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領主を継いだので散財してやる


 さしあたっては金の確認だ!

 そもそも、金があれば料理人だって雇える。豪華な食材を買うにも金は必要だ。


 早速、この領地の運営資料を見せてもらう。

 親父に経営を任された家令も熱心ではなく、大したことは書いていない。

 秋に税を取り立てて一部を国に納める。警察の真似事をする兵士の運営状況。一年分が羊皮紙に2枚。あっさり見終わる。


 自由にできるお金は・・・少なっ。ゼロではないが、大規模な宴会を二回やったら終わりだ。これではやりたい放題出来ない。

 これで一年やりくりするだと・・・・!?


 いや、これは紙だけの情報。机上の論理は現場と齟齬が生じるのは仕方ないことだ。

 実行段階で情報と現物を照合するのは当たり前だ。人は間違えを犯すものだ。実際より少なく見積もってもしょうがない。


「農村からの税は作物で納められています。納められた作物は商人を通して現金化し、収入とします。今年の分はここで消費する分を除き、既に売却済みです」

 家令の説明を聞きながら、屋敷の倉庫を覗く。手前にポツンと製粉されたでっかい小麦袋が20袋。一年で一人2袋消費する計算だから、手元にあるのは10人分・・・?

 屋敷の人数が4人&通いのおばちゃん2人だ。余裕はあるが豪遊には程遠い。


「あれ? なら現金は?」

「先ほどお見せした資料の通りですが」


 目先の金は二回分のみ。

 なんてことだ!? オレの計画が・・・

 王都の親父の家を売れば金はできる・・・はず。しかし、宴会は待ってくれない!


 いや、逆に考えれば二回は宴会はできるんだ。

 そうだよ! ネガティブ思考は視野を狭める。ふう、危ない危ない。勘違いするところだったぜ。

 余裕をもってすればナイスな知恵も浮かぶ・・・はず。

 まあ、後で金が出来る当てはあるんだからとりあえず、一回は宴会しても良いよね?


 余裕の心で、よくよく倉庫を観察すると売却済みというが、奥にまた別の部屋があり、そこには麦が製粉されないまま積まれていた。

「これは?」

「三年前豊作だった年の小麦です。備蓄麦として5年ごとに入れ替えます」


 オレは調理だけでなく、食材の選別眼も鍛えられてる。それもこれも、美味い物を食うため。

 手に取って観察すれば、収穫量だけはあるが、味は不味い種類の物だ。カビてはいないが、三年前の古麦では売っても二束三文にもならない。


「こりゃ~、家畜のえさにするくらいしか使い道がねえぞ」

 少なくとも、宴会には使えないし、自分は喰いたくない。



 あと、何か売れる物は・・・

「何かないかねぇ~。訪問~、探検~、家探し~」


 現金化できるお宝はないか?

 元親父の部屋を虱潰しに探すと、宝石箱が見つかった。

 オレは宝石や装飾品に興味はない。それゆえ、正確な値段は分からないが、素人目にも細かい細工が施されている。

 興味があるのは美味い食い物だ。良いものを食べて怠惰に生きる。それが最高だ。


 これを売って、何食おうかな~。久々にエビを食べるか。

 以前、港町で食べたエビの踊り食いなんて良いかも。



「無理です」

 オレの要望は家令にあっさりと却下された。


 あれ? オレって領主だよね? 一番偉いんだよね?


 おばちゃんに続き、この家令も親父の陰に怯える臆病者か?

 が、理由を聞いて納得した。おばちゃんと違ってちゃんとした部下だ。さすが、オレの右腕(になる予定)。


 海から離れたこの領地で海産物を食べたいと思ったら、輸送してくるしかない。しかし、運んでくるための領内の道は未整備。あちこちに穴が開きガタガタだ。

「生きたままのエビを生簀ごと運んでくるなんて今の道路事情では不可能です」

 隣の領地は交易で栄えているから、そこまでなら何とか行けるかもしれない。が、そこからここまでは駄目らしい。


「なんてことだ・・・」

 完璧なオレの計画が挫折してしまった。


 エビを食べに隣領地の街へ行くのか? いや、それは単なる小旅行だ。目的をはき違えてはいけない。

 宴会をするのは何のため? 領主就任祝いだ。なら、自分の屋敷で宴会を開催しなければならない。


 なぜなら、それが領主っぽいからだ!

 道路事情? オレの情熱はそんなちゃちなもんでは消えないぜ!


 新鮮な海産物を食べるためには道の整備が必要? ならばやってやろうじゃないか! オレ以外の誰かが!!


 今のオレは権力者。未だに親父の陰に怯えるおばちゃんは例外として、オレに逆らえない領民なんてごまんといるぜ! ・・・いたらいいなぁ~。

 いや、おばちゃんの影に怯えるな!! 絶対いるはず・・・だ?


 領主権限で領民を強制労働させて道路工事やらせてやろう! もちろん、給料なんて払ってやらない。

「倉庫に眠っている古臭い麦くらいなら喰わせてやろう。不良在庫も一掃できて、一石二鳥だ」


 募集を掛けたところ、思ったより集まった。


 ーー自信回復ーー


 やっぱりおばちゃんが例外なだけだった。

「ふ~、さすがオレの人望。オレに恐れひれ伏したようだな」


 ーーふははは! 働き蟻の様にキリキリ働け!!


 ・・・いや、蟻みたいにホントに這いつくばらなくて良いから!? 普通に働いてね?


 這いつくばられては、効率が落ちるからだ! それ以上の意味はない。決して下手に出ているわけではない。


 おばちゃん。にやにやするな! さっさと領民どもへの不味い飯を作ってやれ。

 ああ!! オレの小さい頃のほんわか話をするんじゃない! 威厳が下がるだろうが!!



前話で「他人に頼ったのがそもそも間違いだ」なんて思っていましたが、本人は覚えていないし、きっと気のせいです。

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