないでしょうが、皆様嫌な顔一つ見せず、迎えてくれます。

 やっぱり小さい頃からの結びつきは大事ですね。


 翌日からお花畑作りスタートです。長年使っていなくて固くなった土を掘り返して耕します。そして、堆肥を混ぜ込みます。

 その間に、わたしは土壌検査です。掘り返した土の粒を確認します。ちゃんと耕せば排水性と保水性自体は問題なさそうです。

 また、土をナス皮の搾り汁に入れてみます。紫色の汁が赤く変わります。かなりの酸性です。これが作物の育ちが悪い原因でしょう。土の中の見えない虫さんたちが動けなくなっちゃいますし、栄養がなくなっちゃいます。


 土壌を中和するには石灰を使うのは知っていますが、どこから持って来ればよいのでしょうか? 近くにあったでしょうか?

 先生に相談すると有名な産出地を幾つか教えてくれましたが、いずれも遠くです。

「姉様。あっちの山の中の洞窟にいっぱいある」

 夕食の際に、屋敷の皆に聞いてみるとちぃちゃんが場所を知っていると言います。

 おばあ様も「ああ、そういえばあの山には白い岩の洞窟があるさね」とその情報を補足してくれます。


 ちぃちゃんが教えてくれた洞窟へお兄さん達と行ってみます。中はひんやりとして、肌寒いくらいです。壁は白い岩で出来ていて、天井からつららのような白い柱がつり下がっています。神秘的な感じがして綺麗です。こういう洞窟を鍾乳洞と言うらしいです。

 夕方になるとその白い柱がオレンジ色に染まり、ますます素敵です。

「お嬢さま。ここの岩を削って持っていけばいいですか?」

「はい、お願いします」

 風光明媚な風景に見とれている場合でありません。それにまた来れば良いだけです。


 洞窟から取ってきた岩を細かく砕いてばら撒きます。

 そして、再度、ナス皮の汁に土を入れると紫がかったピンクになりました。だいぶ中性に近づきました。

「もっと肥料をまいた方がいいんじゃないか? 山に入って腐葉土を持ってくるか?」

 ひと段落したおじ様が提案してきます。

 う~ん。腐葉土はまき過ぎると、また酸性に近づいちゃうから控えめにしておきましょう。

 それにおじ様たちは自分の畑もあるでしょ。あまり手間を掛けさせるのも申し訳ないです。

 仕上げに、悪い虫さんが嫌がるお薬を撒いて終了にしましょう。たくさん撒くと役立つ虫さんも嫌がってしまうので、おまじない程度の量に抑えます。


 お花って、話しかけながら真心を込めて世話をすれば必ず答えてくれるので、やりがいがあります。


 お父様も一度、激励に来てくれました。大変だったら帰ってくるように言ってくれますが、へっちゃらです。これでも体力はある方ですよ?


 土壌改良が一通り終わっても、土がなじむまで、期間を置く必要があります。その間に周りの草むしりしながら、ここで何を育てるかお兄様たちと相談です。

「何を植えたらいいでしょうか?」

 本音はお花を植えたいけれど、お花ではお腹が膨れません。手伝ってくれたおじ様たちのために農作物にしましょう。

「大豆とかが良いんじゃないでしょうか?」

 でも、まだ酸性が強いです。それだったら、麦の方が酸性に強いですよ。

「う~ん。おじ様たちは農家だしお芋も植えた方が嬉しいでしょうか?」

 土地も痩せているから、お芋が妥当でしょうか。いっぱい取れたら、芋煮パーティをしましょう。

 種芋はちぃちゃんに頼んでみようかしら?





 ちぃちゃんがわたしの手を見て「姉様の手って緑の手」と言った。

「そうかしら?」ってにこやかに返したけれども、内心ショックです。

 きちんと手を洗ったつもりですが、ダメかしら? 自分で見ても気づかないけれど、他の人からするとそんなに気になるかしら?

 お父様にも言われましたし、今度から少しだけ身だしなみにも気をつけましょう。



紫キャベツが代表的な例ですが、紫色の野菜にはアントシアニンという色素が含まれているものがあります。その色素は酸性で赤、アルカリ性で緑に変化する性質があります。



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