領主を継いだので娘の面倒をみてやった
妻を名乗っている下女が楽しげに報告してきた。末の娘が手伝いをしたいと言ってきたらしい。
どうでも良くね? 別に、そんなに嬉しそうにすることじゃないだろ?
というか、あと二人いる娘の時はどうしてたんだ? まあ、あの次女はおばちゃんに強制された以外で手伝いしてるの見たことないけど、一番上の娘はどうしてたんだ?
長女は気が付いたら自分ではなく屋敷の人達を手伝うようになっていたので寂しかったそうだ。
そんな訳で、こいつは自分の娘の『はじめてのお手伝い』に喜びがあふれている。
手伝いって、何やるんだ?
「お料理です」
大丈夫なのか? まだ早くないか? 刃物を使わないやつにしとけよ。危ないからな。
・・・聞こえていてないのか?
テンションが上がっているのか、ずっと下らない妄言を垂れ流している。「黙れ」と言ってやろうかと思ったが・・・まあ、嬉しそうにしているし、水差すことないか。
怒鳴るのも、面倒だしな。
けど、まだガキだから厨房をグチャグチャにしそうだ。やむを得ない。厄介事にならないように様子を見ておくか。
当日、下女の後を追って厨房を覗いてみる。どうやら、目玉焼きに挑戦するらしい。
まあ、ヤケドさえ気をつければ初心者向けか。
観察してみると、ガキは卵を割るのに失敗している。黄身は潰れ、殻が混ざってしまっている。
もう、綺麗な目玉焼きは無理だな。
「殻を取り除けば、大丈夫よ。もう少し優しくね」
下女は娘を慰め、目玉焼きから玉子焼きにシフトするようだ。
どうせ、かき混ぜるなら殻を取れば一緒だ。けど、このまま見ていても上達しなさそうだ。
こいつも応援しているだけじゃなく、コツとか教えてやれよ。使えない女だな。
この卵は鶏を育てるようになったから、ある程度安定してとれるようになったけれど、まだまだ貴重だ。鶏もポコポコ毎日卵を産んでくれる訳ではない。
気にしてないだろうけど、実は1個でも市場価格だとお前らがさっき食べた一食分より高いからな。
それ分かってるのか? 多分分かってないんだろうな。
ーー致し方ない。手本を見せてやるか。失敗した卵が二桁に達した時点で止める。
ぼけっとしてないで、ちゃんと見てろよ。
どうにか、幼い奴は呑み込みが早いな。すぐ、コツを教えると綺麗に割れるようになった。しかし、この卵どうするかな。・・・プリンでも作るか。
お前らはスクランブルエッグでも作ってろ。それなら、ガキでも作れるだろ。
というか、よく考えたらこの女も実は料理が特別上手い訳じゃないよな。凝った味付けとか考えるなよ。
こいつらが使ってしまうから、一度厨房を出て追加の乳を取りに行く。そして、戻ってみるとガキが底の浅い鍋にのぞき込むように玉子をかき混ぜていた。下女はガキが鍋に突っ込まないように抱きつくように支えていた。
何考えてんだ? 馬鹿か、お前らは。危ないだろ! おいおい、本当に大丈夫か?
ガキはきょとんとしている。
鍋だって、こいつには大きすぎる。危なっかしい。鍋に突っ込まないようにガキを支えていた女も腕がプルプルしている。
舐めてんのか? 身体に合った器具を使わせてやれよ。
・・・使うのは、大きめのお玉で充分だろ。こいつのサイズなら丁度良い。火元の位置も変えよう。
お前はもう手を出すな。こいつはオレが教えてやる。
下女にそう言い渡す。
良く考えたら、これって手伝いじゃないよな? お手伝いって、補助だよな。無理のない野菜の皮むきとから始めさせよう。
本格的な料理は、もうちょっと大きくなってからだな。手も小っちゃいもんな。
仕方ない。手に合った包丁を手配しておいてやるか。