ある見習い男商人の話
店長不在の領主直営店は幼馴染みの女の子が主体で運営することになった。彼女はやる気になっているようだ。
オイラに一任されても困るけれど、大丈夫か?
「今のところは堅実な商売を心がけて様子見かな」って言っているけれど、何か仕入れ品を物色している。
そんな頑張らなくて良いのに・・・
オイラはそんな彼女を横目に店に来たオッサンやオバサンの世間話に興じる。
そのついでに、商品のラインナップの相談を受ける。二つ隣の商店で手に入らない品はたまにくる店長のような行商人から買うか、隣街まで行く人に頼んで買ってもらっていたようだ。
例えば手拭。日ごろ使うのだから高い布じゃなく、安い布の物はないだろうか。
刃物の取り扱い数も少ないようだ。包丁や鎌などはあるが、カミソリのような小さい刃物は扱っていないらしい。そういえば、この街って鍛冶屋あったっけ?
まあ、兎に角お客様なんだから、遠慮することはないよ。小さなものでも喜んで扱うよ。
店長に仕入れるように言ってみよう。
季節が一巡し、また王都へ作物を売りに行くことになった。メンバーは前回と同じ店長と幼馴染みの女の子だ。
まずは、彼女と前回契約した食堂に顔を出す。何故か拍子抜けするほどあっさり決まる。それどころか次回の予約契約まで決まる。新しい店を新規開拓する事も無く全て売れてしまった。
こんなあっさり決まって良いの? 去年の苦労は何だったんだろ?
彼女に聞くと、領主様の考えた料理を教えると買ってくれるらしい。
へ~、前と同じでよく分かんないけど、結局領主様って凄いって解釈で良いんだろ。
さらに翌年も売りに行ったが、取引を希望する店が多く、分担して行くことになった。彼女は新しい取引店、店長とオイラは既存の取引店だ。
「オイラは料理なんてできないぞ?」
「そのレシピを渡せば済むから」
彼女が作った試供料理とレシピを手に作物を売りに行く。
一人で大丈夫か?とも思った。しかし、心配事を口に出すと蹴られるのでやめておく。オイラだって学習するのだ。
前日取引した食堂の店主が文句を言ってきた。
レシピの通りの分量で作ったのに、味が違うというのだ。
「はぁ? そんな筈ないでしょ?」
そんなこと言っても、実際に文句を言っているんだから、仕方ない。オイラと店長では料理の詳細は解からないので彼女を連れて皆でその店に向かう。
「こいつの腕が悪いんじゃないの?」
彼女は憤慨して、文句を言ってきた店の料理人を貶す。
「猫かぶり忘れて、素が出てるぞ」
実際に作っているところを確認する。
「屋敷で使ってるのより、この計量枡小さくないか?」
料理自体はしないが、彼女が料理を作ってくれた時に後片付けをやらされている。持った感じが違う。
計量枡は規格が決まっているらしい。
へ~、そんなの初めて知った。じゃあ、何でそれを使わないの?
「いや、それは一応規格の枡のはずだ」
店長が口を挟む。
計量枡の規格容量は決まっているはずだが、実情は諸々の事情で違うらしい。
決まっているのに、何でわざわざ別のサイズの枡を作ってるんだろ?
取り敢えず、手持ちの枡を渡して今後これで量って貰うようにして、何とか解決した。
彼女は早速商売の計画を立てている。今度から計量が容易になるような枡や鍋を販売するようだ。
確か、オイラの出身村に先輩兵士のあんちゃんの知り合いの木工職人がいたはずだ。
あと以前、カミソリを仕入れる時に確認したけど、鍋を大量に作れる鍛冶屋はウチの領地にいないぞ。隣領地の鍛冶屋に頼まないと駄目じゃないか?