領主を継ぐ前なので母親を心配してみた
「母様大丈夫?」
ベットに臥せっている母様に声を掛ける。
「大丈夫よ。ありがとうね」
母様は頭を撫でてくれるが、心配だ。
お母様の看病をしてくれているおばちゃんは
「季節の変わり目ですから、体調を崩しているだけですよ」
と言ってくれるけれど、心配は収まらない。
母様は体が弱くて寝込むことが多い。
こんなに母様が大変なのに、父様はずっと王都にいる。一体何をしているんだろう。無責任な・・・
それに、戻ってくる度にボクをいじめるんだ。
「父様嫌~い。母様をずっと放っておくし・・・」
唇を尖らせて愚痴が出てしまう。
「そんなこと言っちゃ駄目よ」
母様がたしなめてくる。
う~~~ん。母様が元気になってもらうためには、どうすれば良いだろうか?
「そうだ! 母様にボクがお料理を作ってあげるね!」
美味しいものを食べれば、元気になるでしょ。
パサパサした変な味の小麦のカタマリばっかりじゃなくって、違うものを食べたいよね。この間、図鑑で見た山菜を探しに行こう。
すっごい珍味だって。珍味って美味しいってことだよね?
思いついたら、即実行。早速、お出掛けだ!
「ボク、ちょっと出かけて来るね!」
部屋の箪笥に突撃し、服を着替えて、出発進行だ! 図鑑を入れた袋を背負い、ハサミを握りしめる。
「若様どこ行くの?」
「こんにちは! 山まで行くの!」
道で出会ったおばさんに挨拶して近くの山を目指す。
「坊ちゃん、こんな所でどうしたんだ?」
山の中で木こりのおじさんに出会う。
「母様のために山菜を取りに来たの! おじさん、知らない?」
図鑑を開いて見せる。
「おじさんは知らないなぁ。でも、暗くならないうちに帰るんだぞ。奥様が心配するからな」
「は~い! まだ暗くなるまで時間があるから、大丈夫!」
「う~~~ん」
勢い込んでやってきたけれど、中々見つからない。近所の藪で見つかるような山菜しか見当たらない。
思ったよりも、奥に入り込んでしまった。空の様子が見えないくらい気が生い茂っている。
何か、変な鳴き声も聞こえる。けど、母様のために頑張らなくっちゃ。
「これだ!」
ぐるっと巻いた変な葉っぱを見つける。
図鑑で見た珍味ってやつだ。目的のモノを見つけて、意気揚々と帰る。
お屋敷に戻ると、おばちゃんが待ちかねたように迎えれくれる。
「坊ちゃん。手伝いましょうか?」
料理法はおばちゃんがやっているのを見たことあるから大丈夫。
え~と、素材の美味しさを引き出すためには、下手に色々手を加えない方が良いんだよね。
小麦粉に水を入れて良くこねる。衣をつけて、天ぷらにしよう。
油が足りなくて、焦げてしまった。しかも、べとべとしている。油を布でふき取ってみたが、衣も一緒にはがれ、不格好になってしまった。
見様見真似だけじゃダメだった。う~ん、ガッカリ。でもでも、一生懸命作ったし、きっと美味しいよね。
母様は不格好なそれを食べる。ひと口、ふた口と食べて大きな天ぷらを完食してくれた。
「わたしのために作ってくれて、嬉しいわ。ありがとう」
嬉しくなって、小さな欠片をボクも一口食べてみる。・・・が、思わず顔をしかめて吐き出す。
「大丈夫?」
「にが~い。 うぅ~~っ」
全然美味しくない。みず~っ。
おばちゃんが水を渡してくれる。ゴクゴクと水を飲み干す。
「母様、ゴメンなさい」
しょんぼりしてしまう。
「作ってくれただけで、嬉しいのよ」
でも、でも、美味しくないのは食べたくないよね。
練習して、母様に本当に美味しいって言ってもらうんだ。