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ある支店長の話


「税収方法を変えるぞ!」

 領主様が宣言する。


 はあ? 何で? もう一つのあの商店を潰すため? そんな事しなくても、潰すんなんていつでも出来るのに。

 でも、こっちは権力者。税を決める側だ。幾らでも自分たちに有利な風に変えられる。領主様も結構えげつないこと考えるわね。

 ここの領地は農家に対しては他に比べ税が大幅に安い。しかし、それ以外の業種に対しては他よりちょとだけ安いだけだ。まあ、税が高かったらこんな田舎に商人なんて来ない。

 領地外からは今までもあまり来ないけれどね。主要街道もやっと全区間整備が終わったばっかりだし。やって来る商人はウチの店か、近所の商店のどちらか2店に関連した人だけだ。


 領主様は新しい税収方法を儲けに比例して増えていく所得税にしたいようだ。

 領主様は方針だけで、実際の細かいことは屋敷で働いている担当者と詳細を詰めていく。

 私はがっぽり取っちゃえば、と思うが話し合ってるこの担当者は細かい。ウチは領主主導の店だから税を徴収しても結局、帳簿上だけの話だ。しかし、地元で露天商をしているような領民を圧迫しないようにちゃんと決めるようだ。


 幾度かの折衝の上、領主様の承認も受けた。ならすぐにでも始めよう決めよう、と思っていると領主様だけでは勝手に税を変えられないらしい。

 領主様のくせに。街長と隣の村長の承認も得なければならないようだ。面倒だけど、この制度・・・ 領主様が能無しだった場合の抑止策としては有効なのかな?

 問題なく決まったが、施行するのは来年からになってしまった。



「この地から商売人が消えていきますよ」

 納めなければいけない税が一気に上がる商店の人が文句を言ってくるが、気にしない。領主様も突っぱねるし、彼の店で扱う商品はウチの店でも扱える。最悪、隣街まで行けば揃えられる。

 それでもぐちぐち文句を言う。


 やるなら、受けて立つわよ! 全面戦争も辞さないんだから!

 ・・・税を変える前に商人が撤退していった。


 あれっ? 私の意気込みは・・・?

 部下がどうやってか、さっさと撤退した店舗を買収してきた。

 偶には役に立つじゃない!?


 店舗は流用して、2号店の開店よ! 店長は私だ! 本店よりも大きい。

 まあ、ほぼ隣だし、やることは変わらないけどね。でも気分が違うよね。


 間に宿屋の自宅兼倉庫があるから、それも買収すれば楽にならない?

 宿屋の主人に交渉に行こうとすると、部下に止められる。

「そこの家は買おうとするとふっかけられるから割に合わないって」

 ふ~ん。そうなんだ。

 まあ、そんなに高になら割に合わないかも。店舗にするには建て替えなくちゃならないし、無理に買う必要もないか。




 その後も順調に商売の幅を広げ、とうとう王都に支店を構えた。王都支店の店長は当然、私が就任した!

「貫禄出てきたな」

 ずっと付いてきた部下がぼそりと言う。

 ・・・それって、暗に太ったって言いたいの? ぶっ殺すわよ。


 領地の作物も料理レシピを餌にしなくてもブランドとして売れている。けれど、それだけじゃやっていけないので地元領地に拘らず様々なものを売買する。

 だが、主力商品は料理道具セットだ。幾つかの料理レシピを添付し、鍋や計量枡一式を纏めたお手軽料理セットだ。

 近隣の契約職人に作ってもらった物がレシピを付けるだけで仕入れの10倍の値段で売れる。

 新しい料理レシピは本店に報告に行くときに元同僚から仕入れることにしている。この商品はぼろ儲けで、利益はうなぎ上りだ。

 ただ、幼い頃のような充実感を感じなくなってきた。



◇◇◇

 幾つもの季節が巡り、本店に定期報告に来ることになった。部下も一緒だ。

 そこには領主様の娘が来ていた。

 部下は長女のまだ十歳に満たない女の子と話している。そう言えば彼は異性との噂とかなかったけれど、まさかロリコンじゃないでしょうね。

 私の方には更に年下の次女の方の娘が近寄ってきた。ぶすっとした表情だが、目だけはこちらをじっと見つめてくる。何故か、心の奥底まで見通すように感じる。・・・何となく苦手だ。


「お嬢ちゃん。何か用かな?」

 幾多の商人と渡り合った私だ。雰囲気だけでこんな子供に臆することはないはずだ。こっちから水を向ける。


「ある街の復興する気ない?」

 ーー予想外の言葉だ。

「・・・復興?」

 どういう意味だ? 復興と言うからには何かしらの被害を受けたり衰退した街があると云う事か? でも、そんな話聞いたことはない。いづれにしても、子供が発する言葉ではない。

 いや、子供の空絵事。領主様の娘だし不本意でも付き合ってやんないと。

「へ~、どこの街かな?」

 娘が口にしたのはここに来るまでに通った土地の名だ。当然、何の被害も受けていない。元々繁盛という街でもないが、衰退もしていない。けれど、彼女の話は続く。

「財源は、出世払いでお願い」

「お嬢ちゃん、出世するの?」

「貴方の出世した分」

「・・・」

 空絵事でも、それは酷い。


「元同僚の手を煩わせることはない」

 そう言って、新作の料理レシピを書いた紙を手渡してくる。

「父様は貴方がこれをどこに売ろうと関知しない。ただ、私個人としては出資してくれると有り難い」

 子供のくせに私を脅してくるのか? けど、何のために?

「その街が半壊するのは半年後の予定」


 ・・・はぁ~? 預言者のつもり? この娘の考えが、意味が、さっぱり解からない。



 なお、幼馴染みの男の子は既に料理レシピの拡散について領主に聞いています。その答えは「好き勝手にしろ」でした。

「むしろ、広めれば誰かが改良してもっと美味しい料理が出来るだろ。そうなれば嬉しい」

「はあ、そうですか。つまりレシピを売っても気にしないってことですね」


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