ある武者修行を夢見た少女の話
「あたし、武者修行に行きたい!」
結局、父様も兄様も本格的な剣術は教えてくれなかった。ならば、自分で剣の腕を磨かなければならない。
そう! 修行と云えば武者修行。父様も若い頃は各地を旅したというし、あたしも行ってみたい。
父様は「う~む」と悩んでくれるが、母様と兄様はあたしの話を聞くまでもなく大反対。
「あたしも、大きくなったし大丈夫だって」
えっへん、と胸を張る。兄様には全然かなわないけれど、同年代どころか年上の男の子も今なら瞬殺できる。
それでも、駄目? ・・・駄目らしい。
もう、家出するいかない!? 今まで貯めたお小遣いを確認する。・・・大丈夫、イケるイケる。
こっそり荷造りしていると、父様は「内緒だぞ」と綺麗な宝石の付いた首飾りをくれた。
「綺麗だね」
これを見せびらかせると、不心得者が近づいてくるから、それを返り討ちにして身ぐるみはがす。それで、路銀を稼ぐ。お尋ね者に当たれば報奨金まで貰える。父様が昔旅をしていた時に使った手だそうだ。この方法で、路銀は減るどころか増える一方だったらしい。
ーー父様、天才!?
新月のある夜、旅支度を詰め込んだ袋を背負って出発する。
絶対、すっごい剣士になって、父様や兄様をあっと言わせて見せるんだから。
見るモノ全てが目新しい。色々なものを見て色々なものを食べる。
けれど、思ったより、物価って高かった。
お小遣いが底をつき、父様の言っていた方法を試してみる。立ち寄った交易で栄えているという結構大きな街の裏通りを適当にうろつく。
「お嬢ちゃん、迷子かい?」
来た来た~。内心で喜ぶ。見た目下心ありそうなおじさんだ。
「うん。あたし道に迷っちゃった」
襲ってきたところを返り討ちにしてやる。
「お嬢ちゃんみたいな可愛い娘がこんな所に来ちゃ駄目だぞ。おじさんが表通りまで連れて行ってあげるからな。それと、そんな高価そうな首飾りは服の中に隠しておこうな」
手を引かれ元手通りまで来る。そこまで来るとおじさんは「じゃあね」と去って行った。
「・・・あれ?」
親切なだけだった。
盗賊にも出会わない。父様が各地を旅した時はいっぱい出たっていってたのに? おかしいな?
何故か、治安が良すぎる。良い事のはずなんだけれど、あたしは困る。悪者をやっつけて、路銀を稼がないと。
どうすれば良いの? まあ、最悪この首飾りを換金すれば良いや。
強そうな人の情報を集めていると風のうわさを聞いた。なんと、熊を素手でやっつける女傑がいるらしい。主目的は武者修行なんだし、その女傑に会いに行こう。
道場破りとかもやってみたけど、女だと舐められて追い返されてしまう。一度、強引に押し入ろうとしたが、街の警らの人を呼ばれてしょっぴかれる事態になったので、以後は自重している。
その情報を教えてくれた人の指す方向を目指す。自分の背丈を越える草をかき分け、気にせず進む。地元では山や森に分け入っていたから、大丈夫。どんどん進む。
しかし、半日ほど進んで気がついた。・・・ここ、どこ?
直線に突っ切って近道しようと山に入ったのが拙かったのか、自分の方向感覚を過信しすぎていたのか、見通しが甘かったようだ。
2日経っても道のミの字も見当たらない。絶賛、道に迷ってピンチ中だ。手持ちの食糧も尽き、何かしら現地調達しなくてはならない。今までは立ち寄る街で調達した保存食しか食べていなかった。
首飾りもいつの間にか落としちゃってるし、次の街にたどり着いたとしても、お金どうしよう?
とりあえず、実家でもやっていたように鳥を仕留めてみた。羽根を毟ってみるが、抜けない。料理する人は一体どうやって羽毛を取ってるの?
いいや、羽根ごと焼いちゃえば一緒だ。
鋭く尖らせた木の枝に刺し、たき火の中に突っ込む。表面が焦げて来たので、火から取り出し、かじる。
まだ生だ。あれ? どれくらい焼けばいいの?
更に薪を足し、火力アップ。そして今度は表面が炭になるまで徹底的に焼いた。けれど、中はぐにゅっとした食感。まだ生っぽい。
何で? ちゃんと焼いたのに生臭い。血がドロッとしている。不味い。食べたら、お腹壊しそう。
別の・・・木の実か何か食べられるものを探さないと。
う~ん。虫食いの木の実や鳥が突っついた穴だらけの果実しか見つけられない。
彷徨ってようやく、美味しそうな色の木の実が生っているのを見つけた。虫食い等もない。
かじってみる。
・・・美味しくないけど、不味くもない。微妙な味だ。
けれど、背に腹はかえられない。貪り食べる。生のお肉よりマシかな。満腹には程遠いが、とりあえず、ちょっと腹は膨れた。
小川も見つけたので、喉を潤した後川原をたどっていくと、道も見つけた。
運が向いてきたかも?
--半日後、お腹を押さえて道を往く。
「うぅ~。お腹痛い。しかも、お腹も減った」
もう、二度と怪しい木の実には手は出さないわよ。
パタリと倒れる。力が出ない。こんな所で野垂れ死になんて・・・
「何か、バカっぽい顔のガキが半目剥いて倒れているな」
「本当っス!? というか、何呑気に構えているっスか。大変っスよ! 大丈夫っスか?」
遠くで、何かの声が聞こえる。
ああ、最後なら、家族に看取られたい。かすんだ視界に太ったお腹が入る。いや、それより旨い肉が食べたいかも。
気が付くと、天井が見える。何処か屋根のある部屋に寝かされていたようだ。身体を起すと、毛布がぱさりと落ちた。
「ここ、どこ!?」
「あっ、起きました? ちょっと待って下さいね」
女の子があたしの叫び声にドアから顔を出して、すぐまた引っ込んでしまった。
戻ってきたとき、その女の子の手にはスープの入った皿。
「どうぞ」
あ~~~。美味しい。二日ぶり?の食事だ。胃に染み渡る。
「ありがとう」
全て飲み干してから女の子にお礼を言う。
「どこか行く当てはあるんですか?」
女の子が訊いてきた。
「え~と、ないかも?」
今ここが何処かも分からないし、どうすればいいのだろう? う~ん。とりあえず、今のところお代わりを催促するのが優先だね。
ーーあれっ? 何故か、同年代に混じって勉強させられている。そしてその後、数人の女の子たちに混じって針仕事や掃除をさせられる。
何故? どうして? こんなことしてるの? 状況に流されていて、ふと気づいた。
外を見ると、男の子らは剣の練習している。
え~~~。何で~~~。男女差別だ!! 羨ましい。
男の子たちに混じって剣を振り回しているとおっかないおばさんに首根っこを掴まれて連れ戻される。
おかしい? あたし身のこなしにちょっとした自信があったのに、微妙な力具合で引きはがせない。
「アンタは勉強もサボったでしょ?」
あっ、ばれてた? 良く見てるわね。けど、別にいいじゃない。
こんな役に立たないことやってらんないわよ!
せめて、料理なら覚えてあげても良いけど。
「そんな不器用で何が出来るってんだい?」
う~~~っ。あんなチマチマした作業はやってられない。剣と包丁は違うのよ!
「嫌なら、出て行きな」
けれど、ご飯は美味しいし、出て行くのは・・・う~ん。 もうちょっと後でも良いかな?
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