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ある支店長部下の話


「税収方法を変えるぞ!」

 領主様が宣言する。


 オイラは「はぁ、そうですか」という言葉しかない。オイラみたいなしがない商人は御上が決めたことに従うだけだ。

 が、同僚である幼馴染みの彼女は張り切っている。別に担当者がいるんだから任せればいいのに。

 オイラはそんな面倒なことには首を突っ込まず、今日も店番だ。


 よく店に来るオバサンが言うにはもう一つの商店は経営が結構苦しいようだ。

 競争してシェアを独占しようとするから面倒なんだ。別の商品を扱って仲良く商売すれば良いのにな。

 彼女にそう言ったら怒られた。

 商売は喰うか喰われるかの世界らしい。そんな殺伐とした世界嫌だぞ、オイラは。


 税収方法が決まり、公布されるとその商店の商人は青い顔をする。儲けに比例して徴収される方式なんだから、経営が苦しければむしろ安くなるんじゃないのか? それとも実は儲かっているのか?

「いいや。一時持ち直したみたいだけど、もう無理さね。アンタに注文した方が細々とした対応してくれるし、こっちの店の贔屓が増えてるしね」

 細々した対応って・・・、別に普通の対応したしか覚えはないけど?

 そう言えば、確かにウチにこのオバサンを始め、来る人は増えている。近所の人が集まる集会所の一種になっている感も否めないけれど。


 商人は隣の領主の所にも行ったようだ。だけど、余所の領地の経営には口を出さないのが通例だから、どうにもんらないって。

 何でオバサンは知っているんだ?

「まあ、どうでもいいさね。それより、とうとうあの店が売りに出す様だよ。どうだい? ちょっとここも手狭になってきたし、買ってみないかい」

 手狭って言われても、それって頻繁に集まってくるオバサンたちのせだよな?

 それにさすがに、商売敵だったオイラたちには売ってくれないだろう。

「金さえ用立ててくれれば、あたしらが代わりに買っておこうか?」


 ・・・じゃあ、お願い。店長にお伺いを立ててOKが出たので頼む。

 オバサンは即日買収してきた。しかも、用意したお金の半額を返してきた。

 どんだけ、値切ったんだよ?

 楽しかったよ、とオバサンはケタケタ笑う。

 ・・・正直、おっかねぇ~


 買い取った店を2号店として店長に就任した幼馴染みは間にあるが宿屋の所有している倉庫にも目を付けた。

「宿屋の店主はカタギじゃないから手を出さない方が無難だよ。もし、どうしても買い取りたいってんなら、2号店の十倍の金を用意して、引き渡しまでの期間を置きな」

 別のオバサンが情報を提供してくれる。

 カタギじゃないって、何者だよ? あの人は・・・ 見た目はそんな危険な人に見えないのになぁ。

 急ぐとオイラや幼馴染みが危険にさらされる恐れがるらしい。

「そこの家は買おうとするとふっかけられるから割に合わないって」

 彼女は割に合わないと分かると、あっさり諦める。




 その後彼女は強引に商売の幅を広げ、とうとう王都に支店を構えるまでになった。王都支店の店長は彼女だ。

「貫禄でてきたな」

 オイラが褒めると、睨みつけてきた。褒められてるのに慣れていないから、照れているのかな?

 けれど、一方で恨まれていないか心配だ。


 地元商品を取り扱うと言っても、そんなに量はないので色々なものを取り扱う。

 今の主力商品は料理道具セットだ。こんな暴利商品オイラなら絶対買わないが、新しい料理レシピが出る度に買いに来る常連様もいる。

 オイラは同じ料理道具が複数あっても、不要だというお客様のために枡や鍋の引き取りを始めた。他の店に売るよりは色を付けているけれど、暴利は変わらない。


 地元に帰った時に先輩兵士に相談してみる。久しぶりに兵士の訓練に混ぜてもらいながら他の話もする。

「成るようにしか成らないっス。ほら、ちゃんと狙うっス」

 なかなか当たらない。のらりくらりと躱される。相変わらず、避けることだけは上手い。

 しかも、相談した甲斐がない。

 全然練習にならないので勧められて最近来た自分より小っちゃい女の子の相手をする。幾らなんでも、バカにされてると思って相手をしたが、負けた・・・

 確かに最近剣なんて握ってなかったけれど、オイラってもしかして才能ないのか?

 先輩兵士がニヤニヤしているのがムカついたので、あることないこと近所のオバサンに言い付けてやった。

 彼がどうなったのか知らない。ーーええ、知らないとも。

 なお、オバサンたちに反した結果も「今のところは様子見」だった。




◇◇◇

 幾つもの季節が巡り、本店に定期報告に来ることになった。各地を飛び回っていた本店店長はもう腰を落ち着けている。王都支店の経営は表面上は何事もないが、水面下ではヤバそうな雰囲気が漂っている。幼馴染みは気にしていないが、そのことも含めて報告した方が良いだろう。


 オイラたちが本店を訪れたとき、そこには領主様の娘が来ていた。

「お花の種を買いに来たの」

 人懐っこくオイラに話しかけてきたのはまだ齢一桁の長女の女の子だ。

「偉いね~」と頭を撫でると嬉しそうに微笑む。

 ーー娘か~。ちらりと幼馴染みを見ると、領主様の次女と話している。

 ・・・無理だな。自分の詮無い妄想に首を振る。




 --半年後、隣領地にある街が自然災害で大きな被害を受けるという事態が起こった。

 その情報を得た彼女はオイラを連れて現地に乗り込んだ。そして、ため込んでいた資金を投じて復興に手を貸す。

 自分からやっているくせに何故かブツクサ文句を言っている。けれど、王都で仕事していた時より生き生きしているな。一から街を作るという作業が楽しいようだ。


 一方で彼女が抜けたことで王都支店の売上げは縮小し、無難な経営にシフトしていった。

 その後、その土地の領主に先んじて尽力した功績は領主夫人の目に留まり、オイラたちが勧誘されるのはまた別の話である。


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