ある打算的な女の子の話
ある日、こんな噂を耳にした。領主様の元に売られれば美味しいものが食べられ、勉強もできるらしい。
そんな信じられないことがあるのかな? 去年領主様に売られた家の子供がそんな生活をしているらしい。
私は農家の次女だ。こんな家じゃ将来なんてたかが知れている。噂が本当なら、そこの方が良い生活が出来るんじゃない?
こっそり領主様のお屋敷に行って、そこで生活している子に話を聞いてみる。
--本当みたい。良いことを聞いた。
早速、ママに領主様へ売ってくれるようにお願いする。
「なんてこと言うの!? この子は・・・」
私の言葉にママは涙ぐむ。
え~、私変な事言った? 家の役に立たない子供の食い扶持は減るし、私は今より良い生活だ出来る。
良い提案だと思うけどな~?
パパも交えて毎日お願いする。当然夜中も、朝も構わずだ。ママは寝不足で顔がひきつり、姉は虚ろな表情を浮かべる。
根負けして、パパは領主様に連絡してくれる。やった~!
期待に胸ふくらませ領主様と一緒に行こうとしていると、懐いている近所の男の子が何故か涙目だ。翌日、その子が後を追ってきた。
私の幸せの分け前を狙ってるのか? こいつ、実は見かけによらず目ざといわね。
まあ、手下の一人がいても困らない。ボンクラでも何かの役には立つかもしれないし。
領主様のお屋敷で美味しいものを食べて、上等な服を着て、勉強をする。話に聞いていた通りだ。
よ~し。いっぱい勉強して、早く成り上がってやるんだから。
「ふんっ。オマエみたいなヤツは信用しないからな!」
ボンクラが領主様に暴言を吐く。
「領主様になんてこと言うのよ!」
あんたの所為で私の領主様への印象が悪くなったらどうするのよ!
付いてきた子分は偶に足を引っ張ろうとする。鬱陶しい。コイツやる気あるの?
余計な邪魔だけはしないでよね。
ここでは勉強だけじゃなく料理や掃除、礼儀作法も学ぶ。
勉強の時間以外は率先して屋敷を取り仕切っているおばさまに手伝いを買って出る。当然、先輩にも好印象を残すように取り入る。
喋る時も敬語も心掛ける。猫かぶりも上手くなった私は自分の屋敷でも出来る子としての地位を確立した。
最近の悩みは、頃合いを見てこんな田舎を抜け出して独立するのと、ここで高望みは出来ないけどずっと安定した生活を送るのは、どっちが有利だろう?ということだ。
◇◇◇
ある時、領主様の命令で行商人と一緒に王都へ作物を売りに行く人を選ぶことになった。
私はすぐに立候補した。だって、凄いチャンス!
王都行けるんだもの。他の子は知らないところに行くのに尻込みするけど、・・・王都だよ? すっごい都会だよ! 行きたいでしょ!? 何で皆行きたがらないのかな?
さっぱり他の子の気持ちが分からない。
「大丈夫なのか?」
兵士として働き始めた下僕がボンクラの癖に一丁前に心配してきた。
「心配なら、あんた付いて来なさいよ」
護衛に兵士を一人つけるらしい。他の人よりはこの下僕の方が行った先で自由にできるかもしれない。ウザい兵士のあんちゃんだけはごめんだ。
反対もなく、護衛は彼に決まった。
「宜しくお願いします」
行商人に笑顔であいさつする。こういうのは第一印象が大切。
下僕が変な顔をしてきたので、こっそり蹴ってやった。
王都までの旅路はトラブルもなく順調なものだった。旅の途中で様々な情報を聞きながらの有益な時間だった。やっぱり色んな所で見聞を広めないと大成は出来ないかも。
王都に着いたら、まずは相場の確認だ。行商人とおまけを連れて店を回る。が、やっぱり無名の土地の作物では買い叩かれてしまう。
う~ん。これでは輸送の手間や税を考慮すると、途中の街で売っても利益は変わらないかもしれない。寧ろマイナスかも?
行商人は店の言い値で売る気だ。実に勿体ない。
何か、高く売りつける良い手はないか。こんな所で挫けるようなら、成り上がりなんて夢のまた夢だ。
王都の食堂でご飯を食べながら悩む。初めての王都ということで奮発してちょっと良い所の食堂に入ったが、思ったより美味くない。
領主様の作る料理の方が断然美味しい。それにちょっとだけ劣る私でさえもこれ以上の料理が苦も無く作れる。
目の前の下僕が何も考えず、能天気にご飯を食べているのがムカつく。あまりにも腹が立ったのでテーブル下で蹴ってやった。
ちょっとだけ、溜飲が下がった。
ひと晩うんうん唸って、ひとつのアイデアをひねり出した。
「やってみたいことがあります」
と言って、契約書のひな型と少量の売り物を行商人から掻っ攫う。そして、下僕をお供に作物を売買している問屋ではなく食堂を巡る。
「この店を繁盛させる目玉料理・看板メニューにご興味は有りませんか?」
最初と2件目は門前払いだったが、あまり流行っていなそうな3件目の店主は話を聞いてくれた。
「試しに作ってみろ」と言われたので屋敷で培った料理の腕を披露する。ただし、材料は持参したものを使って、尚且つ味付けの調味料も事前に買ってきたものを使い隠すように投入する。
「・・・美味いな」
その言葉にニヤリとする。
「さて、この料理の製法の詳細をここにサインするだけで、お教えできます。今なら、さらに別の料理もお付けします」
見せた契約書は持ってきた作物の購入契約だ。法外な値段はつけていない。むしろ、問屋を経由していない分ちょっと安い。販売量も無理のない範囲のはずだ。
更に何軒か回って、そこそこ客の入り店の方が喰い付きが良い事が判った。流行ってる店は自信があるのか門前払いで、流行っていない店は料理には興味を示すが、作物の販売契約の話になると及び腰になる。
一日回って、2件の販売契約が取れた。私って凄くない!?
よ~し。明日から張り切っちゃうぞ!
3日かかったけど、全部売れた。レシピはまだまだ出し惜しみしているから、次来るときはもっと売れるかも?
私ってば天才~!?
行商人が吃驚していたけれど、私の実力からしたら当然だからね。
あれ? そう言えば、領主様から王都で新しい料理があったら報告するように言われてたっけ?
忘れていたけれど、私の印象に残っていないってことは目新しいモノは無かったって事でしょ。
「有りませんでした」って報告しても問題ないよね?
下僕は何で覚えていないの!? 相変わらず、全然役に立たないボンクラね。
領地に戻って店を任された筈の元行商人は店主になったけれど、相変わらず自分で飛び回っている。
「いや~、やっぱり店にずっと居座ってるのは性に合わなくってね」
そう言ってくるけれど、チャンスだ。この店を好き放題出来る。いや、悪事を働くつもりは毛頭ない。自分の手腕を思う存分ためしてみたいだけだ。
仕入れから販売まで私の手で実現できる。
まずは、あれとこれを仕入れよう!
みなぎってきた~。楽しくなりそう。