領主を継いだのでエビを注文してみた
時系列的には『ある兵士の話』のに続く話になります。
ふ~っ。結構時間がかかったけれど、やっと街道の整備の目途がついた。まあ、実際に大変だったのは強制労働させてる領民たちだろうけどな。
領主としての権力を駆使して領民を強制労働させたが、一応あいつらにも感謝しておくか。今までの作業風景が頭をよぎる。
--測量し、道幅の拡張区割りを実施させる。そして、地面の凸凹を均し、転圧させる。その作業の陣頭指揮を執るオレ。
--食材を倉庫から運び、薪を運び、領民たちの炊き出しの用意をするオレ。
・・・あれっ? 思い出したら、オレめっちゃ苦労してね!? いやいや! あいつらはオレよりもっと苦労しいているはずだ。うん、そうだよな。
過去は振り返るな! 余計なことを考えると悲しくなってる。楽しい事を考えるんだ!
これで当初の目的であるエビの取り寄せが出来るぞ。
商店に赴き、さくっと注文だ。でっかいエビを頼むぜ。
「はぁ。生きたままとは・・・難しい注文ですな」
渋い顔で商人が答える。
「金に糸目はつけないぜ」
サムアップして、もう一方の手で金をちらつかせる。親父の宝石箱を売り払った金があるから懐は暖かい。
商人の差し出してきた見積もりを見る。
・・・何だと?
べらぼうな値段だ。はっきり言って、自分で行って帰ってくる方がはるかに安上がりだ。自分一人で食べるなら5往復は余裕で出来る。
「エビを生かしたまま運んでくるとなると、輸送中にどれだけ死ぬか。それに、整備したと言っても途中で割れる生簀も出るでしょう。その分余計に運搬するので費用がかかります」
商人の言う事はもっともだ。
くそ~っ。金に糸目を付けないとはいっても、限度があるだろ。勿体なさすぎる。
「おばちゃん。オレは旅に出るぜ」
もう、自分で行ってやるぜ。ちょっと面倒だけどな。しかぁし! そんなのはオレの情熱の前には無意味だぜ。ちょっとやそっとじゃ、この熱はさめないぜ。
が、おばちゃんは覚めた目でにらんでくる。
「坊ちゃん、バカなこと言ってないで子供たちの世話を手伝ってくださいな。今までアタシらに任せっきりで、サボってたんですから」
いや、今まで街道整備をやってたじゃん。オレ頑張ってたじゃん。ちょっとくらい休んだって良いじゃん。
「昔仔犬を拾ってきた時に、今後拾ってきた生き物は責任を持って世話するって誓ったじゃないですか。坊ちゃんが連れてきたんだからきちんと面倒を見てくださいな」
ガキと畜生を一緒にして良いのか? というか、あの時の犬は世話する間もなく、逃げていなくなったよな。
「あのころの坊ちゃんは素直で・・・」
「分かった! ガキどもの世話をすればいいんだな。んじゃ、早速行ってくる」
くそ~っ。子供の頃の恥ずかしい話を知ってるって卑怯だよな。けど、年寄って、何かっていうと昔の話ばっかりだよな。
「何か言いましたか? 坊ちゃん」
年は取っても、耳は遠くなっていないようだ。
ーー情熱? そんなもの、蒸発してなくなりました。
あぁ~、いつか、そのうち、新鮮なエビが食いたいもんだ。